第637話 親父、聖水を飲む
ドラゴンの大食い大会も終盤になり、食い過ぎて床に転がる人まで出始めた。
泣きながら横になってるから見ていてちょっと面白いが、そのまま寝てしまう前に聖水イベントをやっといた方がいいな・・・。
「ハイ注目!何人か寝てしまいそうなので、次のイベントを行うぞ!」
全員が満腹だし泣いているしで、ほとんど会話も無くなっていたタイミングだったので、床に寝そべっている人までもが俺に注目した。
「そこにあるデカいタンクなんだが、ずっと気になっていただろう?実はそのタンクの中身は聖水だ!少し前に大量の聖水を入手することが出来たんだ!」
「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
当然ながらほとんどの人達が聖水の効果を知っているので、今のとんでも報告に驚きの声が上がった。親父だけは何それ状態だけど。
「聖帝軍との長き
その言葉に、何人もの武将らがウンウン頷いた。
「ミスフィート軍の主力が集まった絶好の機会だ。今から此処にいる全員に聖水を振舞おう!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
寝ていた者も飛び起き、玉座の間は大歓声に包まれた。
「元気な者も自分が気付かないうちに病魔に侵されている可能性があるから、此処にいる全員がコップ一杯の聖水を飲み干すこと!貴重だからと遠慮するなど、俺が許さん!これは強制だと思ってくれ。基本的には一人につきコップ一杯だが、大きな傷がある人は傷口に聖水をかけることを許可する!」
「っしゃあああああああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおお!ずっと悩まされてた虫歯とオサラバできるぜ!!」
「俺もだ!飲む前に口の中でクチュクチュしまくってやる!」
「やったッ!私の腕に残った醜い傷が治せるんだ!嬉しいよーーーーー!」
「良かったね!!」
今度は完全治癒に感激して泣く者が何人も続出した。
まだ聖水を飲んだわけじゃないんだけど、聖水は裏切らないからな!
「オイ小烏丸!『せいすい』ってのはやっぱ聖なる水のことなのか?」
居ても立っても居られず、親父が階段を駆け上がって来た。
「その聖水だ。怪我だろうが病気だろうが虫歯だろうが老眼だろうが、たぶん何でも完治させる奇跡の水だ!」
「マジかよ!!この世界は一体どうなってやがる!?」
「この世界っていうか隣の世界?この前三河の二人と取引きをした成果だ」
「嘘だろ!?アレって、そこまでデカい規模の取引きだったのか・・・」
「堺ダンジョンにも果物と野菜があれば、無限の聖水が手に入るぞ」
「野菜と果物ってそこまで価値があったのか!!しかし病気や怪我を完治させる水なんて、戦争の火種にならんか?」
「なるんじゃね?まあそうなったら叩き潰すだけだ」
「力で全て解決かよ!もう色々とぶっ飛んでるな・・・」
おっと!そろそろ聖水を解禁せんと、皆がお待ちかねだ。
「親父、タンクんとこに移動するぞ」
「お、おう!」
ミスフィートさんと親父と三人で、聖水タンクの前まで移動した。
「よし、タンクの説明をするぞ!ココに蛇口が四つ並んでるだろ?それを捻ったら聖水が出てくるのだ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「・・・ん?もしかして今ので説明終わりかよ!」
そういや『蛇口を捻る』って、日本語としてちょっとおかしいんだよな。
それで通じるから気にしてなかったけど、『蛇口の
「ああ、やって見せた方が早いか。親父、蛇口の下にコップを差し出してからバルブを捻ってくれ。水道水を出すのと一緒だ」
「蛇口が四つ付いてるんだが・・・」
「えーと、どの蛇口からも聖水が出るから好きな蛇口を選んでくれ。すぐ自分の順番が回って来るので、皆も焦らないでいいからな!」
「好きな蛇口って、どれも一緒じゃねえか!」
親父が蛇口を捻ると、チョロチョロと聖水が出てきた。
ジョバーっと出てしまうと、誰か彼かが貴重な聖水を零してしまうからね。
コップになみなみと入った聖水を前に、親父が息を飲んだ。
「飲んだら驚くぜ?」
「こうも大勢に見られていると緊張するな・・・」
ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクン
ヒリついた空気の中、さっきの誰かの会話が聞こえていたのか、口の中で少しクチュクチュした後で聖水を一気飲みした親父が『ふぅ』と息を一つ漏らした。
「意外と冷たくて美味えな!・・・ん?」
ガリッ
「うげッ!銀歯が取れやがった!!」
なんだって!?
「銀歯が?ああ、歯が復活したから邪魔な銀歯が追い出されたのかも?」
「はああああああああああ!?それマジで言ってんのか?」
「自分で確認してみ?」
親父に手鏡を渡した。
他の虫歯勢も歯を確認したいだろうし、鏡はそのまま置いといてもらおう。
「嘘だろ!?・・・歯が復活してやがる!しかも白さまでも!!」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
知ってたけど、スゲーな聖水!!・・・あれ?
「・・・なあ親父、白髪が無くなってね?」
「なにィ!?」
手鏡をもう一つ出して、自分の後頭部が見えるようにしてやった。
年齢が年齢なのでポツポツと白髪があったハズなのに、どうみても真っ黒なのだ。
「真っ黒なんだが?」
「だよな?もしかして瀕死だった毛根までもが復活したのか!?」
「ヤバ過ぎるだろ!!世界中のハゲがこの国に攻め込んで来るぞ!!」
ハゲ大戦が勃発だと!?
いや、さすがに髪の毛よりも命の方が大事だと思いたい・・・。
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