第2話

「帝国ってヤバいんですか?」


 乾パンと干し肉を齧りながらアイスさんに訊ねる。うん、お酒が欲しくなるね。


「いいえ、別に。この大陸にも帝国出身の冒険者は結構いると思いますよ。ただし、その逆はほぼ無いでしょうけどね」

「その逆?」

「帝国に行く冒険者がいないって事だよ。帝国にあるダンジョンは全て国営、ダンジョン内で取れたアイテムは一旦国に吸い上げられて、特別な物で無かったら発見した冒険者に還される。

 しかし、特殊なアイテムや武器、防具は殆ど還される事はない。冒険者にとって旨味が全く無いんだよ!

 だから、帝国から海を渡って来る冒険者はいても渡る冒険者はいない」


 マルコフはタバコを取り出して焚き火で火を着ける。この世界にタバコあるんだ……。


「ん、吸うか?」


 マルコフはタバコを箱ごと投げてきた。


「ありがと、貰うね」


 私は箱から1本取り出して口に加えて、マルコフにタバコを投げ返した。

 此処で指先からライターみたいに火を出せたら良いんだけどねぇ、スキルの欄に魔法の名前無かったもんなぁ。

 

 ただの好奇心だった。


 私が愛用していたジッポの火を思い出して人差し指を見ていると指先が少し熱くなったと思ったら、思い出していたジッポの火が指先に灯った。


『スキル、火属性魔法を覚えた。

 スキル、魔力操作を覚えた』


 頭の中に機械的な声が流れる。少し驚いたが、取り敢えずその火でタバコに火を着けて一息入れる。

 火はジッポの蓋を閉めるイメージを頭に浮かべると消えた。

 どうやらこの世界はラノベの異世界物と同じ様に魔法はイメージで使えるみたいだ。今度じっくりと試してみよう!


「流石は貴族様ですね、無詠唱ですか……。

 しかも、目の前にいても魔力の流れが全くわかりませんでした」


 あっ、無詠唱……。そっか、そう言えば中二病を拗らせ様な詠唱を唱えたりするんだよね。


 ──火の精霊よ、此処に集いて火の弾となし、敵を燃やし尽くせ! ファイヤーボール!


 って感じかな? 絶対声に出して言いたくないわ!


「俺は魔法はさっぱりだからな。にしてもお姫さん、魔法も使えてあの動きかよ……」

「ちょっと待ってください! 今思い出しました。

 ガイアナ・イミューズ。物語では帝王の守護神と呼ばれ、女神に愛され続けた一騎当千の聖騎士。

 剣術、体術は勿論、魔法も全属性使えた帝国の伝説の将軍でしたね」

「その物語なら俺も知ってるぜ。勇者ガイアナだろ?

 でも物語だろう?」

「そうですね。物語ですが、実話に着色された物語だった筈です。

 今でも帝国の公爵家にその子孫がいると聞いています。どうやら、ではまた何処かでって訳にはいかないようですね。

 ユウナ様、王都までご一緒願いますね。陛下なら何か知っているかもしれません」


 ちょっと待って! 今、陛下って言った? 冒険者が簡単に陛下とかに会えるの?


「この際なので、伝えておきます。私の名前はアイス・フォレスタ。フォレスタ王国第3王女です。

 マルコフは私の直属の騎士です」

「……王女……様?」

「今は冒険者アイスですので、今まで通りでお願い出来ますか」


 笑顔でそう言われたが、その笑顔には威圧感が半端無かった。


「……わかりました」

 

 私はそう言う他なかった。

 




