急に異世界に転移したと思ったら、エロ駄女神の陰謀でした
神楽蜜柑
第1話
「な……何で……、私、抵抗しなかった……のに……」
夜の廃工場で私はお腹にナイフの刺さった状態で倒れていた。
確かに襲われても文句の言えない様な服装だったのは認める。
黒いストラップレスのキャミソールにデニムのショートパンツにサンダルで、スマホを片手に人気の無い裏路地を通ってコンビニに行く途中だった。
廃工場の前を通った時に男3人にいきなり工場の敷地内に引きずり込まれて、後はご想像通りの展開。
オマケに雨まで降ってきた。
「私……生きて朝を迎える事出来るかな?」
せめてこのお腹に刺さったナイフが無かったら……普通に家に帰ったのになぁ……。
ナイフも刺さらない頑丈な身体と男3人なんか吹っ飛ばす程の力があれば良かったのに……。ヤダなぁ、死にたくないなぁ。
私は雨に打たれながら目を閉じた───
「……て、……っかりして」
声が聞こえる……。どうやら私は生きて朝を迎える事が出来たらしい。
重い瞼を無理矢理開けて、声の主を探す。
ぼやけた視界に赤い髪の女性らしき顔が見える。
──あぁ、女性で良かった……。今の私の姿を男性には見られたくは無い。
少しずつ覚醒する意識と共に、視界のピントも合ってくる。
私はどうやら声を掛けてくれていた女性に上半身を抱きかかえられているみたいだ。
「気が付いたみたいね。こんなところに倒れるなんて、何があったの?
この辺は盗賊も出ないと思うし、魔物もあまりいないけど……。何処からか逃げてきたとか?」
あぁ、盗賊も魔物って──
女性にとっては強姦魔は一種の魔物で間違いないかな。
そこでふと気付いた。お腹に刺さっていたナイフが無い。服も乱れた様子もない。
そして漸く周りを見ることが出来た。
何処かの山道の様で、道は舗装もされていない。
そして空には月が2つ浮かんでいた。ピントがぶれているとかそういう物じゃなかった。
間違いなく夜空に月が2つ浮かんでいた。
「……此処何処?」
「此処は港街アルテミスと王都を結ぶ街道よ」
女性は私の問いに答えてくれた。
アルテミス? 王都?
「お、嬢ちゃん気が付いたのか! 何だってこんなところで倒れたんだ?」
えっえっエェぇぇぇ───!!
「狼……男……」
「お、良くわかったな! 大概、犬獣人って言われんだけどな。
アイス、夜営の準備が出来たぜ! 嬢ちゃんも今日は一緒に休んでいけよ、な!」
「あ、はい。……ありがとうございます」
勢いに押されてつい肯定してしまった。
その男性はグレーの髪の毛に顎髭、太い眉毛、そして、頭の上に付いた三角の耳。
黒いスキニーパンツを履いているけど上半身裸なのだろう。背中は髪の毛同じ色の毛に覆われているし、狐の様なふさふさした尻尾が生えていた。胸とお腹は人間と同じだけど筋肉の付き方が半端なかった。
「マルコフ、上着を着なさい。彼女が恥ずかしがってますよ。
ごめんね、私はAランク冒険者のアイス、彼は相棒で同じくAランク冒険者よマルコフよ」
Aランク冒険者……。
さっきから考えない様にしていたけど諦めた方が良いかもしれない。
───多分、此処は異世界だ。
あれで私は死んだんだろう。そして、この世界に来たって感じかな。
──女神様は? チート能力は?
あっ、その前に自己紹介しなきゃ。相手は名前を教えてくれたんだから……。
でも、この世界で私の名前は何なんだろう。
【ステータス】なんて唱えたら画面が……出たよ!
名前 ユウナ・イミューズ
年齢 21歳
レベル 1
ユニークスキル
【全属性魔法ダメージ無効】
【物理攻撃ダメージ無効】
【戦闘王】
スキル
【ストレージボックス】
称号
【女神に拾われた異世界人】
何か見てはいけない物を見てしまった気分だ。
「ステータス確認してる? もしかして記憶が無いの?」
うん、それで行こう! この世界の事を私は全く知らない。
でも、この人達は私を助けてくれるだろうか……?
──えぇぇい、出たとこ勝負だ!
