第626話 虎徹さんが京の都に遊びに来た

 玉座の間を見た虎徹さんが、思わず『なんじゃこりゃーーーーー!』と叫んだ。

 まあ、こんな超カオスな状態だとは想像つくわけないし当然だろう。



「オ、オイ!玉座んとこにいるのって、ガチョピンとモックじゃん!!」

「それだけじゃないですよ?他にも虎徹さんが知ってる人形が何体かあるハズですから、近くまで行きましょう!」

「マジでスゲーな!小烏丸が作ったのか?」

「違いますね。全部昨日手に入れたんですよコレ」

「手に入れたって、一体どこにこんなモノが・・・」



 とても興味深そうに、虎徹さんが左右に並べられた人形を見ている。


 でも彼は小学生の頃、異世界に飛ばされたって話だから、俺や和泉よりも知ってる人形が少ないかもしれないな。



「これ見たことある!!えーと、何だっけ?」

「ギョロ山くんですね。チョコレート菓子のマスコットキャラだったハズです。中にピーナッツチョコレートが入っていたので、ほぼ間違いないですよ」

「ピーナッツチョコレートだって!?」

「向こうに女の子達が群がってるでしょ?あそこにお菓子が詰まった大きな箱が置いてあるので、お祭り騒ぎになってるんですよ」

「そういうことだったのか!・・・ん?コイツも見たことあるぞ!」

「食い倒れ野郎ですね。そこにいるスパイダー男爵も結構有名ですよ」

「あー、なんか見たことあるかも!!」


 道の真ん中に女の子達が群がっていたので、迂回して玉座まで移動。


「サンダー大佐じゃん!これはオレも欲しいぞ!!」

「1体しか無いのであげられませんが、中に唐揚げチキンが入ってました」

「マジか!?意味わかんねーーーーー!」


 そして気になっていたであろう、ガチョピン&モックの前に到着。


「スゲーいいなコレ!本物?」

「たぶん本物ではないと思う。異常なほど強かったですし」

「強いって何だよ!!もしかしてガチョピンと闘ったのか?」

「ええ、ガチョピンは俺がタイマンで撃破しました。ボクシング王者で、デンプシーロールって大技まで使ってくる恐るべき相手でしたよ」

「なんだそりゃ!・・・ん?ボクシング王者?」

「元チャンピオンですね!現チャンピオンは俺です!!」


 マジックバッグからチャンピオンベルトを取り出して、虎徹さんに渡した。


「チャンピオンベルトじゃん!!」

「ガチョピンをキックボクシングで倒したらドロップしました」

「まずそれが意味分かんねーし!どこでガチョピンと闘ったんだよ!?」

「京の都ダンジョンですよ!」

「なにィ!?ダンジョンのボスとして出現すんのか!!」

「モックは空手の達人で、サンダー大佐はプロレスラーでした」

「わははははははは!マジでウケる!!」


 あ、そうだ!虎徹さんを、あのクソヤバイ部屋に連れて行こう!


「そうそう!入りきらなかった人形が向こうの部屋にも置いてあるんですけど、絶対虎徹さんが大好きな人形だと思うんで、俺について来て下さい!」

「はあ??オレは別に人形マニアじゃないし、大好きな人形なんてねえぞ?」



 でもやっぱりそう言われると気になるらしく、素直に俺について来た。



「あ、違う!本物は人形じゃなかった!でもテレビとかで絶対知ってるハズだから、見たら納得すると思いますよ?さあさあ、中に入ってみて下さい!」

「有名なヤツなのか?本物は人形じゃないってのがイミフだが・・・」



 ガチャッ


 訝しみながらも虎徹さんが部屋に入った。



「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」



 よっしゃーーーーー!ドッキリ大成功や!!



「プププッ!・・・ゴホン!こ、虎徹さん、どうしました!?」


「小烏丸、ハメやがったな!!ホラーハウスじゃねえか!」

「いや~、こんなのいらないって言ったのにミスフィートさんが持って帰って来ちゃったんですよね~。あ、ホラ!みんな大好きドッキドキ野郎です」

「いや、キモ過ぎだろ!!腕と足が一本ずつ多いし!!」

「ふっ・・・、こんなので驚いていたらダンジョンで漏らしますよ?錆びたハサミを握りしめた市松人形が何体も高速で飛んで来るし、ドッキドキ野郎がすごい速度でシャカシャカと六足歩行で向かって来るんですよ!」

「嘘だろ・・・」

「いきなりそんな感じだったんでホラー階層かと思ったのですが、食い倒れ野郎が登場した辺りから何でもアリって状態になって、最後はガチョピン&モックでした」



 ココにいると呪われそうなので、ホラーハウスから出て玉座まで移動した。



「怖いのは嫌だけど、ガチョピン&モックは羨ましいぞ!あとサンダー大佐も!」



 待てよ?これって取引きチャンスなんじゃね?

 そうだよ。目には目を!ダンジョンにはダンジョンを!



「それなら自力でゲットすればいい。ただし条件がありますけどね!」



 ―――――それを聞いた虎徹さんの眼光が鋭くなった。



「・・・アリアダンジョンだな?」


「正解です!」


 そう言った後、虎徹さんが顎に手を当て考え込んだ。


「ん-ーーーー、人形との交換か・・・。しかし人形だけだと、ちょっと釣り合ってないな」

「確かに聖水とガチャは本当に貴重ですからね~。でもこの取引はたぶん釣り合ってると思いますよ?」


 マジックバッグからバナナ大家族を取り出した。


「あーーーーーーーーっ!バナナじゃん!!」


 続けて梨、桃、柿、イチゴ、トマト、トウモロコシ、アスパラ、ウド、タラの芽と、畳み掛けるように出していく。


「・・・な、んだと!?」

「これらは全てダンジョンから収穫した物です」

「マジか!!」


 そして、虎徹さんの目を見て不敵な笑みを浮かべた後、メロンとスイカとパイナップルを並べた。


「メロンじゃん!!スイカじゃん!!」

「少々お待ちを」


 シュッ シュッ シュッ


 脇差でスイカとメロンを斬ってから、素早くメロンの種を排除し、それらを皿に乗せて、大きいスプーンと共に虎徹さんに渡した。


「食ってみて下さい。嫌いじゃなければ他の果物もどうぞ」

「メロンなんてガキの頃食って以来だぞ!うおーーーーー、緊張する!!」



 パクッ


 メロンを口に入れた虎徹さんが、一筋の涙を流した。



「美味すぎるだろ・・・。メチャメチャ甘い!最強メロンだ!!」

「他の果物も全て最高品質ですよ!」



 続けてスイカを食った虎徹さんが、まるで幼子のような至福の表情になった。


 小学生の時にお別れした果物達だもんな・・・。

 たぶん俺以上の感動を味わってるに違いない。



「ぶっちゃけオレの中では取引成立だ!これ以上無いくらい完璧に釣り合ったと言ってもいい。でもアニキに確認もせずに勝手に決めるわけにはイカン。ってことで、アニキを連れて来てもいいか?」


「もちろん連れて来て構いません!あ、直接ココに現れたら混乱するでしょうから、城門前からスタートしましょう!」


「そうだな!よし、決まりだ!!じゃあ城門前で待っててくれ!」



 そう言った瞬間、虎徹さんはいつもの様に掻き消えた。

 相変わらずせっかちな人だ・・・。


 しかし、そろそろ俺からダンジョン交渉をしようと思ってた所に、虎徹さんの方から現れてくれるとは思わなかったな!まさに渡りに船だ。


 清光さんも一筋縄ではいかない相手だけど、この取引きは何が何でも成立させてみせるぜ!

 

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