第642話 小烏丸vsチェリン

 

 ガチャリ



「うおっ!!」



 部屋に入った途端チェリンに抱きしめられた。



「やっとだよ!やっとこの日が来たんだ!」

「ちょ、ちょっと待った!せめてドアくらい閉めよう」



 バタン



 ふぅ。

 まさか部屋に入った瞬間抱きしめられるとは思わなかった。


 チェリンの好意にはだいぶ前から気付いていたが、当時はミスフィートさんのことしか頭に無かったから、その想いに応えてあげられなかったんだよな。


 ・・・そうか、俺はチェリンと結ばれるのか。



「チェリン、長い間待たせてしまって本当にすまなかった。だがその分精一杯の愛で応えたいと思っている」

「本当に待たせすぎよ!でもどちらかというと悪いのは隊長ね。彼女がいつまで経っても自分の気持ちに気付かないから、私達だけじゃどうしようもなくてさ~!色々と大変だったんだよ?」

「その辺の話は何となくカーラから聞いてるけど、俺は俺でミスフィートさん中心にしか考えられなかったし、何というか・・・皆不器用だな」

「ふふっ、そうね」


 男なんてその辺にいくらでもいるのに、一切の妥協をせずに本命だけを追い続けるって凄いことだよな。


 まあ俺にも当て嵌まることなんで、この事を口に出して指摘すれば余裕で論破されてしまうんだけどさ。


「本当は話したい事が山ほどあるんだけど、時間がもったいないからそれはまた今度ゆっくりね?さあベッドに行きましょ!」

「そんなに急がなくても、朝まで時間はたっぷりあるぞ?」

「朝までしか時間が無いの!今夜絶対に孕まなきゃいけないんだから!」

「お、おう・・・」


 これは逆らっちゃダメなヤツや!


「小烏丸がド変態の性豪だってのは聞いてるわ。でも私は全部受け止める覚悟だから全力で来て!」

「本人を目の前にしてド変態言うなし!!だがその覚悟は受け取った。俺の持てる技の全てを出し尽くすつもりだ。今日は本気でいくぞ!」



 それを聞いてもチェリンは怯むことなく、力強い瞳で見つめ返してきた。



「小烏丸、いざ参る!」






 ************************************************************






 ―――――そして俺は完膚なきまでに敗北した。




 一睡も出来なかったとかそういう俺ルールの負けではなく、技の全てを受け止められた挙句、チェリンは未だ意識を手放す事無く健在なのだ・・・。


 今夜のカトレア戦の為にそろそろ撤退しなければならないんだけど、その予定が無くとも、どれだけ延長戦をした所でチェリンを倒すのは不可能な気がする。



「はぁ~、幸せ~~~~~!」


「俺の、負けだ・・・」

「ん?何が?」

「チェリン全然元気なんだもん!!」

「まだまだいけるわよ?」

「うわあああああん!俺の負けだーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「よしよし」



 正直、俺は自惚れていた。最近負け知らずだったからな・・・。

 鍛え上げた力を全て出し切っても勝てないとは、俺もまだまだ未熟なのだろう。


 ハァ・・・、世界は広いな。



「悪い、そろそろ時間切れだ。今夜のカトレア戦の為に精力を回復させなければならんのだ。・・・満足させられなくてスマン。己の力不足を痛感したよ」



 それを聞いたチェリンが、キョトンとした顔になった。



「大満足だけど?」



 なにィ!?



「愛し合うって本当に素敵なことだったのね!正直まだまだ続けたかったけど、これ以上はカトレアとの夜伽に響いちゃうもんね」

「お、おう。そうか、満足してくれたなら良かったよ・・・」

「もうね、絶対妊娠した自信があるわ!」


 なんてタフな子!!こりゃ勝てんわ・・・。


 いいや、諦めるな!

 諦めたらそこで試合終了ですよ?


「チェリンとの次の夜伽がいつになるかは分からないけど、その時までにもっと力を技を磨いとくからな!じゃあそろそろ俺は行くよ」

「ありがとう。とても素敵な一夜だったわ」



 最後に軽い口付けを交わしてから、チェリンの部屋を出た。



 バタン



「うわああああああああああああああああああああん!!」



 そして泣きながら自室に駆け込み、顔すら洗わずベッドに潜り込んで、枕を涙で濡らしながら眠りについた。






 ************************************************************






 目覚めると夕方だった。


 少しボーっとした後チェリンに惨敗した事を思い出して悲しくなったが、風呂にも入らずそのまま寝てしまったので、とりあえずシャワーを浴びてスッキリした。


 想定内だったとはいえ、変な時間に目覚めると仕事をサボったことに焦燥感を覚えるんだよな~。


 しかもこの後メシを食ったらまた夜伽に突入するのだ・・・。


 正直『こんな生活をしていていいのか?』って思ったりもするんだけど、嫁さん達はこの夜伽に人生を賭けるほどの意気込みで臨んでいるのだから、むしろ昼間の仕事よりも重要だったりするんだよね。


 とりあえずカトレア戦まで終わらせれば、昼夜逆転生活は戻せるだろう。

 やっぱ彼女も強敵なんだろうなあ・・・。


 目覚めたばかりだけど、昨日の夜から何も食べてないので腹が減ってきた。

 食堂にでも向かうか。



 ―――――廊下を歩いていると、ルシオと遭遇した。



「お、ルシオじゃないか。ぐっすり眠れたか?」

「小烏丸さん!はい、バッチリ寝まくりました!」

「そうか。昨日の作戦は上手く行きそうか?」

「あの後頑張って皆を説得しました。今日からは一対一です!」

「おお、良かったな!相手が1人なら十分倒せるぞ」

「いや倒すって、戦闘するわけじゃないんですから!!」

「そんな甘い考えじゃ嫁さんの尻に敷かれるぜ?『夜伽を制する者は世界を制す』という格言がある。覚えておけ」

「何なんですかそれは!本当にそんな格言があるんですか!?」

「いや、適当に言っただけだ」

「適当な事言わないで下さいよ!・・・ところで昨日チェリンさんが相手だって言ってましたけど、や、やっぱり凄かったですか?」


 おやおやおやおや~?

 ルシオくんも、あのメロンに興味がおありですかにゃ?


「凄かった。そして惨敗した」

「え?惨敗??」

「朝まで一睡も出来なかったら俺の負けなんだ。なんせ次の日何も出来なくなってしまうからな」

「なるほど・・・」

「ルシオも夜伽以外のことがしたかったら、短時間で嫁を撃破することだな!」

「いや、夜伽の話なのに撃破って言い方はどうかと思いますけど!」



 ・・・ん?そんなに変なこと言ったかな?

 

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