第5話

 私達はウロボロスの魔石とドロップした宝箱から出た翡翠の指輪とフード付きロングカーディガンと双月と言う名前の2本1組の短剣を持って転移陣から地上へと戻った。

 その足で冒険者ギルドへと戻り、第6ダンジョンの完全攻略を報告して私が泊まっているホテルのレストランで打ち上げを行った。


「ホントに山分けで良いのか? 完全に俺は足を引っ張っていたし、ユウナ1人で倒したじゃねぇか」

「マルコフ、うるさい! 黙って食え」


 私はぶっきらぼうに答えてテーブルに置かれている肉にかぶりついた。そこに女性らしさや貴族の上品さはない。

 

 自分でも自覚している。これは照れ隠しだ……。

 2度目のキスをしてからマルコフが私の呼び方を姫さんからユウナに変えてきた。

 それが妙にくすぐったくて、でもその名前を呼ばれる度に心に染み渡ってくる。


「食い終わったら、1度アイスに会ってくる。その後、どっかで飲み直さないか?」

「どっかって?」

「2人きりになれる所……かな」


 私もおボコじゃない。マルコフの言ってる意味はわかっている。


「そ、そうね。良いんじゃない……。何だったら、この上の私の泊まってる部屋に……来る? ワ、ワインでも来る時に買って来てよ」






 朝目が覚めると、私はマルコフに完全に抱きついた状態だった。足まで絡めていた……。


 マルコフはまだ寝ていて良かった。今、自分でも顔がにやけているのがわかる。

 こうやって誰かと2人で朝を迎えるっていつぶりだろう。

 

「おぉぉ、今何時だ?」

「8……じゃない、さっき朝の2つの鐘が鳴ったところ」

「やばっ! ユウナ、悪い。俺行くわ!」


 マルコフはいきなり起き上がり辺りを見渡すと私に問い掛けてきた。

 騎士の方の仕事だろうか? 今更ながらマルコフの事を何にも知らないな……。


「遅刻してない?」

「あぁ、大丈夫だ」

「ん、なら良かった。いってらっしゃい」

「……ん、あぁ、行ってくる。夕方の鐘3つにギルドの前で待っててくれ」


 そう言ってマルコフは部屋から出ていった。

 

「ギルドに6時か……。夕食のお誘いかな?」


 うん、我ながら頭の中がお花畑になっている気がする。

 私は部屋から出てホテルのレストランで朝食を食べているとレストランの入り口にアイス王女様が立っていた。

 服装は冒険者ではなく王女様のドレス姿だった。


 多分、いや間違いなく私に用事があるのだろう。朝食は少し残っていたが席から立ち上がり一礼をしておく。

 アリス王女様の周りにマルコフの姿はない。王女付の騎士なのに? 何か嫌な予感がする……。




 私達は冒険者ギルドの応接室に場所を移した。


「Sランクユウナ・イミューズに問います。

 第6ダンジョンの攻略を我が騎士マルコフと共にやり遂げたのは事実ですか?」


 ……服装から想像は出来ていたが、やっぱり王女様として此処にいるみたい。久しぶりに会ったのになぁ。


「はい、間違いございません。

 先日、王女様付きの騎士マルコフ様と一緒に第6ダンジョンのボス部屋に一緒に入り、ダンジョンボスのウロボロスを討伐致しました。

 此方がウロボロスの魔石と、その際にドロップした品でございます」

 

 私はストレージボックスからウロボロスの魔石、フード付きロングカーディガン、双月、翡翠の指輪を取り出してテーブルの上に並べた。


「そうですか。それはどういった経緯で一緒に行ったのでしょう?」


 あんまり話しを長くするのも何だしな……、多少ハショって説明しますか。


「お互いにソロで潜っていたのですが、偶然ボス部屋の前で一緒になり、臨時パーティーを組んだと言ったところでしょうか」

「それはどちらから言い出したのですか?」


 食い付く様にアイス王女様は質問を重ねてくる。何かあるのだろうか?

 あの場合どっちなんだろう? 確かに最初は私から持ち掛けたっけ?


 ───あぁ、面倒臭くなってきた。最初から話そう。私はそう思ってあの時の会話を思い出しながら全てを話した。


「……ホーランド、席を外しなさい」

「はっ!」


 お付きの騎士が応接室から出ていった。


「ユウナ、聞いて良い? マルコフの事をどう思ってるの?」


 多分初めてだろう。アイス王女様が砕けた話し方で話し掛けてくるのは。

 ……ぶっちゃけ話しをしよう。そんな感じかな?

