#4 初恋を自覚した日
私は自分の初恋がどんなタイミングで、どんな感じだったかを鮮明に覚えている。
あれは確か、中学二年生の頃だ。
私はいつも通りに普通に学校へ行き、授業を受けて仲の良い友達と寄り道したりして、お喋りしながら帰っていた。
友達とは家の方向がバラバラなので、途中で私は一人となってしまう。
その頃から結構、自分自身でもモテてるなー。とは思っていたけど、幸い電車に乗ることも無く、痴漢にあったことは無い。
周りに守られていたのか、危機的な状況に陥ることも無くて、危機意識があまり芽生えていなかった。
そうして無防備にも辺りが暗くなった頃に一人で家に帰っていると、突然。
「キャッ!」
私は腕を思い切り強く引かれ、裏路地へと引きずり込まれた。
裏路地に入るなり、私を押し倒したその男は、友達と学校へ登校したり家に帰ったりする時に、たまに見かける男だった。
気の所為かな、なんて軽く思っていたけど、気の所為でも偶然でも無かった。
この男はこの機会をずっと狙っていたのだ。
男が荒い息で、私が逃げられないように覆い被さっている。
ショックと恐怖で私は指一本もまともに動かす事が出来なかった。
ニュースや新聞でたまに見かける、女の子が強姦、襲われる、抵抗したら殺された、って言うのはコレなんだ。って涙が溢れ出てきた。
自分じゃどうしようもない、誰か助けて欲しい。しかし残念ながら、この頃はまだ非力だった私は自分自身を守る術を持ち合わせていなかった。
スカートの中から熱い液体が漏れ出てくる。
私の泣き顔と嗚咽、失禁してしまったこの状況を目の当たりにして、酷く嬉しそうに歪む男の顔。
これを見た瞬間、「あ、もうダメだ」と強く思った。
男の顔がだんだん私に近付いて来て、私の唇から奪おうと迫ってくる。
私はここで初めてを、何もかもを奪われてしまうのか。
「いやッ…… やめて……」
私が腕にチカラを入れて抵抗してもビクともしない。男はますます喜んだ顔になる。
私は甘んじてこの状況を受け入れざるを得なかった。
───しかし、その時だった。
「えっ……」
もう目と鼻の先まで近付いていた男の顔が私の視界から消えた。
正確には、男の顔にローファーがめり込んで横に吹っ飛んだ。
その時、真っ先に頭に浮かんだのは、お姉ちゃんだった。
視線をずらし、震える身体で向き直せば、果たして立っていたのはお姉ちゃんだった。
いつも優しくて、美しくて、凛としていながら柔らかい表情。怒ったところなんて見たことが無い。それが私の知るいつものお姉ちゃんだった。
しかし、この時ばかりは違っていた。
眼光が鋭く、顔は怒りで歪んでいた。
息遣いも荒く、身体が震えていて、私には一瞥もくれずに、立ち上がった男へと駆け出した。
────圧巻だった。
私は何も考えずに、ただ男をボコボコにするお姉ちゃんを見ていた。私の口は情けなく開いていたと思う。
よろめいて立ち上がった男のお腹に拳をた叩き込む。
痛みと衝撃で苦悶の声を上げ、くの字に折れ曲がった男の頭を掴み、膝蹴りをかます。
男が鼻血を噴き出して、ブリッジするように後ろに倒れそうになる所を胸倉を掴んで立ち直らせる。
そこへ思い切りアッパーすると共にお姉ちゃんがジャンプして、空中で回転蹴りを放った。
それを受けて男が吹っ飛び、派手に背中を壁に打ち付ける所まで見ていたけど、それから先はあまり良く覚えていない。
気付くとお姉ちゃんは私の傍まで近寄って来ていて、自分の上着を私に着せてくれると、導かれるように家へと帰った。
裏路地から出る際にチラッと男の方を見てみれば、腕とかがおかしな方向に曲がっていたけど、見ていない振りをした。
私は、そんなどうでもいいことを考えていられる状態じゃなかった。
家に帰って来てから、私はずっと放心状態だった。
なにも手に付かない。
なにもちゃんと思考できない。
胸の奥がずっとドキドキと波打っていた。
裏路地に連れ込まれた時。お姉ちゃんが男をミンチにしている時。お姉ちゃんが華麗に空中を舞っていた時。
────お姉ちゃんの純白のパンツに目が奪われた。
あの純白の布の中はどうなっているんだろう?
どんな触り心地なんだろう?
どんな味がするんだろう?
私は帰って来てからというもの、ずっとそんな事を考えていた。
お姉ちゃんが、つきっきりで私を慰めて、優しくしてくれるけど、時々チラッと見えそうになるスカートの奥が気になって仕方がなかった。
それと同時に、激しいお姉ちゃんへの『愛』がダムが崩れ崩壊したかのように、胸の内から一気に溢れ出てきた。
身体が震える。
鼻息が荒くなる。
お姉ちゃんに触られた所が熱くなる。
お姉ちゃんが笑いかけてくれると涙が出てくる。
「お姉ちゃんが好き……」
私の消え入るような小さい呟きは、お姉ちゃんに届くこと無く空気に溶けていく。
私は居ても立っても居られず、翌日に届いた薬を、気付かれないようにお姉ちゃんに盛った。
お姉ちゃんはまるで当たり前かのように、あっさりと深い眠りに堕ちる。
まさか妹である私に薬を盛られるなんて、普通は思うはずが無い。
「ごめんね……お姉ちゃん……」
私は安心しきった表情で眠るお姉ちゃんを見て、大きな罪悪感を抱きながらも、その手を理性を持って抑えることが出来なかった。
そうその日。お姉ちゃんが物語の王子様のように私を助けてくれた日。私がお姉ちゃんへの恋を自覚した日。
私は初めてお姉ちゃんの寝込みを襲ったのである。
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