第5話 続・金ヅルの私

 前回、ひとつ1600円のタオルをふたつ、母に催促された私は、いったいなんのプレゼントなのだろうと思いながらも用意した。


 もうすぐ父の日もくるので、母にタオルだけを贈るわけにもいかなくなり、父の日には食べ物を贈ろうと決める。

 そして、それと一緒にタオルを箱に詰めて、ついでになぜか家にある、不仲になった弟の学生証も突っ込んで送ろうと思っていた。


 父の日に何か贈ろうと思ったのは、主人が自分の父親に初めて何か贈りたいと言い出したことがきかっけだ。

 主人の方も家族関係が複雑で、最近いろいろあったものだから、父親への感謝の気持ちが芽生えたらしい。

 私も、お義父さんとはよく会うし、お世話になっているし、何より私が病気になると実の親よりも心配してくれて、本まで揃えて調べて、それを読み終えたら送ってくれる、そんな優しいお義父さんなのだ。

 会うと少し面倒くさく思うこともあるが、人間味があっていい。


 お義父さんもあまりお酒は飲まないらしいし、うちの父親も飲まないので、食べ物を贈ることにした。


 父の日のプレゼントを贈る日に合わせて、母の日(?)のプレゼントとして要求されたタオルも贈ろうと思っていた矢先。


 ──私はまた、母に物を集られる。


 前話にも書いたが、母に買ったタオルは送料を含めると4700円だ。

 父にもそれくらいの食べ物を用意する予定だ。


 そこへきて、再び母からのプレゼント要求。


 母にとって、私は何なのだろう。ただの金ヅルなのだろうか。


 私の弟は一応医療機関で働く国家公務員だ。仲は悪いがそこは自慢の弟である。

 私と違い、普通に結婚(相手は再婚)し、相手の子供も育てながら自分の子供も作り、私から見た印象は全然子供だった弟も、なんとか『お父さん』をやっている様子。


 まぁ、姉にSNSでちょっと愚痴られたくらいで『ママ』に言いつけるところは昔と変わらず子供だな、とは思うけれど、もともとかっこつけたい人なので奥さんや子供の前ではかっこつけて生きているのだろう。

 それはそれでいいと思う。弟の人生であって、私には関係のないことだから。


 そんな国家公務員の弟は、両親にとっても自慢の息子となっただろう。


 資格を取るまではアルバイト扱いだったし、その前はパチンコを作る人になりたいと言って借金をして専門学校に通い、中退したようだった。

 そのことは、おそらく父は知らない。

 父は、弟がギャンブルをやることやタバコを吸うことを良くは思っていないから。


 そういう壁があると見せかけて、子供ができてからは父とも仲良くしているところは腹が立つ。

 私の家族は全員、八方美人だ。


 ある人の悪口を言っておきながら、当人の前ではニコニコする。

 学校の女子同士のイジメのようだ。


 そこで思うことは、母はどうしてお金を稼いでいる弟ではなく私に物を集ってくるのだろう、ということ。


 コロナ禍になり、私が出社をやめてからというもの、しょっちゅう

「仕事あるの?」

「仕事やってるの?」

と連絡が来ていたが、私が

「やっていない」

と答えると決まって

「仕事内容を選ぶから、仕事が来ないんじゃないの?」

と言ってくるのだ。


 それは言わなければいけないことだろうか。

 あえて、私の気持ちを苛立たせるために言っているのだろうか。


 そして、どうして『仕事をしていない』私に、あれ買って、これ買ってと集ってくるのだろうか。


 意地悪をしようとして言っているのならタチが悪いし、逆に気づいていないとしても相当問題がある。


 今回集られたのは、よりによってこの時代に『CD』を2枚だった。


 私が自分で稼いでいる時なら、何か言われたらすぐに買ってあげていた。それは『私の』お小遣いだったし、要求も今ほど頻繁ではなかったから。

 それが、今は主人のお金で食べさせてもらっているようなものだ。

 こちらも将来家を建てたいという夢に向かって、少しずつお金を貯めて頑張っている中で、仕事をしていないと知っている娘にどうして集ることができるのだろうか。


 私は金ヅルでもないし、イエスマンでもない。


 しかし、ここで断ると母は必ず機嫌が悪くなり、私からの連絡を無視するようになり、また弟や父に悪口を言う。


 きっと、

「親にCDも買えないなら働きなさいよね」

と言っているのだろう。


 こちらから言わせてもらえば、夫にCDくらい買ってもらえないなら別れなさいよね、だ。


 両親はすでに年金受給者である。

 平等にお金を貰っているはずなのに、父は自分の趣味にあんなにお金も時間も場所も使い、母には趣味の物を買ってはいけないとでも言っているのだろうか。


 私は母からしかその話を聞いたことがないので、本当に父がダメと言っているのかどうかはわからない。

 母の話だけを信じることは、しないことにしたので、もしかしたら、父に相談もせずに

「パパがダメっていうから! 自分の物はさっさと買うくせに!」

とか言っているのかもしれないと疑っている。


 母もiPhoneを買ってあげたのだから、ネットで安く買えるかくらい調べればいいのだ。

 なにも、こちらで買って探す時間をかけたり、送料をかけたりすることはない。


 この時代にCDというディスクで音楽を聴こうとしている時点で、私はおかしいと思う。

 とってもその人のファンで、物として手元に置きたいというコレクターならまだわかるが、流行りだから聴くという人がCDを買う時代は終わった。

 今聴くだけの音楽なら、サブスクで十分な時代だ。


「ストリーミングで聴けるんじゃないの?」

と、あえて意地悪く言ってみたけれど、それは無視されている。


 ストリーミングで聴くには、おそらく月額登録をしなければいけないはずだ。


 しかし、CDアルバム1枚に3000円を払うくらいなら、月額1000円を払っていろいろなアーティストの、それこそ流行りの曲を聴いた方が得なのに、それを頭ごなしに『損をする』と考えている団塊の世代が、私は本当に苦手だ。


 結局、私のメッセージは無視されているので、CDは買っていない。

 タオルと、父の日のプレゼントと、弟の学生証だけを送りつけて差し上げる予定だ。

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