(姉の)ライバル出現!?

#10 人気アイドルと美少女姉妹


 私は街の中を歩いていく。

太陽は高く昇り、吹く風は心地良い。



服がダサい、五十点。


肌のケアがなってない、六十点。


声がうるさい、四十五点


うっわ、何アレ。マイナス五十点



私はすれ違う人、目に付いた人、視界に入った人にそれぞれ点数を付けていく。


「分かってない、分かってない」


深く空気を吸い込んで、思い切り息を吐き出す。


「はぁ……」


私の格好は、目立たないように上下ジャージでマスクにサングラス。

点数で言うと、十点。

でも素材の私が九十点だから、合わせて百点。


「……くへへっ」


自分でも分かるほどの頭の悪そうな発言に可笑しくなって、思わず出てしまった声をどうにか両手で押し殺す。

微妙に押し殺したせいで変な笑い方になってしまった。顔が熱くなるのが分かる。


ちょうど通りがかったサラリーマンの男が「うわ、なんだコイツ」みたいな反応をして足早に去った。

お前がなんだコイツだっつーの。

この冴えない、木偶の坊が。



私の名前は『宇佐うさ 木葉このは』。

こう見えても『ウサちゃん』という名前でアイドルをやっている。


まぁ、それなりに上手くやっているはずだ。

こないだ開催された『どのアイドルユニットが一番なの!?』というイベントで見事一位を獲得したアイドルユニットの一人なのだから。


イベントには、私以外にも確かに可愛い子が何人もいた。

しかし、その性格の悪さと言ったら反吐が出る。


いんたーねっと? って言うやつで、自分のことを可愛くアピールすることしか呟かないし、裏あかうんとっていうやつでは、仲間や自分より可愛い子のことをバカにしているのだ。


お前が馬鹿なんだよ。と常々思う。

お前より可愛いのは、お前より自分磨きに努力をしている証だ。

努力もしないお前みたいなクソが、勝てるわけねーんだよ!! ボケ!!


って言ってやりたい。言わないけど。

私だって自分のキャラがある。言いたくても言えないことなんて山ほど以上にあるのだ。


という訳で、努力をしないで可愛いくなりたいとか思ってるヤツが一番嫌いだ。

努力すら諦めてるヤツはもっと嫌いだ。

諦めるくらいなら、一度だけでも努力してみろ! と思う。


でも、努力しても可愛いくなれなかった子は好きだ。一生懸命に努力した、という『ひたむきさ』が好きなのだ。ひたむきさがその子を可愛いくする。

そんな子が目の前にいたなら、私は迷わず手を差し伸べるだろう。


私は腕を組み、うんうんと頷く。



私は努力していて可愛い。

だからこそ、ナンバーワンユニットの中でも随一の人気があるのだ。


そこにいるモヤシも、あそこを歩くケバいおばさんも、アイドルの『ウサちゃん』と言えば、一発で反応するだろう。

 サインを求められるかも知れない。

最近では、私のモデルとしてのお仕事も増えてきていたりするのだ。




────それが、私の性格と相まって私自身の自信を大きく実らせていたのだろう。





「お待たせ! お姉ちゃん!」



そう言って私の前をサッと小走りで駆け抜けて行く存在。


半ば反射的に服装を見る。

どちゃくそ可愛い。この服はこの人の為にあると言っても過言じゃないくらい。

 まして出るとこは出て、締まるところは締まっている。脚もスラッと長くて、肌にはシミ一つ無いようだ。

 自分というものを完全に知っているかのような、この人と言えばこの服、みたいなこの人に合わせた完璧な服装だった。

 それが、私には自身のある一つの勝負服のように見えた。


流れるように顔を見る。

少し幼い感じが残っているものの、薄い化粧でどこか大人っぽいオーラがあるのも否めない。

今の表情は満面の笑顔で、笑顔が似合う人というのは、まさにこんな人なんだろうと思った。文字で表すなら、『向日葵ひまわり+天使』。

それになんて幸せそうな顔をしているのか。それは初恋の彼と初めてのデートのような、そんな嬉しそうな顔だった。



改めて全体を見る。

完璧な美少女。その一言に尽きる。

 非の打ち所がなんて見当たりそうもない。

目の前で笑顔を向けられれば、思わず笑い返して、抱き締めたくなるような。

男だったら声を掛けずにはいられないような。

文句の付けようがない、そんな美少女だった。


 一言で表すと、紛う事なき『天使』そのものであった。



 私は口が開いたままなのを忘れてガン見してしまっていた。見惚れてしまっていた。




────だが、私の驚愕が留まることが無いことを、この時はまだ知らなかったのだ。




そんな最強完璧美少女の向かう先にいた、女の人。


「ほら、飲み物買っておいたよ」


「あ! ありがとうお姉ちゃん!」


「さっ、行こうか。鈴音」


「うん!」



 完璧美少女と仲良さげにくっ付き、手を繋いで歩いて行った、『天使』にお姉ちゃんと呼ばれた女の人。


 もとい、この世のものとは思えないほどの美女。


 凛とした佇まいに、人に有無を言わせないオーラを纏った人柄。

 黄金比を体現したような豊かなプロポーション。

 良く通る澄んだ綺麗な声。

 見たら最後、必ず見惚れてしまうような顔。

 その人がふっと微笑んだ時には周りに綺麗な花が舞ったのが見えたような気がした。いや、見えたのだ。


 その人は『あ、女神です』と言われても、「ああ、やっぱりね」となるような、そんな人だった。



 そんな二人の異次元美少女姉妹が去ると、通り過ぎた後には、男女関係なく顔や頬を染めた老若男女が取り残される。

 目がハートになっていたり、鼻血を噴き出している人だっている。


 人は、本当に圧倒されるものを見たら、声すら出ないことを初めて知った。



 可愛さに絶対の自信と、厳しい目をもつ私。



 だらしなく開け放たれた口。


 目は瞬きすら忘れている。


 驚愕と感動で身体が動かない。



 今日、人気アイドルこと宇佐うさ木葉このはは、自分の自信というものが木っ端微塵に破壊される音を耳にした。




 両鼻から真っ赤な鼻血を垂れ流しながら。


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