 翌日、私は王女様達に連れられて昼を少し回った頃に王都に着いた。

 王都の門の前には馬車や人が長蛇の列を作っていた。


「今日は凄いですね。仕方ありません、面倒ですが貴族門から入りましょう。マルコフ、お願い」

「おうよ」


 マルコフは先頭に誰も並んでいない門の方に歩いていく。それに気付いた衛兵達は慌てて駆け寄ってきて跪いた。


「ユウナ様、申し訳ありませんが冒険者カードを提示お願い出来ますか? 一応決まりなものなので」

「あっ、はい。こちらです」


 私は王女様に言われた通りにカードを取り出して跪いていた衛兵さんに渡した。


「申し訳ございませんが、彼方までご移動願います」


 私は衛兵さんに連れられて門の脇にある建物の中に入った。

 中はホテルのロビーの様な感じで、レセプションに行くとカウンターには占いで使うような水晶が置いてあった。


 その水晶の台にカードを置くと水晶が青く光を放つ。


「申し訳ございません。水晶に手を翳して頂けますか?」


 私は言われた通りに水晶に手を翳す。

 水晶は更に青い光を放った。


「ユウナ・イミューズ様ご本人と確認致しました」


 衛兵さんが両手でカードを返して来たので受け取る。


「ユウナ様、では参りましょうか」


 後ろから王女様に声を掛けられて、その後ろを付いていく。


「おぉ~」


 私は王都の街並みを見て感動を覚えた。よく異世界の街並みやインフラは中世ヨーロッパの描写が使われている事が多い。

 しかし、先程の部屋と今目にしている風景を考えると、現在の古き良きヨーロッパって感じがする。

 カラフルな建物に石畳に舗装された道。確かにコルマージュ建築だったっけ? そんな感じ……。


 街行く人達の服装も特殊な感じはしない。女性はそれなりに肌を露出した感じの服装が多く、今の私の服装でも違和感はない。

 その中に腰に剣を携えた格好の人もいる。それはローマ帝国時代の映画の様な皮鎧や金属の鎧で如何にも冒険者って感じだった。


 王女様の服装は剣は携えているが服装は私に近い物がある。上下白のノースリーブの襟付きシャツのパンツルック。革のショートブーツに金属で出来たブラを着けている感じだ。両手にも手の甲を覆う金属で出来た籠手の様な物を着けている。

 マルコフも今はデニム生地のベストを着ていた。ベストと言うより袖を切ったジーンズジャンパーの方が良いかな。

 

 街中を歩き出すとサントマリーマジョール大聖堂の様な大きな建物見えてきた。


「あれは?」


 完全に観光気分になって、王女様に訊ねた。


「ファミレス大聖堂ですね。女神ファミレス様を信仰する教会です」


 ……ファミレス? 何処かで聞いた様な……。

 あっ! 思い出した! あの手紙の最後に書いてあった名前だ。


「彼処に行きたいです」

「えぇ、構いませんよ。……何か思い出したのですか?」

「えぇ、少し気になる事がありまして……」


 手紙? あの紙切れに書いてあった追伸の言葉。


 p.s.また今度逢いに行くからね。


 今の状態で逢いに来るのを待ってられない!

 こっちから行く!

 私の設定がどうなっているのか聞かないと。

 

 

 大聖堂の中に入る。うん、テレビでよくある観光案内番組で見るような建物内部。

 奥の壁際に女性の石像があった。聖母マリアの様に両手を組むように合わせて祈っている。


「これがファミレス様です。生きるもの全ての平等と自由を愛する女神様ですね。フォレスタ家はファミレス教を信仰しています」

「そうなんですね」


 私は相づちを打って女神像を見上げた。その時に違和感を感じた。 

 全くの無音。隣にいた筈の王女様の姿もなくなっていた。

 

 そして、目の前に現れた全裸の女性───


「もう、来るなら来るって先に言ってよぉ。あたしまだ寝てたのよ。服を着る時間もなかったじゃないの」

「もう、夕方前だよ! いつまで寝てんの? ってか寝る時に何も着けない派なの?」

「あたし夜行性なのよねぇ。部屋じゃ裸族だね」

「そうなのね……」

「うん、殆ど部屋から出ないし!」

「ずっと裸族かよ!」


 話しの途中で彼女は教壇の上にピョンと飛び乗って片膝を抱えて座りだした。


「──! 見えてるから、めちゃ大事なとこ見えてるから!」

「ん~、何か問題あるの? ユウナも持ってるじゃん」

 

 ……あぁ、なんとなくわかったわ。ラノベによくある駄女神って奴だ……。


「誰が駄女神よぉ! そんなんだったら何も教えてあげないぞ、プンプン!」


 私の中で駄女神が決定した瞬間だった。

 

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