第659話 親父には最強の刀を持たせよう

 翌日。


 親父の刀を作るお手伝いをしなければならなくなったので、学校の仕事は休む事となった。


 ゴーレムの授業に置いていかれるのは痛いけど、まあどっちにしろ火魔法しか使えない俺が置いていかれようが大した問題では無いだろう。


 親父も仕事をしている場合ではなくなったので、ダンジョンの送迎はボヤッキーに頼んだ。親父は道路公団の仕事もやっているのだが、こればかりは代わりを任せられる人材がいないので普通にお休みするしかない。


 グミも親父の秘書みたいな仕事をしていたんだけど、突然休みになってしまったので、刀作りの見学をするそうだ。


 一応『地味な作業だから見ていたって面白くないぞ?』って言ったんだけど、飽きたらこっそり抜け出すとのこと。


 というわけで、親父とグミを連れて王室ゾーンにある作業部屋に入った。



「こっちの作業部屋には初めて入ったな」

「私も初めて!」

「向こうだとドワーフ達が入って来るから集中出来ないだろ?」

「まあ、本気で刀を打つ時は邪魔が入らん方がいいのは確かだが・・・」


 親父が部屋を見渡し、変な顔をした。


「おい小烏丸。そこで鍛冶をしていた形跡はあるが・・・、道具が全然足りなくないか?ふいごも火かき棒も無いし、そもそも火炉が無い」

「あ~、俺にはそんなもん必要無いんだわ」

「はあ!?どういうことだ?」

「そもそも火炉があったところでミスリルを加工するには火力が足りん。火の魔法を使って炎の限界を超えなければならないんだよ」

「魔法か!」

「というわけで、親父一人じゃ無理だから俺が手伝いに来たんだ」

「なるほど。しかし普段と違うやり方では上手くいかんかもしれんぞ?」

「失敗したらやり直せばいいだけだ」



 マジックバッグから『ミスリルのインゴット』を取り出した。


 ・・・いや、違うな?


 刀を持った親父の強さは間違いなく俺以上だ。そして誰よりも頼りになる父親だからこそ、普通の兵士のように段階を踏んでランクアップさせるなんて無意味だ。


 地上最強かもしれない逸材を遊ばせておくなんて逆に勿体ないだろ!

 最強の武器を持たせておけば、いざって時に必ず助けになってくれるハズ。


 ミスリルのインゴットを戻して、『オリハルコンのインゴット』を取り出した。



「それが噂のミスリルか!輝きが半端ねえな!」

「いや、これはオリハルコンだ」

「えええええ!それがオリハルコンなの!?すごいすごい!!」

「それも聞いたことのある名前だな!」

「俺やミスフィートさんが所持している刀がオリハルコン製だ。まあ簡単に説明すると、この世界で最強と言われている金属だな」

「はあ!?大名と同じ武器を作るのは色々とマズイだろ!軍の功労者ってんならともかく、俺は新参者だぞ!」

「大丈夫なの?」

「所持する人物が、俺が誰よりも信頼している親父なのだから問題ない。っていうかさ、俺よりも強い人を遊ばせておくなんて勿体ないだろ!最強の刀を持たせる理由は一つ。その力で仲間を守って欲しいからだ」


 それを聞いた二人がハッとした。


「お義父さんって小烏丸よりも強いの!?」

「んーーー、どうなんだ?昔は俺の方が強かったのは間違いないが、度重なる実戦で小烏丸も相当成長しただろうし、魔法も使えるわけだろ?」

「魔法アリなら俺の勝ちかな?でも純粋な刀の腕だけならば親父の方が上だ。ダンジョンでがっつりレベルを上げた後なら、魔法アリでも俺が負けるかもしれん」

「へーーーーーーーーーー!お義父さん凄すぎだよ!」

「とは言ってもだ、俺はこの年まで平和な国にいたから人を斬った事が無い。実戦で殺れるかどうかわからんぞ?」

「あー、それは確かに気になる所ではあるけど、仲間が殺されそうになっているのに動けないような甘い男じゃないだろ?たぶん大丈夫だ」


 少なくとも俺は大丈夫だった。まあ相手が腐れ外道だったおかげかもだけど。


「よし、始める前にこの防護服に着替えてくれ。あと手袋とマスクもだ」

「わざわざ着替えるのか?」

「オリハルコンを熱するにはミスリル以上の温度にしなければならないんだ。熱耐性の服と手袋を着けていないとマジで火傷する」

「マジかよ・・・」



 親父が防護服に着替えて、謎の不審者へと変貌した。



「おい!マスクってフルフェイスの方じゃねえか!!」

「肌が露出していると火傷するんだって。下手したら眼球も溶けるぞ」

「嘘だろオイ!?お前は・・・そういや変なマスクを着けていたな」

「変なマスク言うなし!何度もピンチを救ってくれた伝説のマスクなんだぞ!」

「でも口が出ているぞ?」

「ウム。最初たらこ唇になりかけたんで、顔に熱耐性を付与した白い布を巻くようになった。首まで防御出来る優れモノだ!」

「ワハハハハハ!なんか笑えるな!」


 顔に布を巻いていると、俺達が眼球が溶けるとかたらこ唇になるとか話してたもんで、グミが部屋の隅っこに避難していった。


「んじゃそろそろ始めますか~」

「変なこと言うから緊張してきたじゃねえか!」

「怖かったら最初ちょっと離れているといい」



 親父が少し距離をとったので、オリハルコンのインゴットを金床に置いた。



「じゃあ始めるぞ。高温!!」



 親父がどれほどの刀を完成させるのか楽しみだな!

 

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