ある日突然2
『あぁ、早く誤解解けねぇかな』
そんなことを考えながら、数週間が経った。
結論から言うと、俺の元に平凡で平和で平穏だった高校生活は戻って来てはいない。
当初の群がるような注目はされなくなったとは言え、俺に向けられる視線は相も変わらず。
まぁ、その要因は転校生のフェリシティにあると言っても良いのかもしれない。転校してきて数週間経てば、その人に対する興味もだいぶ薄れると思っていたけど……彼女の場合はそうじゃない。いや? むしろ日を追うごとに集まりつつある。
フェリシティ・グレース・テイラー。
イギリスからの転校生。
金髪に青い目。
身長は170cmはあるだろうか。女の子にしては長身。しかも出るところは出ているスタイルは、まさに完璧と言っても良い。
そして彼女の評価が鰻上りなのは、なんといってもその性格。
外国人だというのに異様に日本語が上手い。普通に日本語で会話出来ることから、コミュニケーション能力にも問題がない。
さらに天性の産物であるあの顔から繰り出される笑顔は超一流の武器だ。
そんな彼女の存在は、日が経つごとに学校内にも広く浸透していき……今じゃファンクラブまで出来ているって噂だ。
飽きが来るどころか、むしろその魅力が溢れる。
だが、そんな彼女の存在は……俺にとってはちょっとばかし不都合でもあった。
あの日以降、フェリシティが俺に対して突拍子もない行動をすることはない。ただ、俺を見つける度に笑顔で手を振ったりと、
まぁ俺としても手を振るフェリシティを無視することが出来ず、ぎこちないながらも反応するのが悪いんだろうけど……これにはやむを得ない事情がある。
第一に、さっき言った通り予想以上に彼女の人気が高まったから。
人気が日に日に増し、ファンクラブまで出来たとなると……彼女の味方は男女問わず多くなる。そこで無視でもしてみようものなら、
―――はぁ? 何アイツ?―――
―――調子乗ってんな?―――
目を付けられるのは何となく理解できる。だから暗に無視することなんて出来ない。俺の第六感がそう囁いている。
そして第二に……率直にあの笑顔を無視出来ないから。あの嘘偽りのなさそうな笑顔を見せられ、手を振られたら誰だって反応してしまう……とは言ってもその代償があるのは事実だ。
廊下を歩けば通り過ぎる度、後輩達にはヒソヒソと話しをされ。
先輩方は根掘り葉掘り聞こうと圧迫面接を開始する。
同級生の連中はなぜかニヤニヤしながら見たり、たまにからかわれたり。
学校中の生徒全員が、俺にからかいも含めて興味本位で行動するならまだ良い。中には血気盛んな人達も居る訳で……
『おい、算用子。お前調子乗んなよ?』
『はぁ……乗ってませんけど』
『なんだと?』
そんなやり取りも少なくはない。
別に手を出そうって気は感じられないし、適当にあしらうだけでいいんだけど……そういう場に居るだけで精神的にも疲れる。
だからこそ、色んな人に話をされる度にその関係性は否定はするけど、直にフェリシティに声を掛けることはなかった。いや、無理だろ? こっちから声でも掛けたら瞬く間に騒ぎになる気がしてならない。
人の噂も七十五日。
そんなことわざを信じ、のらりくらりと高校生活を過ごしていた……ある日のことだった。
それは何らいつも通りの日。
何の変わりもない放課後。
この頃になると、俺個人に対するヤジ馬達は鳴りを潜めていた。
一人優雅な帰宅。
まさかそんな日常がこれほどまでに落ち着くとは思いもしない。俺はその喜びを感じながら、靴を履き替え、外へ出ようと歩き出した……その時だった。
「あっ……さんちゃん」
下駄箱付近から突如として聞こえて声。そして姿を現した金髪のロングヘアー。
「うおっ」
それはまさしく、渦中の人物で間違いなかった。
「あっ、ごごっごめん! 驚かせて」
「いっ、いや。大丈夫」
正直大丈夫じゃない。色んな意味で驚きっぱなしだ。
なんせあの日以来の会話でもあったし、面と向かうのだって久しぶり。しかしながらその綺麗な顔立ちが目の前にあると、妙にソワソワしてしまう。
やっぱ可愛い……って違う違う! やっとほとぼりが冷めたんだ。こんな姿見られたら、またもや格好のネタに……
「ふふっ、拓都でもそんな情けない声出すんだな」
なんて焦りを覚えたものの……それも一瞬だった。なんというか不幸中の幸い。第三者の声が聞こえたのは良かった。それも、聞き覚えのある人物なら尚のこと。
「うっ、うるさいよ
フェリシティの横に居る人物。こいつは2年1組の
もしかすれば、学級委員長として転校生であるフェリシティの付き添いを任されているのか? まぁどっちにしろこの場に居てくれるのはありがたい。さて、フェリシティさん? 一体何が目的なんですかね?
「はいはい。あっ、ほらフェリちゃん?」
「あっ……うん! さんちゃん?」
「はっ、はい?」
「一緒に帰ろう!」
……って、なんで俺普通に
「ん?」
「えっと……一緒に帰ろう?」
……マジか。
コツコツコツ
静けさの漂う中、3人のローファーの音だけがリズム良く聞こえる。
俺の横にはフェリシティ。そして俺達を見張るように後ろを歩くのは真也。そんな位置関係のまま、もう数十メートルは歩いただろうか。その間、誰も話をしない状況は苦行にも感じる。
うおぉ……なんだこれ? 滅茶苦茶気まずい雰囲気なんですけど? てかフェリシティさん? あんた誘ったんだからなんか話してくれよ? それか真也! お前何後ろで監視員の如く傍観してんだよ! 学級委員長なら話題を提供して場を……
「さっ、さんちゃん?」
なんて考えていた時だった。口火を切ったのは隣を歩くフェリシティ。
突然のことに俺は慌てて返事をするしかなかった。
「えっ? なっ、なんだ?」
「あのね? そっ、そうだ! 本当にあの日ゴメン」
「あの日って……いやいや、それならもう良いよ。気にしてないって」
「でっ、でもやっぱり色々迷惑掛けちゃった。ねぇ? 真也?」
「まぁでも、注目の的になれて良かったんじゃない? ねぇ? 拓都」
この野……まぁまぁ、こいつなりの冗談なんだろう。少なくとも精神的に疲れはしたけど、この金髪美少女に要らぬ心配を残したくはないのは俺も一緒だ。
「そうだな」
「本当!? 良かったぁ」
はい可愛い。
「あっ、フェリちゃん? 家こっちだよ?」
「えっ? もうそんなに歩いちゃった?」
そんな笑顔を脳裏に焼き付けていると、不意に真也が口を開いた。そしてその言葉に、反応するかのようにフェリシティはその足を止めると、脇にある小道の方へと向きを変える。
「えっと……ありがとうね? さんちゃん。じゃあまたね?」
「じゃあね拓都」
小さくなる2人の後ろ姿。それらを遠目に眺めながら、取り残された俺。
距離にして、わずか200m程だろうか。ドキドキワクワクの下校タイムは意外にもあっと言う間に終わりを告げる。
とんだ拍子抜けだったこともあり、大したことにもならずに安心した部分もあった。
翌日の放課後……
「よいしょっと。ふぅ、帰……」
「さんちゃん!」
またもや彼女が……
「うおっ!」
「一緒に帰ろう?」
現れるまでは。
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