 

「異性として好きですよ」

「そう、マルコフは魔狼族よ」

「はい、……昨晩聞きました」


 私は敢えて昨日と言わずに昨晩と答えた。


「あれからユウナに会いに行ったんだ。

 ……昨日ね、マルコフが私の騎士を辞めるって辞表を出しに来たのよ。

 確かに、マルコフが私の騎士でいる条件に第6ダンジョンの攻略までと言うのがあった。だから何の問題も無いのだけど……」

「アイスさんも、マルコフの事を好きだった?」


 自分で聞いておいて、その答えを聞きたくない自分がいた。


「好きか嫌いかと聞かれれば好き。

 愛してるか愛してないかと聞かれれば愛してる。

 お慕いしているかしていないかと聞かれればお慕いしている。

 でも、私は王族なの。獣人、ましてや魔狼族とその想いを遂げることは出来ない」


 だよねぇ。わかってた、わかってるつもりだったけど……。


「ユウナに会ってから少しずつマルコフが変わっているのは気付いていたわ。

 何回かユウナと依頼を受けて冒険者をしていても、私よりユウナを優先していた。

 でも、ユウナは帝国の貴族ありながら生粋の冒険者、いつかこの国から出ていくと思っていた。

 なのに、マルコフ自らウロボロスを討伐しに行くなんて────」


 なんだかなぁ……。私の頭の中にどうすれば1番良いか答えが出ている。


「アイス、今日の夕方の鐘3つにギルドの入り口の前で待っててくれる? お互い冷静になって話し合おう、ね」


 そう言って私はホテルに戻った。




 夕方の鐘3つが鳴る。私はファミレス大聖堂の中にいた。

 私は両膝を床に就けてファミレスに祈った。


『エロ駄女神起きろ! 起きて出て来い!』

「起き抜けに大きな声出さないでよぉ。昨日はお楽しみだったじゃん」


 やっぱり見てたか、この覗き魔! 見せつけてやったんだよ!


「ユウ……ナ、どうしたの?」

「な、何がよ!」

「……だって泣いてるよ」




 癪だけど、エロ駄女神に抱きついて泣き散らした。泣いて泣いて泣き疲れたのだろう。私はいつの間にか寝てしまっていた。

 目が覚めると、私はエロ駄女神に抱きついていて何処かのベッドの中にいた。


「此処何処?」

「あたしの部屋だよぉ。何となく何があったかわかったけどさぁ、ユウナはそれで良いのぉ?

 まだ2人してユウナ事、探してるよぉ」


 これで良いに決まってるじゃん。ファミレスも私を独り占め出来るんだよ?


「ん~、初めて名前呼んでくれたね。独り占め出来るのは嬉しいけどさぁ、あの2人は絶対に結ばれないよ。

 魔狼族には結婚って概念はないしぃ~、王族が魔狼族と結婚する事も絶対にあり得ないしぃ~。

 ユウナはさぁ、王女が地位を捨てて魔狼に付いて行けば、なんて考えてな~い?

 それもあり得ないよぉ? 人間はそれで良いかも知んないけどさぁ、魔狼族は本能的に強者を求めるよ。

 あの王族が魔狼が求める強さになる事はあり得ない! いずれ今回の様にあの王族は捨てられるよぉ。

 ユウナの判断はお互いに不幸になる選択だよねぇ。

 考えてごらん? この後、あの魔狼がどういう行動を起こすか?

 もし、あたしの今の力がなくなって、急にユウナが居なくなったら、地面を歩いてでも探しに行くよ」


 そんな……、だって……。


「さっき王族は城に戻った。魔狼は門を出て行こうとしてるね。

 さぁ、ユウナ。あたしはユウナを何処に送れば良いのかなぁ?」

「……ファミレスが1番最初に私を放り出した何処にお願い」

「放り出してないよ! ちゃんと計算して──」

「……今、思ったんだけどさぁ、ファミレスはこれを狙ってたんじゃない? 仕方ないから乗ってあげるけど」

「ン、ナンノコトカワカラナイナァ」

「スッゴい棒読み……」

「気にしちゃダメだめぇ。じゃ~送るねぇ~」






「……しろ、……っかりしろ」


 愛しい声が聞こえる。どうやらエロ駄女神はちゃんと送ってくれたようだ。


「狼……男……」

「ユウナ、お前まさかまた……」

「うん、記憶を失ったみたい。でも、キスしてくれたら思い出すかもしれないなぁ」


 マルコフはホッとした表情をしてから私を強く抱きしめてきた。

 

「ごめん、選択肢を間違えたみたい。早く私の記憶を取り戻させて」

「あぁ、そうさせてもらおう」


 優しくマルコフの唇が重なってくる。





『今度、魔狼にメロメロにされた後にあたしがユウナを迎えに行くのもありありだねぇ~』


 

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