第17話 お友達?が出来る話
旅のメンバーは話の核になるシルヴ、従者としてトリスとルベル、護衛にシャル、ヒュー、コーディ、それから一般兵の中でも見込みがあると話題に上がっていたところを登用されたというハミル少年兵となった。
「は、初めまして!ハミル・ヴァライユと申します!」
がちがちに固まった表情で硬い敬礼をした少年は、多分シャルやコーディと同じくらいの年頃だろう。腕には大きな盾がくっついていて動くのが難しそうだ。
「ほー、盾兵か。珍しいな」
「せせせ誠心誠意頑張りますので!よろしく!お願い申し上げましゅっ!」
ヒューがしげしげとその左腕の盾を眺めているのにも頓着せずに大声で拙く宣言すると、その同行者はぎくしゃくぎくしゃくと背筋を正した。
「盾兵というと、盾を基本にする戦い方をする奴か」
「ああ。今のご時世なかなか珍しいぜ。なにせ攻撃を受け止めることを前提とした戦い方だ。特殊な能力や打たれ強さ、技術が求められる」
「へえ、お前凄いんだな」
「きょ、恐縮です」
ぽろっと漏れ出た褒め言葉に居心地悪そうに肩をきゅっと狭くして、ハミルは困ったような顔をした。改めて眺めるとこれがまた幼気でお綺麗な顔をしている。
すっと通った鼻筋に白い肌と子供らしく大きな青い瞳に柔らかそうな栗毛の、シャルが居なければこいつを手本にしろと言いたくなるような正統派の美少年だ。
ただし、その美少年は緊張で目つきはキロキロと変に光り、口元は吐き気で今にもモザイクがかかりそうなほどにひくついているが。
「しかし盾兵とはまた随分と渋い人選だな」
「今回殿下がハミルさんを選出したのは、戦闘能力と言うよりはそのお人柄を買っての事と伺っています」
「人柄?そりゃあまた……そんなにあっちは荒れてるのか」
「荒れていると言いますか……何と言いますか……ええと、殿下は見た方が早いとしか仰っていませんし、多分そうなのでしょう」
「この頭のよく回るのがそう言うんならそうなんだろうよ」
「照れるね」
シルヴはてれてれと頬を染めて恥らった。言葉を尽くしても分からないことと言うものはあるし、見た方が分かるという物もある。口にするのも憚られるという事だってある。
とにかく、言葉で表すまでも無い、もしくは言葉にするのは少々難がある事態なのは理解して、ヒューは短く溜め息をついた。
随分と年若い一行の引率はもしかしたらヒューとシルヴだったりしないだろうか。そう思い当った瞬間海水浴への期待に輝くあの瞳を思い出して深く深く溜め息をついた。保護者はどう見ても俺だった。
「しかしそうするとバランスはどうだ?俺は重剣士、シャルは軽剣士。コーディは後方援護の援護射撃で……」
「わ、私は杖を使います!それで、後方からの補助、回復、妨害関連の魔術に特化しています」
「私は槍戦士。攻撃魔術も多少心得ているわ」
ヒューの確認にルベルが慌てて挙手をして、トリスも薄く微笑んだ。
中々に物理攻撃力に特化した面子らしい。そのバランスに気づいてのか、コーディはふうとため息を吐いた。
「また俺が後方で攻撃魔法か。ルベルも後ろで補助飛ばす感じか?」
「前線が混戦したら私も下がって魔術に切り替えるわね。ハミルは後方の護衛と言う所かしら」
「け、堅実な作戦かと思います」
「そうだな」
「お前本当は分かってねえだろ」
恐縮しきりながらもハミルがうんうんと頷いて、戦いの役割分担も決まったらしい。正直細かい分担は分からないままに曖昧にシャルがうんと頷いた瞬間、コーディはシャルの首根っこを鷲掴んで下に引き摺り下ろした。
「凄いなコーディ。良く俺が理解していないって分かったな」
「お前の脳みその出来がいかに悪いかなんて今までの付き合いからお見通しなんだよ」
心底から呆れた顔をしたコーディはいいか、と人差し指をピンと一本建てた。
「俺かルベルがいる時は、お前は役割分担を考えるな。前で敵を倒せばいい。もしも倒したらいけないのが居たらちゃんと言うから、其れだけは守れ」
「わかりやすいな。わかった」
今度は中身の伴った頷きが返ってきて、コーディとルベルが深く深く溜息を吐いた。
「お前は色々な事に気づくから、もしも何かあればすぐに言え。何かあればその時にちゃんと言うから、こっちの話もちゃんと聞け」
「うん、考えるのは任せる。そのかわり俺はちゃんと敵を斬るからな」
「物騒……」
「ああ、それでいいさ」
ハミルが呻いたがコーディはそれを黙殺した。いちいち気にかけていては時間がかかり過ぎるのだ、慣れてもらうしかあるまい。
「さて、話はまとまったわね。これからの予定について話しておくわ」
トリスがぱちんと手を叩いて注目しろと目線で促してきた。後ろではシルヴがほのぼのと微笑んでいる。
「我々はこれより山を越えてサザラントに入ります。そこの中央都に入り、サザラント卿に御目通りをする。それが最初の目標です」
「この人選は何か基準でもあるのか?」
「あるよ」
やたらと意味深そうに微笑んで、シルヴがこっくりと頷いた。ヒューが目つきを悪くしてそれを見る。
――こいつ、またくだらないことをなにかしら考えてやがるんじゃねぇだろうな。とか思っているのだが、まあシルヴの自業自得である。
「どういう基準か聞いても良いか?」
「ううん……何と言うべきか。見ればわかるというか……口で言うにはちょっとね」
様子がどうにもおかしくて、ヒューはほんの少し居住まいを正した。
「面食いか?」
「いや……まあ、言葉を変えると、そうなのかな……?何というか、顔と言うか……まあ、基準は満たせていると思うんだよね」
「煮え切らねぇな」
ふんと鼻息荒く言うと、ヒューは片目を細めた。
「俺たちに護衛以外の何を求めているんだよ。出来ることくらいはするけどよ、言ってくんなきゃ、どうすりゃいいのかわからねぇだろ」
「ああ、うん。…………そうだね、そうだねえ」
ほんの少し遠い目をして、シルヴは三回ほど頷いた。
「悪いけど、これに関してはサザラントの名誉にも関わるので人目を避けたい。きちんと答えるから、先に出立してもいいかな」
「名誉?」
シャルが首を傾げた。ルベルが解説しようと耳元に口を寄せてきたが、言葉の意味は分かるので違うと首を横にふるとすっと離れて行った。
「知られて困るほどの何かがあるのか」
「これが我が肉親の身であれば発狂しそうなほどに恥ずかしいね」
「そんなことを俺たちが聞いても良いのか?」
「聞いておいてもらわないと困るというか……いずれわかるからね、仕方がない」
思い出すだけで疲れたのか、シルヴははあと軽々しい溜息を吐いた。
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