第591話 ブーイングを浴びる

 ようやくイチゴの収穫が終わり、全員に疲労の色が見え始めた直後、親父が次の果物を発見してしまった。



「アレって梨じゃねえか?」



 親父が指差す方を見上げると、丸々とした梨が木になってるのが見えた。



「梨ですな・・・」

「ハイ!ハイ!」

「何ですか?和泉くん」

「嬉しいけど、もう収穫するのが辛いです!!」

「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ。しかし見つけたからには収穫せずにいられまい」

「いいけど、これで最後にしねえか?帰りにトウモロコシの収穫もあるんだぞ」


 そうだった・・・。というか、もう時間的にもこれがラストだな。


「じゃあ今日は梨を収穫した後、残ったバナナ大家族とトウモロコシを回収して終わりにしようか」

「そうだね~、もう十分だよ!」

「その『ナシ』って果物は美味いのか?」

「たぶんメチャクチャ美味いですよ!リンゴに近い感じの果物です」

「そういえば形も似てますわね~」

「んじゃとっとと収穫しようよ!早く終わらせたいから食べるのは後ね!」

「「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」」



 というわけで、『嬉しいのだけど疲れたからもう帰りたい』という何とも言えない気持ちのまま、俺達は全ての梨を収穫した。



「うお、こりゃ美味え梨だな!大当たりだ!」

「本当に美味しい!」

「ムムムム・・・リンゴよりも好きかもしれない」

「この美味しい果物が、帰ってからも食べ放題なのがすごいですわ~~~~~!」

「美味い!さっきのイチゴも美味かったが、ナシも全然負けてないな!」

「果物に関してだと、どれが好きかは完全に好みの問題だと思いますよ」



 そんな会話をしながら来た道を引き返して行くと、残してきたバナナ大家族がもうスッカリ黄色くなっていた。


 残したのは三家族だけだったのでサクッと回収。



「さすがに今日は果物ばかり食べ過ぎているので、一本だけにしときましょうか」



 皆にバナナを一本ずつ配布していった。



「コレよコレ!やっぱバナナが一番食べやすくていいな!」

「美味しい!流石は木の上で自然に黄色くなったバナナだよ!!」

「果物は全部美味しいということがわかりましたわ~~~!」

「もうお腹いっぱいなのに、果物だったらいくらでも食べられるね!」

「幸せ~~~~~~~~~~」



 しかしその幸せが続いたのは、トウモロコシ畑を見るまでだった。

 こげ茶色のヒゲ、完璧なタイミングだ。



「んじゃ最後にトウモロコシの収穫だ!・・・って、シャイナも来てたのか!」

「1時間半くらい前から見張ってた。小烏丸、今何時?」

「えーと・・・、午後4時だ」

「なるほど~、じゃあ3時過ぎくらいから収穫しても大丈夫な時間だと思う」

「ほうほう、トウモロコシは3時過ぎか。覚えとくよ!」

「じゃあこれが最後だよ!トウモロコシの収穫がんばろー!!」

「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 そして全てのトウモロコシを回収し、ようやく湖まで戻って来た。



「おっ、こがっち達が帰って来たぞ!」


「どうだ?いっぱい釣れたか?」


「こがにゃん!にゃんか変にゃのが釣れたにゃ!」


 変なの?


 釣り班のために用意してあった大きな魚ボックスを覗くと、鮎・ニジマス・イワナ・ヤマメなんかの他に、ヒゲを生やしたずんぐりむっくりなアイツが入っていた。


「ナマズか!」

「美味いにゃか!?」

「ん~~~、わからん。たぶん食ったことない」

「にゃんですとーーー!?」

「あっ、ナマズじゃないの!蒲焼きにすると美味しいよ!」

「蒲焼きってウナギみたいな?」

「そうそう!見た目がこんなだから敬遠されがちだけど、普通に焼いても美味しいんだよ~」

「フォオオオオオオオオオオオオオ!メチャメチャ気ににゃるにゃ!!」

「確か6匹くらい釣ったよな?帰ったら食ってみようぜ!」

「そんなに釣ったのか!俺も蒲焼きは食ってみたいかも」

「ウチは両方食べるにゃ!!」

「はいは~い!じゃあそろそろ帰る用意してね」



 あ、そうそう!釣りに夢中になった釣り班の置き忘れによって最近このダンジョンの仕様が少し判明したんだけど、湖の周辺や採取ポイントに置いた物って、なぜかずっと消えないのだ。


 とはいえ置いた物がずっとそのままだと、ダンジョンがゴミだらけになってしまうだろうから、たぶん朝方にでも地面に吸い込まれるんだと思う。食材がリポップする少し前くらいの時間なんじゃないかな~ってね。適当だけど!


 何にしても、楽しく収穫出来るようにそんなぬるい設定にしたのは、猫ちゃんの優しさ以外のナニモノでも無いだろう。


 本当に過保護な創造主様だ・・・。

 だからこそ魔王達に慕われてるんだろうな。


 俺だって、猫ちゃんがピンチになれば必ず助けに行く。

 といっても、神々の戦いに、たかが一般人が力になれるとも思わんけどさ。



 そうこうしてる間に21階層を目指していた11階層組が到着したので、点呼をとって全員がいるのを確認した。


 ミスフィートさんが『帰るぞー!』と言ったら、到着したばかりでまったく何もしてない11階層勢からすんごいブーイングが飛んで来たけど、イチゴとバナナと梨の大量放出により黙らせることに成功。


 全員が果物の美味しさに目をキラキラさせていたので、『21階層の探索は明日好きなだけやってくれ』と言いながらバスに乗り込み、城へ向かって走り出した。



 しかしとんでもない量の食材をゲットしてしまったな~。明日の探索は和泉と親父に任せて、俺は物資集積拠点を確保するために頑張りますか!

 

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