第593話 おっぱいではない

 聖帝軍のダンジョン倉庫はミスフィート軍に敗北するまで使われていた痕跡があったが、回収している余裕が無かったのか、魔物から入手したであろう剣・槍・鎧・盾・鈍器や魔石が結構いっぱい残されていた。


 使える物やどうでもいい物など色々あったものの、どちらにせよ全て回収しないと解体工事の邪魔になるだけなので、とりあえず全部回収しておいた。


 後で要らん物を捨てるのが面倒臭いんだけど、こればっかりはしゃーない。


 そして一旦外に出てから、今度は近場にある聖帝軍印付きの建物を見つけては中を掃除して回り、最後にエルフ達に頼んで建物をぶっ壊してもらった。



 ―――――その結果、ダンジョン周辺に大きな土地を入手することが出来た。



「思った以上にデカい土地が手に入ったんで設計図を書き直した。物資集積拠点も大きくするけど、隣にビルを建てて、そこにダンジョン攻略組が寝泊り出来るようにしようと思う。毎日城からダンジョンに通うのも大変だからな~」

「いいね!きっとみんな喜ぶよ!」

「反対側の建物は何?」

「ああ、そっちはダンジョン守備兵の詰め所だ」

「なるほど!確かにそれも必要だね」



 物資集積拠点の反対側にポツンと空き地ができてしまったんだけど、それはそれで使えると思い、そこを兵士の詰め所にしたのだ。


 他にも空き地はあるんだけど、何も今すぐ使わなくたっていいので、とりあえずそこには『ミスフィート軍私有地』の看板を立てておく。


 食料品店と話がつかなかったら、バナナ屋にでもするさ。



「じゃあ建築の方は三人に任せた!俺は食料品店巡りの旅に行って来る」

「小烏丸さんも大変ね~。誰か他の人にも手伝ってもらった方がいいんじゃ?」

「今日はほとんど下調べみたいなもんだから、乗り物でもないと大変なんだよ。まあ俺のことは気にすんな!」

「がんばってね~~~~~!」



 というわけで今度は営業のお仕事だ。

 やっぱ俺、いつか過労死すんじゃないだろうか?


 ・・・いや、せめて嫁を全員懐妊させるまでは頑張るぞ!






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「なんて甘い果物なんだ!!」


「美味いだろ?お客さんがこの味を知れば、毎日飛ぶように売れるってのは安易に想像つくハズだ。こっちの果物も食ってみ」


「これも美味い!本当に美味すぎる!」



 俺が今来ている店は、ダンジョン周辺で一番デカい食料品店だ。

 果物を流すにしても、店主が味を知らなきゃ博打になってしまうからな。


 城の周辺ならば、兵士達に食品サンプルを持たせて売り込みをさせられるんだけども、この辺りまで来るのは半日掛かりになってしまうので、このおっさんを使って物資集積拠点に商人達を呼び寄せる作戦で行く!


 ってか名案過ぎるから、各地区に物資集積拠点を作って、そこに商人達を呼び寄せる方式にしようかな?


 しかしダンジョン横の拠点本部から各地区へ食材を運ぶのに、トラックを何台か作らんとダメだな。いや、それだと運転手の育成もしなきゃならんか・・・。


 まあとりあえずは近場からスタートだ。



「店主に一つ頼みがある」

「頼み・・・ですか?」

「今、果物などを販売する巨大市場を作ってる最中なんだが、その存在を数多くの商人に知ってもらう為に、この辺一帯の食料品店に声を掛けてもらいたいんだ」

「巨大市場ですか!!」

「市場といっても、直接一般人に販売するつもりはない。そこで商人達が食材を仕入れ、自分の店で販売するんだ」

「ほうほうほうほうほう!」

「で、その市場の場所なんだが・・・、ああ!すぐ近くにダンジョンがあるのは知ってるだろう?」

「ダンジョン!?もちろん知っております」

「巨大市場を建設している場所は、あのダンジョンのすぐ隣なんだよ」

「おお、やった!!近いぞ!!」



 食材をダンジョンから収穫してるって知られると、変なことを考える輩が出てしまいそうだからな。巨大市場の目印として使う感じにしておく。


 ・・・まあ、すぐバレるだろうけどね。


 そういうわけで予定変更!

