#12 作戦の決行、痛む心
作戦を練った。
この一週間、ご飯を食べる時も、トイレする時も、お風呂に入る時も、布団に入っても、それこそアイドル活動している最中も、ずっとずっと考えていた大作戦。
私の考えうる限りで真那の本性を暴くことの出来る、最大の最強の集大成。
そう、真那に精神的にキツい嫌がらせをする。もちろん誰にもバレないように。当の本人にさえ私の存在を感づかれ無いように。
さっそく今日の朝から作戦を決行しようと思う。
私はいつもより早起きすると、特製スムージーを飲み、家を出て、ジョギングをする事で軽く汗を流す。
私と同じく朝のジョギングをする人たちとすれ違うと、笑顔で元気よく挨拶をする。
私がアイドルでなくとも、挨拶は基本中の基本だ。元気良く挨拶すれば、した方もされた方も気持ちが良いのだ。
走っている最中、おばあちゃんが横断歩道を渡りづらそうにしていれば手を貸してあげて、おじいさんが階段を辛そうに登っていれば、肩を貸す。
ジョギングから帰ってきたら、玄関の前で少し足踏みして身体を慣らす。
そしてジョギングの前と後にちゃんとストレッチをするのも忘れない。
ストレッチをきちんとやることで、身体をほぐして、健康的で柔軟な身体を手に入れるのだ。
帰ってきたらシャワーを浴びて、軽めの朝食を食べて制服に着替える。
お母さんを起こさないように、小さく「行ってきまーす」と言って玄関を出て、鍵を閉める。
目に入る太陽の日差しが明るくて、さらには今日の空は快晴で、汗を流したお陰もあってとても清々しい気持ちになった。
これがジョギングを辞められない理由でもある。朝から頭が冴えるのだ。
今の時刻は六時をちょっと過ぎた頃。
小走りで駅まで走って、学校へ向かう。
朝イチなので、殆ど人はいない。
学校へ着き、昇降口に入ると、辺りに自分以外の人影が無いのをしっかりと確認する。
そして真那の靴箱の前に立つと、ゆっくりと音を立てないようにそれを開けた。
人道に反しているかも知れない。
こんな酷いことするのは世界中探しても私だけかも知れない。
思わず自分が今から行おうとする行動に顔を
私は規則正しく揃えてある綺麗な上履きに手を掛けると、中に異物を押し込んだ。
入れた異物とは、なんと……『消しゴムをまあまあ小さく切ったやつ』である。
あぁ、なんて私は
こんなことが簡単に出来てしまうなんて、自分で自分自身に戦慄してしまう。
真那が登校してきて一番、上履きを履いた時に足に違和感を感じるはずだ。
そして十中八九中身を確認するだろう。
すると存在する『消しゴムをまあまあ小さく切ったやつ』。
先週の帰りに自分で入れたはずが無いのに、朝登校したら存在するソレ。
どれほどの絶望と、誰が入れたか分からないという恐怖を味わうのだろう……。
自分がされたらと思うと涙さえ出てくる。
お風呂に入っている時に、この作戦を思い付いた瞬間、しめしめと思うと共にひどく驚愕した。
まさか、私にこれほどまで黒い心があったなんて、と。
トップアイドルとして活動する私が、これほどまで
他のアイドルのことをどうこう悪く言う資格なんて私には無いようだった。
「やっぱり辞めとこうかな……」
私は早くも決心が鈍った。
真那の本性を明るみに出してやる! という気持ちよりも、可哀想、自分が情け無い、という気持ちの方が強くなってくる。
「そ、そうだよ。別にここまで
私は必死に言い訳を考えて、いざ上履きから『消しゴムをまあまあ小さく切ったやつ』を取り出そうとした所で、昇降口の入り口から誰かの話し声が近付いて来た。
どうやらみんなが登校する時間となってしまったらしい。
今すぐ隠れなければ、真那の本性より私の悪事の方が明るみに出てしまう。
「……くッ!!」
私は弱々しく上履きに手を伸ばしたが、手は宙を切り、私は靴箱を後にした。
荷物を持って、三階のトイレの個室へと隠れる。
時計で時間を確認して、丁度良いタイミングでそそくさと教室へ入る。
自分の席に着き一息、少しすると私が悪事を働いた張本人、真那が教室へと入って来た。
真那はクラスメイトたちに挨拶されて、優しい声音で一人ひとりに返している。
かくゆう私は
───今、真那は果たしてどんな顔をしているのだろう。
悲しげな表情をしているのだろうか。
悲しみを押し殺して笑顔でいるのか。
なにも感じないと言う風に必死に我慢しているのか。
はたまた本当に何も感じていないのか。
私には分からない。
罪悪感で真那の顔を見るどころか、机から顔を上げることすら出来やしない。
出来るのは真那の声から表情を想像することだけ。
作戦の結果を知るためには真那の表情を確認しなければいけないというのに。
もしも、真那が苦しそうな表情をしていたら……。
私は─────。
私は下唇を強く噛み、真那の優しげな声を聞き、ただひたすらホームルームが始まるのを待っていた。
……………………
その時真那はというと、自分の上履きに『消しゴムのカス』が入っていることを不審に思うどころか、少し不思議に思うだけで直ぐに興味を無くし、クラスメイトに優雅に挨拶を返しながら教室のゴミ箱に捨てていたのであった。
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