「ごめんなさい、そうみたいです。
名前だけでも確認しようと思いました。私の名前はユウナ・イミューズらしいです」
「……貴族様ですか?」
あっ、そう言えば2人は名前しか言わなかった。やっぱりこの世界じゃ名字は家名で貴族になるんだ。
「わ、わかりません。名前がそうなってただけで……」
私は慌ててアイスさんの言葉を否定する。
「でもよぉ、その格好はお貴族様にゃ見えないぜ。せいぜい中ランクの冒険者かちょっと裕福な村人だ」
「そうでもありませんよ。この服、多分ドラゴンの鱗が使われています。
高ランク冒険者なら私達が名前を聞かない訳がないじゃありませんか。中ランク冒険者や村人にこの服は買えませんよ」
「ま、どうでも良いんじゃない。どうぞ、お姫様」
マルコフはそう言って手を差し伸べてきた。私は何気にその手を取った。
次の瞬間、私はマルコフに大きく投げ飛ばされ完全に宙を舞っている。
しかし身体が勝手に反応して片手、片膝を地面に就けて着地した。
「なるほどねぇ」
マルコフはそう呟くと、一瞬で私に詰め寄ってきて私の目の前に拳が放たれた。
私はそれを側面から掌で右に起動を変えさせ身体を捻り上段に回し蹴りを放った。
それをマルコフは飛び込む様に前方に転がり避けると素早く立ち上がりファイティングポーズをとる。
此処までの動きに私の意思は関与していない。何故か勝手に身体が反応して動いていた。
「マルコフ!」
アイスさんの叫び声でお互いの動きが止まった。ハッキリ言って自分でも何が起こったのか理解できていない。
多分だがユニークスキルの【戦闘王】が関与してる気がする。
「素人の動きじゃねぇな。最低でもBランク冒険者の動きだ。ユウナちゃんよぉ、冒険者カード持ってねぇか?」
そんな物、持ってる筈がない。そう思いながらもパンツのポケットを探る。……何か入ってる?
お尻のポケットに紙切れが入っていた。
『ストレージボックスの中に色々貴女の役にたちそうな物を入れてあるから、この世界で自由に生き抜いてね。
因みに、貴女の願いの叶えられるのはだいたい叶えたと思うけど、家に帰りたいってのはちょっと無理だったの。ごめんね
p.s.また今度逢いに行くからね。
ファミレス』
私がその紙切れに書いてある事を読み終えるといきなり燃え出して消えてしまった。
───どっかの映画の中の指令書か?
ってか、ストレージボックスの中ってそんな物持ってないし!
そう思っていると左の掌が熱く感じて視線を掌に向けると掌に黒い穴が空いていた。しかし、それに驚く前に使い方が理解出来た。
私は冒険者カードと念じると左手にカードが握られていた。
「ん、ストレージボックス持ちか? ……おいおい、勘弁してくれよ。ちょっと貸してくんない?」
マルコフは私が持っているカードを見てそう呟いた。
私はマルコフの言う通りにカードを渡した。
「アイス、お貴族様確定だ。しかも帝国のお貴族様だな。しかも、帝国が認めたSランク冒険者だ」
ちょっとぉ、女神様ぁ~。私をどんな設定にしたんですかぁ~。
マルコフの言い方だと帝国ってのがヤバいって感じがする。しかもSランク冒険者って……。
ってか、何でわかったのかな?
不思議に思っていると、マルコフがカードを返してきながら説明してくれた。
「顔に出過ぎた! まずランクによってカードの色が違う。まぁ、カードにもランクは刻印されているがな、見た目でわかる。
それと、黒で縁取られてるのは貴族の証だ。一応揉め事を減らすためのギルドの処置だな。
後、裏に発行したギルド名が刻印されている。アルマージは帝国の帝都の名前だ」
確かに金色の黒縁、表には『Sーユウナ・イミューズ』と刻印されている。裏の右下にはアルマージの名前も刻印されていた。
「やはり貴族様でしたか。帝国から船でアルテミスまで来て此処で倒れた? 外傷はなかったですから単に疲れからか、魔力の使い過ぎか?
色々とユウナ様の事がわかってきましたが何か思い出しましたか?」
私は無言で首を横に振った。ごめんなさい、元々思い出そうにも思い出すものがないのよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます