第592話 にゃま重

 ニャルルはもちろんのこと、俺やゴマちゃんも夕食にナマズを頂くことになったので、今日はニャルル達のテーブルで一緒に食うことにした。



「ニャマズが来たにゃ!」

「ナマズの塩焼きは初めて見る形状だけど、ナマズの蒲焼きの方は『うな重』とほぼ一緒だな」

「普通に美味そうじゃね?」

「どっちから食うか、すごくにゃやむにゃ・・・」

「たぶん『なま重』の方が味が濃いから、塩焼きから食った方がが良いんじゃないかな?」

「こがにゃんさんが変な名前付けてる!」

「そんなのテキトーだテキトー!」


 ナマズの塩焼きを口に入れたニャルルの目が光った。


「美味いにゃ!!」

「ほうほうほう!ニャルルって、魚の見た目とかまったく気にしないよな」

「フナムシ以外にゃら全部大丈夫にゃ」

「いやフナムシは論外だろ!そもそもアイツは魚じゃなくて虫だ!」

「あはははははははは!あたいも虫は食ったことねーぞ!」


「トウモロコシきたあああああああああああ!!」


 シャイナはナマズの見た目がダメで、普通にアユの塩焼き定食を作ってもらったんだけど、それ以外にもトウモロコシ3本付きという謎メニューに進化した。


「シャイナのは『鮎の塩焼き定食』というより『トウモロコシ定食』だな!」

「さっきイズミと色々話してたんだけど、明日はトウモロコシたっぷりのクリームシチューを作ってくれることになったんだ!」

「へーーーーー!明日はクリームシチューなのか。そんなの絶対美味いだろ!」

「ん?それってトウモロコシを丸ごと一本入れるのか?」

「一本丸ごとかよ!それはそれで斬新なアイデアだが、普通にバラバラにほぐして入れると思うぞ」


 ゴマちゃんの言う『トウモロコシ丸ごと一本シチュー』を想像したら、ちょっと噴き出しそうになった。いや、面白そうではあるけどな!


「『にゃま重』もメチャメチャ美味いにゃ!絶対明日も釣り上げるにゃ!」

「ぷっ!呼び名が進化して『にゃま重』になったよ!!」

「もうそれでいいわ!それにしても確かに美味えな。明日は11階層組が21階層組になったから、釣りメンバーも何人か増えると思うぞ」

「あ、悪ィ!あたいは休みだ。明後日も休みだ」

「ん?何か用事でもあるのか?」

「夜に備えて精神統一しなきゃいけねえからよ!」

「精神統一・・・、あっ!!明日の夜伽ってゴマちゃんなのか!?」

「あ、ああ、お手柔らかに頼むぜ!」

「その次の日がニャルルでその次がボクだよ!そしてパメラ、レム、セレスティーナって感じで、知り合いが続くんだ~」



 マジかよ!?

 そういや全員側室候補だったもんな・・・。


 ・・・しかし獣人はともかく、魔王を懐妊させるのって可能なのか?


 いや、そんな考えではダメだ。出来る出来ないの問題ではない。懐妊させるんだ!

 それこそが夫の責務ってもんだろ。嫁を悲しませる夫など万死に値する。



 『赤い流星』の名に懸けて、必ず全ての嫁を幸せにしてみせるぜ!






 ************************************************************






 人数の膨れ上がった採取班をダンジョンに送り届けてから、俺は三人のエルフ達を連れて、物資集積拠点を作るためにダンジョン入り口周辺を調べてみることにした。


 ミスフィートさんが言うには、京の都には聖帝軍が使ってた建物が結構あるらしく、そこは現在空き家となっているらしい。


 聖帝軍が使っていた建物には、ご丁寧に『聖帝印』が入口に刻まれているらしいから一目瞭然ということで、今日ミスフィートさんはこっちじゃなく、収穫物の荷物番としてダンジョンの方に行った。



「このデカい建物なんかをゲットできりゃ一番いいんだけどな」



 ダンジョン入り口の一番近くにあった目立つ建物だ。


 物資集積拠点が遠いと収穫物を運び入れるのが大変だから、ダンジョン周辺の土地に限り、一般人に大金を支払って立ち退きさせることも考えている。



「小烏丸さん、コレって『聖帝印』じゃないですか?」


「なにッ!?」



 リンリンが指差す場所を見ると、そこには確かに聖帝軍の軍旗に描かれていたマークが刻まれていた。


 ちなみに『リンリン』とは、今日連れて来たエルフの名前だ。

 他の二人は『ルシャルン』と『レノンシア』だ。


 エルフ七不思議の一つとして、名前の一文字目が『らりるれろ』のどれかから始まるというモノがある。


 日本で言う『~子』とか『~郎』とか、まあそんな感じのヤツだと思う。

 ・・・って、そんなことよりも目の前の建物だ!



「間違いねえな。中に入ってみよう」

「鍵が掛かってますよ?」

「む!聖帝軍も魔力を流して開けるタイプの鍵を使ってたのか。これって術者がいないと開けられないんだろ?」

「そうです。聖帝軍にもエルフがいたのでしょうね~」



 実はエルフ達って、なんかすごい鍵を作れるのだ。


 ただの鉄の輪っかみたいな鍵なんだけど、魔力を流すと輪っかの一部分が消えてドアを開けられるようになるという、単純だからこそ使いやすい鍵と言えよう。


 しかし作った本人の魔力にしか反応しないので、聖帝軍無き今、もうここは開かずの扉になってしまったということになる。



 キンッ! キンッ!


 力技で鍵を開けた。



「そんな簡単に開けられるような鍵じゃないハズなんですけど!」

「細かいことは気にすんな!入るぞ~」




 かなり埃っぽいが、この建物は俺が今まさに作ろうとしていた物資集積拠点そのものだった。言い方を変えればデッカイ倉庫だ。



「なるほど、聖帝軍も俺と同じことを考えてたんだな。ダンジョンで集めた物を兵士達が此処に運び込んでたんだ」

「皆考えることは一緒ってことですね!」

「ダンジョンに近い方が便利だもんね~」

「でもこの倉庫ってこのまま使うの?」

「いや、こんな埃っぽくて古臭い倉庫なんか絶対に使いたくねえ!ぶっ壊して綺麗な物資集積拠点を作るぞ!」



 ただぶっ壊す前に、使える物があったら回収だけしておこう。

 

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