第633話 軍を指揮する者の苦悩
俺の姿を見つけて固まっていたルシオだったが、何かを訴えかけるように自然と前に突き出された左手が小刻みに震えていた。
「あ・・・、ああッ、うああああああああああ!」
タタタタタタタタタタタタタッ
なにィ!!もしかしてルシオもなのか!?
―――――察したピピン隊がサッと俺から離れた。
ドンッ!
「うああああああああああああああああああああああああああ!!」
まさかのガン泣きである。
イケメンが泣きながら俺の胸に飛び込んで来るなんて、予想外もいいとこだぞ!
「僕が未熟なばかりに、何人もの仲間を死なせてしまいました!!ああああッ、うわあああああああああああああッッ!!」
そういうことか・・・。
この涙は喜びでも悲しみでもなく、後悔と悔しさだ。
本来なら俺が背負わなければならない業を、ルシオに背負わせてしまったんだな。
「ルシオ。それらは全て肝心な所で姿を消した俺の責任だ。お前は軍師のいないミスフィート軍を纏め上げて、見事勝利へと導いたんだ。もっと自分に誇りを持て!」
「で、でも!もっと上手くやれたハズなんです!僕がもう少し慎重に事を進めていれば、あんな不意打ちをくらうことも無かった!!」
「それは結果論だ。聖帝との大決戦を思い出してみろ。アレで何人の仲間が死んだと思ってるんだ!俺がちゃんと聖帝のことを調べてさえいれば、広範囲に恐怖を撒き散らす男だということに気付けたかもしれないんだ!」
「いえ!小烏丸さんは最善を尽くしました!あんなのどうしようもありません!」
「・・・ルシオ、そういうことだ。言ったろ?結果論なんだよ。
俺だって何度も後悔した。だが起きてしまったものはしょうがない。
泣き喚いたって死んだ仲間は生き返らない。ならば明日を見るしかないだろ!
「いつまでも自分を責めるな。後悔し続けるのではなく、その経験を次に生かすんだよ!軍師や参謀は立ち止まってはならない。仲間の死をも己の糧とするんだ!」
「うぅ・・・、うぐっ、うぅぅ」
パシッ!
「湿っぽいのはここまでだ!!それより丹波を完全制圧したと報告しに来たんだろ?夕食を用意してくれている料理班には悪いが、戦勝祝いに俺がとっておきの美味いもんを食わせてやる!それまでに風呂に入ってサッパリして来い!」
そこでようやくルシオから笑みが零れる。
「ふぅーーーーーーーーーーーーーーー」
長い溜息を漏らすと、ようやく落ち着きを取り戻したのか、俺のよく知る穏やかな顔つきのルシオに戻っていた。
「有難うございます。思い切り泣いたら少しスッキリしました!・・・あっ、臭かったですよね?すみません!急いでお風呂に入ってきます!!」
そう言ったルシオは、人混みをかき分けて視界から消えていった。
溜まったモノを吐き出す事ができて、ようやく緊張から解き放たれたようだな。ルシオの心を少しでも癒せたならば、皆の元へ帰って来た甲斐があったってもんだ!
「ルシオが笑ったよ!!」
「流石はミスフィート軍の軍師っスね!」
「ありがとう小烏丸!ルシオね、もうずっと笑ってなかったんだ」
「あんなに晴れやかな顔をしたルシオを見るのは久しぶりね~」
「皆の命を預かる立場って、本当に苦しいことなんだね・・・」
「小烏丸って凄いよね!最初の頃からずっと軍師やってたんだから!」
「まあ、俺にはミスフィートさんがいたからな。一人で抱え込んでいた溜まったモヤモヤさえ全部吐き出せば、完全に元のルシオに戻るさ!」
そんな会話をしていると、視線の先にカトレアとチェリンが現れた。
俺がいるって事をルシオから聞いて、急いでココまでやって来たのかな?
「「うわあああああああああああああああああああああああん!!」」
おおぉ・・・、また胸に飛び込んでのガン泣きですね!?
ええい、ままよ!こうなったら最後までやり遂げてみせようぞ!!
・・・・・
「・・・なるほど。そういった理由から時間を掛けて慎重に丹波を攻略したんだな。まあ時と場合によるが、功を焦って味方を全滅させるのが一番無能な指揮官と言えるだろう。聖帝軍とはもう決着がついた後のようなモノなんだから、掃討戦はゆっくりで構わない。素晴らしい判断だったぞ!二人ともよく頑張ったな!!」
「うえええええええええええええええん!」
「ぐすっ、ぐすっ・・・」
指揮官は指揮官で、部下の前で泣き言なんか絶対吐けない辛さがあるからな。
たとえ辛くても苦しくても、兵士達を鼓舞し続けるのは大変なんだ。
ルシオもそうだったけど、溜まったもんを全部吐き出せばスッキリするさ!
バシッ
「ミスフィートさんへの報告は後でいいから、まずは大浴場でサッパリして来い!その後は皆で美味いもん食いながら祝勝会だ!」
ニカッと笑ってそう言うと、ようやくカトレアとチェリンにも笑顔が戻った。
「そうよね!もう一刻も早くお風呂に入ってスッキリしたかっ・・・」
大変なことに気付いたチェリンが固まった。
よく見るとカトレアも固まっていた。
「もしかして私達、ものすごく臭かったのでは・・・」
「あわわ、あわわわわわ・・・」
恥ずかしさで、二人の顔がどんどん赤くなっていく。
「いや、これだけの
匂いが分からなかったと聞いて安心したみたいだけど、俺から少しずつじりじりと離れていってるな。
「じゃ、じゃあ、私達はお風呂に行って来ます!」
「身体の隅々まで洗って、ピカピカになって帰って来るから!!」
そう言った直後、二人はもの凄い勢いで俺の視界から遠ざかっていった。
やっぱり女の子は匂いを気にしてしまう生き物なんだな・・・。
まあ何にせよ、しんみりした空気が吹き飛んでよかったよかった!
俺も今のうちに祝勝会の準備でもしておきますか~。
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