 あそこはただの物資集積拠点じゃなく巨大市場だ!


 商人との話合いとか、ただただ面倒臭いだけだと思ってたけど、実際に動いてみるとなんか少し楽しくなって来ましたよ?



 もうすでに食材が溢れそうな状態ではあるけど、色々と準備する時間も必要だと考え、市場が始まるのは1週間後だと伝えた。


 それまでに兵士達を20階層まで攻略させ、毎日食材を収穫出来る状態にしておかんとな・・・。






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 ダンジョン組をバスに乗せ、城に帰って来た。


 俺は別の仕事で参加出来なかったけど、今日は大人数で21階層の大自然フロアの探索をしたので、新たに『桃』『みかん』『ぶどう』『柿』などを収穫し、皆大興奮といった感じで食堂がとても賑やかだ。



 ―――しかし和泉だけは眉間に皺を寄せ、歯をギリギリさせていた。



「いやいやいや、何でお前だけシケた顔してんだよ?」

「小物ばかりなのよ・・・」

「何が?」

「ご存じの通り、桃は大当たりよ?でもね、私が狙ってたのは別の果物なの!」

「別の果物か・・・あと出てきてない果物って何だ?」

「小物って言ったよね?」


 すなわち、まだ『大物』が出てないと?・・・あーーーーーーーーっ!


「そうか、メロンか!!」

「メロンだけじゃないよ。スイカもパイナップルも無かったの!!」

「ダメじゃん!!」

「おそらくヤツらの居場所は、31階層の大自然フロア!!」

「クッ、すぐにでも攻略する必要がありそうだな・・・」

「でも間違いなく難易度が上がるよね?魔物の強さもダンジョンの広さも」

「たぶんな。攻略班はダンジョンで何日も寝泊りすることになるかもしれん」

「・・・どうしよう?」

「メロンをこの手に掴むまで、俺達の戦いは終わらない!」


 俺と和泉の熱い視線を感じたのか、ソフィアがこっちを振り向いた。


「なに?」


 ソフィアが歩いて来た。


「なあソフィア、チェリンのおっぱいを覚えているか?」

「はあ!?どうして突然おっぱいの話になるのよ!!」

「そうじゃない。俺が言いたかったのは、その大きさのことだ!」

「大きさ?メチャメチャ大きいよ!アレは化け物よ!」

「そうだ!そしてなぜこんな話をしたかというと、和泉が今日の結果にイラついていたからなのだ」

「えええええええ!?大収穫祭だったじゃないのさ!?」

「うん。それは間違いないよ?でもね、残念ながら私が知ってる果物の王様と女王様がいなかったの!」

「果物の王様ですって!?」

「そうだ。その果物は震えが止まらなくなるほど美味しく、そしてデカい!」

「・・・ハッ!もしかして、それがチェリンのおっぱいなの!?」

「正解だ!その名を『メロン』という。ただどちらかというとメロンは女王様の方かな?それより大きい『スイカ』って果物もあるんだ」

「へーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 俺と和泉の手がソフィアの手を優しく包んだ。



「31階層、行ってくれるか?」

「エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「攻略チームはメロン食べ放題。どう?」

「収穫出来る量にもよるが、おそらく買うと金貨一枚って代物だ」

「くぅ!チェリンのおっぱい・・・、食べてみたい!」

「いや、おっぱいではない」



 猫ちゃんならきっと、マスクメロンを用意してくれてると思う!

 俺は彼女を信じる!!



「わかったわよ!攻略してやろうじゃないの!」



「「よっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 こうしてソフィアは、またもやダンジョンを攻略することになった。



 ・・・ってか、なんでソフィアがダンジョン攻略担当になったんだろな?


 

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