第643話 小烏丸vsカトレア

 

「あ、小烏丸さんにルシオ!」



 食堂に入ると、入り口付近のテーブルにいたボヤッキーに話し掛けられた。


 その横にはボヤッキーの恋人であるドロシーちゃんが座っていて、いつものようにヒューリックとジルも一緒で、ヒューリックの恋人であるルミナも座っていた。


 これだけだとジルだけ恋人がいないように思われそうだが、実は幼馴染に美人姉妹がいて、その両方を嫁にしようとしているうらやまけしからんヤツなのだ!


 昔は男臭かったテーブルだったのに、すっかりリア充になりやがって・・・。

 まあミスフィート軍の武将ってだけでモテまくるだろうけどな。


 でも逆に強すぎる女性陣はモテないのかもしれない。


 高嶺の花すぎて、一般兵からすると話し掛けるのも勇気がいるだろうし、京の都で暮らしてる一般市民なんかは道を開けるような状態だろうから。


 それで俺やルシオに行くしかなかったって裏の面もあったりするのかも。自分を安売りしないなら、女性比率の高いこの軍では選択肢が限られてるもんな。



「噂は聞いてますぞ!モテる男はツラいね!」


「いやいやいやいや、女連れのくせに何を言ってるんだチミィ!」

「ちょっと待って下さい!もしかして僕の噂も流れてるんですか!?」


 ルシオの言葉に全員が頷いた。


「さっきもピピンらに惚気られましたわ~」

「なんかすごくムカついたよね!!ルシオが格好良いとか、こういう仕草が可愛いとか、もうそればっかなんだもん!」


 話を聞いていたルシオが、一瞬で真っ赤に茹で上がった。


「しかしそれ以上に小烏丸殿の噂がぶっ飛んでいて、凄まじいの一言ですな!」

「すでにお嫁さんの数が数十人に達したとか、まだまだ増えていくだろうとか」

「俺の読みでは、100人超え確実だと思うんですけどね!」


 ・・・大丈夫だ。俺は全然大丈夫だ。

 だってこんなの噂にならないわけねーし!


 もう軍全体で噂の的になるのは仕方ないと完全に諦めている。問題なのは一般市民にまで噂が広まらないかどうかなんだが、やっぱり広がるだろなあ・・・。


「ルシオくんのお嫁さんも、これからガンガン増えていくと思うわよん?」

「だよね~!ピピン隊だけで終わるわけないって!」

「惚気れば惚気るほど、密かに恋心を抱いてる子達が焦って行動に移すでしょうに、本当にアホよね~」

「顔も良いし、ミスフィート軍の中核を担う参謀だよ?そんなの女の子達が放っとくわけないって!」


 おお!ウチの嫁さん以外での女性視点では今そんな感じなのか!

 なるほど、確かにルシオ派の女の子達はかなり多そうだ。これは参考になるぞ!


 なんか少し悔しい気もするけど、俺に一点集中するのもどうかと思ってたから、嫁が分散するのは有難いっちゃ有難いな。



「・・・・・・え?僕のお嫁さんって、まだまだ増えるのですか!?」



 それを聞いたボヤッキー達5人は、当然のようにウンウン頷いた。



 バシッ


「なあに、勝てばいいんだよ勝てば!受け身になっていてはダメだ。とにかく攻め続けろ!一人ずつ撃破していけば自分の時間も作れるようになるぞ!」


「だから夜伽を戦闘みたいに言うのやめましょうよ!!」



 ルシオも俺の様な生活になると思うと、仲間意識が芽生えて何だか楽しくなってきたぞ!俺だけ嫁ラッシュかと思ってたのに、そうかルシオもか!


 とまあそんな感じでチェリン戦での心の傷を癒すことに成功した俺は、精の付く料理で体力も完全復活させ、本日の対戦相手であるカトレアの部屋へと向かった。






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 ガチャッ



 部屋に入ると、ベッドの上で正座をして目を閉じているカトレアの姿が見えた。

 『なるほどこのパターンか』と考えながら、ドアを閉めて彼女に声を掛ける。



「長い間待たせてしまって本当にすまなかった。俺が変な魔道具で北の果てに飛ばされていなければもっと早く結ばれていたかもしれないけど、どっちみち聖帝軍を一掃するまでは結婚なんて無理だったかな?」


 カトレアの側まで歩いて行くと、ようやく彼女が目を開いた。


「そうですね。妊婦では戦闘など出来ませんし、京の都周辺から聖帝軍を一掃した今こそ最大の好機と思われます。皆一斉に懐妊すると大幅に戦力が低下してしまいますが、どうせいつかはこうなるのですから、何かあったらその時はその時です」


 流石はカトレアだ。恋愛感情を優先するのではなく、大勢を見極めて今が最高のタイミングだということで、自分も結婚騒動に便乗したのかもしれない。


「同感だ。ただ戦争ばかりしていても本当の幸せは掴めないからな。俺達が歩んできた道のりは波乱万丈だったけど、どこにも負けない戦力と平和を愛する心を次世代の子供達に受け継がせることで、ようやく盤石なモノとなるんだ」


「その通りです。そして今の私達に足りないのは『次世代の子供達』です!」



 そこまで真面目な顔で話した後、カトレアと顔を見合わせてプッと噴き出した。



「・・・とまあ、崇高な目標に向かって突き進んでるような格好良い会話をしてしまったけど、結局は子作りしようって言ってるだけなんだけどな!」

「でも言ってる事は間違ってませんよ?ただ今の会話には『夫婦の愛』が抜けていましたね」

「確かに!でも安心してくれ。ほんの少しだけ嫁の人数が多いので説得力は無いかもしれんけど、昔トラネコ城で『おもてなし』された時から、カトレアに好意を持っていたことは事実だ」

「私はもっと前から小烏丸が好きでしたよ?そうでなければあんな事はしません」

「そう、だよな・・・」


 尾張っ子だから皆こんなんなのかって考えてた時もあったけど、今にして思えば普通に恋愛感情から起こした行動だよな。俺もアホすぎるわ!



「おっと、少し長話をしてしまったな。そろそろ始めようか!」



 カトレアが三つ指をついて、深く頭を下げた。



「心からお慕い申し上げます。今宵は宜しくお願いします」



 なにィ!?カトレアって、こんなに可愛い一面があったのか!

 うおおおおおーーーーー!漲ってきたーーーーーーーーーー!!



「最初から全力で行くぞ。小烏丸、いざ参る!」



 チェリンには敗北したが、今日の俺ならいけるハズ!

 やってやるぞ!失われた自信を取り戻すんだ!!

 

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