#11 再会そして魂胆
「
そう言って黒板の前で、クラスメイトの前で、私は軽くお辞儀をする。
そう、今日から私は、全国でも知らない人がいないレベルの超名門高校『
仕事の都合で元のいた地元では名門だった高校を離れ、転入試験を
私はアイドルという職業柄、高校を転々としていた。
まだアイドルの下っ端だった時は、単に私に興味の湧いた人しか近寄って来なかったが、人気アイドルとなってからは大勢の人が寄って来たし、転入の際にはこうして最初の自己紹介のタイミングで、
「キャアアアッ!!」
「ウサちゃんだぁあああッ!!」
「ほんものッ!?」
と、大体こんな感じで黄色い声が上がるようになった。
そして、朝のホームルームが終わったタイミングで私の席に男女が群がるのだ。
もちろん笑顔で対応するし、自分を好いてくれているのを見るのは心地良い。ちょっとだけ鬱陶しいとも思うけど。
私は、今回もそんな歓声が上がるのに少し構えておく…………が。
そんなことは起きなかった。
ちょっとだけ、
「あ、ウサちゃんじゃん」
「へー本物だ」
「有名人が転入してくるとかすごいなぁ」
とまるで世間話をするかのように、各々が小さく呟く程度だった。
そして皆口々に最後には「だって……ねぇ?」とか言って、ある一箇所に視線を集める。
私はその状況に唖然として、自然と視線を集めるその場所に目を向けた。
「ッ!!」
そこには。
あの時、私が傲慢にも街行く人に点数を付けて、自信を粉微塵に粉砕されたあの時。
私の自信を打ち砕いた張本人が、窓側の席に座って、佇んでいた。
女神と目が合う。すると女神はニコッと優しく微笑んだ。
「うあっ……」
瞬間、私の口が、身体が、恐ろしいほどの緊張で金縛りにあったようになる。
「真那様、今日も美しい……」
「後光が見える……」
「目が焼ける……」
真那と呼ばれたその女神に、私の新しいクラスメイトたちが視線を向けると、その瞬間みなポーッとして口々に呟くばかりで思考が停止しているようになる。
いち早く現実に戻ってきた私は、助けを求めるように担任の先生へと視線を送ったが……。
女の先生すら、ポーッとしてだらんと全身を脱力させていた。
「先生……」
私の言葉も虚しく、先生を含めたクラス全員の意識が戻って来たのは、1時間目のチャイムが鳴った頃だった。
……………………
あれから数時間が経過し、お昼の時間となった。
私は直ぐにクラスメイトの一人を捕まえて、『
クラスメイトは嬉々として知りうる全てを教えてくれた。
言わばそれは真那の伝説というものだった。
曰く、入学当初からこの名門高校の生徒会長に就任されていること。
曰く、学年主席で入学し、これまでの一度もテストで『一点』すら落としたことが無いこと。
曰く、運動神経が抜群と言うよりもはや、全てに精通したアスリートレベルであるということ。
曰く、誰にでも優しく接し、困ったことがあると必ず助けてくれて、私たちに親身になって話を聞いてくれること。
曰く、一ヶ月で全学年の全生徒に告白され、その全てを諭すように断ったこと。
曰く、女神のような容姿で、一度目が合ってしまえば、感動と驚きで涙を流してしまうこと。
ざっと聞いただけでも一人の人間として、いや超人として出来過ぎている。
普通に、歴代稀に見る聖人と言って差し支え無いレベルだ。
「ふっ……」
なに、性格が良くて?
運動神経が良くて?
勉強も出来て?
容姿だって女神で?
それだけあっても物腰低くて?
ハッ! そんな人間がいる訳が無い。
努力にだって限界がある。
人間はどこかに秀でていれば、どこかには苦手や欠点といったものが出来るのだ。
そういうことなら、真那様とやらにも何か裏があるに違いないわ。
「分かった! ありがとね!」
「ううん! もっと聞きたかったらいつでも聞いてね!」
私はそう言って、ニコニコと手を振るクラスメイトから離れ、次の時間の準備を始める。
私が直々に真那様の裏を見つけてやる。
そして、女神も所詮人間なのだということを知らしめてやるのだ。
そんなことを考えていると、自然と口角が上がり、悪い顔になる。
裏を見つけたら、真那様にあんなことやこんなことを要求して……。
……って! 真那『様』ってなに!? っていうか要求ってなによ! もしかして既に毒されて来てる!?
ひ、ひ、ふぅ……落ち着け、落ち着け。
落ち着くのだ、ウサちゃんよ。
よし。危ない危ない……ちゃんと強い精神と肉体で臨まなくては。
「ふっふっふっ……」
私は改めて気を引き締めると、自分の席で一人、悪い感じでほくそ笑む。
席に座って頬杖を付いているだけで、画家に「ふぇっ」と唸らせるほど素晴らしく絵になる、真那の背中に熱い視線を送りながら。
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