#5 煩悩の見せる夢


 まぶたの裏に太陽の光を感じ、ふと目が覚めた。



 確か今日は……土曜日だったはず。



 自然に目が覚めたということは、今は午前の八時半くらいのはずだ。


 頭の片隅がまだ「眠たいっ!」と喚いているけど、私は一分一秒でも長く妹と過ごしたいのだ。せっかくの土曜日だし、寝ている暇なんて無い。



 今日はなにを妹としようか考えながら、いつも通りにシーツを捲る。




「……………………え?」




 そこで私は、いつも通りとはかけ離れた光景が今まさに、目の前に広がっているのを見てしまった。



 一瞬で覚めかけた頭の中が真っ白になる。



 私は基本、あまり驚くということが無い。

 現実には必ず、要因と結果が繋がっていると確信しているからだ。

 つまり、幽霊なんかは存在しないのだ。


 って、そんなことを言いたいんじゃなくて。



 まさに今の置かれた状況。

 結果は見えているのに、要因が全く見えない。

 

 いきなり目に飛び込んで来たのは、全裸の私。しかしなぜか、着ていた服はきちんと畳まれて机の上に置かれている。


 まぁ、全裸の私はまだいい。

 寝ている内に、何かの拍子に全部脱げてしまった可能性がある。

 ……綺麗に畳まれているのは謎として残ってしまうけど。


 ていうか、そんな些細なことはどうでもいいのだ。


 問題なのは私の傍で、私の左手腕をその豊かなお胸に挟み、抱き付きながら寝息を立てている、可愛い妹の存在だ。



 ……あっ、なま乳柔らかい。



 じゃなくて! その妹もなんで全裸なの!



 私がとうとう一線を超えてしまった? とうとう己の欲望に負けて、赴くままに妹の羽衣をビリビリに剥いてしまった?



 そんな……はずは無い……はずだ。

 どうも自信が無い。



 でも、昨日は私は先に寝たはず。

 で、急に眠くなって……。



「ん……お姉ちゃん、すきぃ……」



 覚束ない、全くもって役に立たない頭をどうにかフル回転させて思考していた所に、一つの大容量爆弾が投下される。



 ふにゃっとした幸せそうな顔で、私の腕にすりすりしながら寝言を呟く妹。



 その時。




 ────私の中でプツンッと何かが切れる音がした。


 


 ばッと妹と向き直って、ガッと妹の両方を掴む。



「ん、ふぇ?……お姉ちゃ……んッ!?」



 私は自分の唇で妹の口を塞ぐ。

 驚きでされるがままの妹に、何の躊躇いもなくその無防備な口の中へと己を侵入させる。



「んむッ!?」



 妹の目が驚きで見開かれる。


 可愛いなぁ……妹よ。

 欲望と煩悩に負けたお姉ちゃんを許してね。……でも良いよね、『夢』ぐらいは自由にしたって。


 そう、私は要因を見つけた。

 ずばりコレは『夢』なのだ。そうすれば全てに合点がいく。


 私の身体の感覚、妹の声、身体、反応、全てが現実のそれとなんら変わらないけど、それが良い。最高だ。コレが現実じゃ無いからって虚無感なんて一つもない。



 これで長年の溜まりに溜まった煩悩を少しでも減らせよう。



「ふあ……んっ……」


 左手は背中に回し、右手でガッチリと妹の後頭部を押さえて逃がさない。

 長い間じっくり、みっちりと妹の味を堪能して、それでも満足とまではいかないけど、息が持たないのでそっと顔を離した。


 

 既に妹の頬は林檎のように紅くなっていて、息遣いは荒く、顔はとろけきっていた。


「おねえちゃん……」


 そしていつの間にか、妹の両手も私の背中へと回されていた。


 これは了承の意と解釈させてもらおう。

 ま、そうじゃなかったとしても、コレは私の夢なので強引に押し切るのだが。



「気持ち良かったね、鈴音」


「う、うん……」


「ほら、もっとこっち来て。続きしよ?」



 ベッドの上で座り、妹と向かい合う。


 お互いがお互いの背中へと左を回して、キュッと抱き合う。


 それから私たちは、お互いをお互いで気持ち良くした。


 妹は最初こそ恥ずかしがっていたけど、段々と大胆に、積極的になってくる。

 私も段々と遠慮が無くなっていく。


 お互いに何度もビクッとして熱い吐息が漏れる。そしてその度に回す左腕のチカラが強くなって、強く密着する。


 温かい、気持ち良い、可愛い、幸せ。

 それらが私を支配する。

 ああ、もっと、もっと、強く鈴音と一緒になりたい。


 もちろん妹が私を色々とやってくれているのも気持ち良いが、それよりなにより。

 妹が、こんな変態な私でも求めてくれているのが気持ちいい……。


「……すずね……」


「お……ねえ、ちゃん……」


 多分今の私の顔は他人には見せられないほど情け無いんだろうな。

 鏡で見なくても分かってしまうほど緩みきっているのが分かる。



 妹とのこの時間は、正しく幸せの一言に尽きた。



 しかし、ときどき頭の中が真っ白になる感覚を覚えていると、急に一つの疑問が浮上してきて、思わず言葉に出してしまった。



「……なんで裸だったんだろう……?」



 言った瞬間、妹の肩がビクッと震え、ついさっきまで蕩けていた顔が、万引きをしてバレてしまった子供のような顔になっていた。



「あ……机の服とかいつ畳んだっけ……?」



 さっきは良く考えなかったから気付かなかったけど、おかしな点が幾つもある。



 そう言えば、ベッドのシーツも今はそりゃ汚しちゃってるけど、良く考えてみれば、妹と始める前から汚れていたような……?



 私の疑問に気を取られている間に、みるみる妹の顔が青ざめていく。

 私の背中から手が離され、その手は強く震えている。



「昨日寝る少し前……あ、確か鈴音が何か言ってたような……?」



 そこまで思考が巡ったところで、妹が思考を遮るように、突然声を上げた。



「お、お姉ちゃん! あ、あれナニ!?」



 妹に突然私の背後を指差され、聞かれる。

 そう言えば、ここは私の部屋だった。


 バッと後ろを振り返って、妹の指の指した場所を見る。



 果たしてそこには、何も無かった。


 ただの白い壁だ。



「くはッ!?」



 「何も無いけど?」と妹に言おうと向き直そうとした時、うなじに強い衝撃が走った。



 一気に気が遠くなって、衝撃で前のめりに倒れる。


 その時に垣間見えた妹の顔は、「あっぶね」を体現したかのような表情をしていて、身体は私が教えた手刀を放った後の、洗練されたポーズをしている。



 一度も見たことの無かった、その妹の顔に私は……。




 うわ……なにあの顔、かっわいいっ。





 なんて考えている内に布団に顔面から突っ込み、衝撃で薄れ掛けていた意識を完全に手放した。


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