第9話
私とカグヤは3日を費やして各街村を回った。
結論から言えば、何もする事がない。
今後領都となるサンデルには冒険者ギルドや商業ギルド、鍛冶ギルド、錬金ギルド、農業ギルド等の主要機関が集まっている。
そして、サンデルに隣接して西に商業施設、東に鍛冶や錬金術を使用する魔道具を取り扱う施設がある。
更にその南には広大な農地が広がっている。
米、果実、小麦、葉物、根物等で8区分に整備されていて、米と果実以外は1年毎にローテーションで植える区分が替わる様にしていた。
連作障害を起こさない為の処置だろう。更にそこに住む農民達はその8つの作物を全て育てる事が出来る。
生まれてからずっと米しか作った事がないとか、果実の栽培や収穫をやった事がない人が皆無なのだ。
故に、横の繋がりが強く収穫時期に応じて暇な区分の人々は忙しい区分に手伝いに行く。
収穫したものは手伝った人達の手に渡り、不足している分は物々交換が行われていた。
従って、農民達は食事に関して殆どお金を使うことはない。多分香辛料ぐらいだろう。
「サイモンさん、準備金貰ってきたけど何か資金が無くて手を付けられてない事ってある?」
ここで敢えて貰ってきた金額は言わなかった。
「資金に困ってと言うものはありませんね。強いて言うなら、農村部の家の修繕でしょうか?
しかし、それを領主様が行いますと……」
だよね~。私も村を回ってそう思った。家がボロいのよ。
農民の人達は人は良いのよね。訊ねた事は答えてくれるし、ご飯までご馳走になった。
ご飯代にお金を渡そうとしたら、
「お金なんて要りませんよ。使い道が解りませんから」
って答えが返ってきた。使い道がないではなく解らないに問題があった。
「国が決めた税はきちんと作物で納付していますし、問題が無いと言えば無いのですが───」
「経済が回っていないんだよね」
サイモンさんは黙って頷いた。
「父はその辺が上手かったのですが、私が代官になってから成長は全くしていません。
税とは別に交易用に作物を持ってこさせて、買い取りお金を払っているのですが、精々酒を買うぐらいでしょうね」
あぁ、それじゃダメだよ。買い物を楽しむのは男より女なんだから。
多分作物を持って来るのは男の仕事でしょ。
「農村部に商店がありませんでしたね」
「えぇ、農村部の中央広場で昔やってたのですが、誰も買いに来ないので商人が手を引きましたね。
確か建物だけは残っていたと思います」
……彼処ね。何だろうとは思っていたけど潰れた商店だったのか。
「サイモンさん、一緒に商業ギルドに行きましょうか」
「えぇ、それは構いませんが……。急ぎでなければ此処に来させますよ?」
「行った方が良いでしょう。私達が商業ギルドに加入するのですから」
この世界は不便なようで便利だったりする。
便利というのは当然の事ながら魔法の事だ。スキルがあればそれに対応した魔法が使えるようになる。
私はロイに頼んで建築スキルを持った人達をイミューズ領に呼び寄せた。
中央広場に商店を作るためだ。
「誰も買いに来なかったのですよ」
「売る物が悪かったのではないですか? どうせ売れる物だけを並べていた感じでしょう、あの大きさの建物ならば。
確実に売れるのは、香辛料とお酒と日用品でしょう。その他に、安価なお菓子、パン、女性用の服、アクセサリー、薬を置きます。
食品は売れる事がないでしょうから置きません。が、農村部の人達が自由に使える場所を設置します。そこで物々交換であろうがお金を取って売ろうが商売に関係する事なら使用可能とします」
私はフリマみたいな事をやらそうと思っている。
その場所に人が集まれば目に止まる商品というものがある。
まずは、お金を使うという癖を付けなければならない。
「今、1週間程連続で来てもらえる屋台も帝都で募集して貰っています。匂いで購買意欲を掻き立てるのです」
串焼きや匂いはないがクレープ等が来ないかと思っている。ターゲットは子供だ。
「最初は間違いなく赤字でしょう。それでも構いません。領主の私がその分を補填します。
簡単には根付かないでしょう。それでもやり続ければ絶対に売れ始めます。その為の準備金です」
ユリアナさんが建てたがっているファミレス教の教会は魔境の森の近くで建築が始まっていた。
総建築費用金額は120億アルン。ユリアナさんの本気が手に取れた。
手持ちの宝石や貴金属を売ったらしいのだが、その中に歴史的に価値のある貴金属が多数あったらしく当初予定していた予算を大きく上回った。
勿論それを利用しない手はない。
───観光地として使わしてもらう。
問題は魔境の森だろうか。
このイミューズ領の北にある広大な森と山。これは東西に渡っていて東は帝国の西側まで続いている。
そして、帝都付近にはBランクの魔物が存在しており、それに繋がるこの辺りにも出ないとは限らないという事で警備隊が置かれてはいるが……。
ここ何百年の間に魔境の森から魔物が出てきた記録はなかった。
「魔物の気配ある?」
「ない、思う。雑魚……いる、少し」
最近、言葉を話せる様になったカグヤと魔境の森に入ったが、いないという事だった。
だったら、少し伐採してホテルを建設してみようかな? ホテルと森の間に、警備隊の宿舎を建てれば女神の御加護と合わせて安全性を見せつける事が出来るだろう。
そして、1週間が経ち中央広場にマーケットが出来上がった。
意味合いは少し違うが、多目的商業施設のつもりだ。感じとしてはロータリー型の交差点の真ん中に商店をがあり、右半分がフリマのコーナーで左半分が屋台を招き入れるフードコーナーにしている。
建物の中に道を通しているので人は確実に入る。
そして、杮落としの当日は帝都から屋台が4軒来てくる事になっている。理想通りに串焼き屋とクレープ屋、そしてタコ焼屋と移動カフェと言うことだ。
この移動カフェは帝都の子爵の三男がやっているらしい。
───そして、当日……。
「領主様、今日からお世話になります。串焼き屋のリリーです」
「お、俺……じゃなくて私がクレープ屋をやってるダンカンだ……です」
「普通に喋ってくれて構いませんが……、あなた達逆じゃない?」
見た目可愛い女の子が串焼き屋で髭面のおっさんがクレープ屋?
「遅れてすみません。タコ焼屋をするマリーです。そこにいる、リリーの母でダンカンの妻になります。
今日から1週間親子3人宜しくお願いします」
───親子かよ! だったら余計にポジションチェンジしようよ!
それと、さっきから気になってたんだけど……。
確か移動カフェよね? 何かオープンカフェみたいなんですけど……。
「準備に忙しくて、ご挨拶が遅れました。帝都モルダー子爵三男アルフレッドです。
領主様の美貌を一目見ようと馳せ参じました。これで悔いなく帝都に戻ることが出来ます」
「いや、帰るの早! そこはちゃんとカフェ頑張ろうよ!」
「ご心配には及びません。後はセバスチャンがやりますから!」
「……」
「冗談ですよ、しかしセバスチャンがいないとやっていけないのは本当ですけどね。僕はスイーツ担当ですから。セチャ、領主様にご挨拶を」
「ご紹介に預かりましたジャラクマイヤー・ヘンリートーフォルンでございます」
───いやいや、セバスチャンじゃないの?
「名前長いし、執事と言えばセバスチャンでしょ?」
私の心を読んだのか、アルフレッド卿がそう説明してきた。
「ん? もしかして、……日本って知ってますか?」
「……えぇ、わかります。もしや領主様も……」
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