第35話 対魔王軍戦⑪ -狂気のカルカロ
「お前、エロい女三人も連れて何しとったんじゃ」
賢者がゲコから要塞へ続く道へ案内されている後方で、勇者が突っかかる。賢者とゲコは呆れた表情で振り向き、ため息を一つ分かりやすく吐き出すと、また前を向きなおし先に進もうとする。
「おい!無視すんな!あ!分かった!エロいことしてたんやろ!うわ!エロ!ケダモノ!強姦野郎!チンコ捨てろ!」
「うるさいのぉ。俺がどこで何してようと俺の自由やんけ」
「自由やことあるかい。お前俺見捨てて何しとったんじゃ」
「コイツまだ言うてるやん。もうええやんか。こうやって目的地に辿り付けるんやから」
「あかん。全然納得いけへん。ちょい待って。おい!トカゲ!止まれ!死なすぞ!」
「え!?止まるの!?」
「お前もイチイチ止まらんでええねん。行け行け」
勇者の一声に足を止めたゲコの臀部に賢者の蹴りが入る。ゲコは「どっちなんだよ」と小さく呟くが、すぐさま賢者から追撃の蹴りが入る。
「止まれ言うとるやろアホンダラァ!まだ僕は全然腑に落ちてへんねん!五臓六腑に【納得】という感情が落ち着いてないねん!」
「何が不満やねん?勇者大活躍の巻やったやんけ。リザードマンの剣士を圧倒するなんて恰好ヨロシイやん」
勇者の喧騒にたまらず賢者とゲコは足を止める。賢者は懐から煙草を2本取り出すと、一本をゲコに手渡す。
「黙れ。お前大ボス倒してるやんけ」
「セックスに夢中でガラ空きやったんやもん。雑魚や雑魚」
「お、おい!流石にデュラギュラさんを雑魚扱いは…いや…なんでもねぇよ」
「なんやそいつ。おい、小坊主、そいつの皮剥げ。話の腰折った罰や」
「ちょっと待ってくれよ!もう話に入ったりしないから!なんだよコイツら。むちゃくちゃだよ」
「なぁ。勇者様よぉ。何をそんなイラついてんねん。確かにお前は異臭を放ってるし、正直一緒におりたくないぐらい臭いよ?そんな甕の中で何時間も放っておいたのも悪いと思ってる。けど、結果オーライやん!全部解決やん!」
勇者の痛恨の一撃が賢者の鼻頭にクリーンヒットする。
「なんや、お前。暴力はあかんやろ暴力は」
痛みにうずくまる賢者がか細い声を上げる。ゲコは一瞬で血まみれとなった賢者を一瞥し、煙草を持つ手が震えだす。
「暴力ちゃうわい。正当防衛じゃ」
「ウンコみたいな屁理屈抜かすな。おいどうすんねん。鼻血止まらへんやんけ」
「ウンコなんか屁なんかどっちかにせぇや。紛らわしいんじゃ」
「ウンコはお前じゃ!はよ風呂入れや!」
「あの家に風呂ないってどういうことやねん!」
「いやだって、俺らそういう習慣ないから…」
「いやそれでも、人型やん。二足歩行やん。絶対、足臭いやん」
「臭いんわお前じゃバーカ!」
勇者の痛恨の一撃がゲコの首筋に直撃する。
「いだぁぁ!!な、なんで!?」
「二足歩行のトカゲとか冷静に考えたらキモすぎるから」
「理不尽すぎる!と、とにかく冷静になってくれよ!もうすぐ行けば要塞だからささ!」
勇者と賢者とゲコが要塞へ向かう一方、コアラとロッテはヴォデ湖周辺のダンジョンの再調査に来ていた。数日来ていないだけで魔物や動物が巣食っており、それらを一通り始末した後、二人は周辺の村々に聞き込みを行っていた。
二人はダンジョンの魔物を退治したことで幾分歓迎され、調査は順調に見えた。
「そら、びっくりしたよ。いきなし牛共がいなくなってるんだからさぁ」
「その時に物音とかはしなかったんですか?」
「全く。物音どころか轍もなければ、血もなかったな」
「ふぅむ…。さすがに意味が分からないな」
コアラは村人からの情報を吟味するも、辻褄の合わなさに顔をしかめる。
「そんな顔してると、折角のかわいい顔が台無しになって鼻からガーゴイル出てくるぞ」
「ロッテ。あんたダンジョンにいたネームドと話したんでしょ?何か言ってなかったの?」
「華麗なる無視をどうも。さっきも言っただろ?ヴィソンの野郎は魔王から逃れたくてそこに居座ってただけだよ。終始なにかに怯えた様子だったがな」
「ヴィソンの能力は?」
「それを収穫する前に賢者の野郎が有無も言わさず殺っちまったんだよ」
コアラは頭を抱えると、気まずそうに同席している村人の視線を感じ、家に帰るよう伝える。
「あんたが拷問できなかった相手なんて珍しいわね」
「できなかったんじゃねぇ、する時間も与えられなかったんだよ」
コアラとロッテはその後も多くの村人たちに話を聞くも、やはり収穫といえるような情報は無く、ただただ途方に暮れるばかりだった。そして、そろそろダンジョンへ帰還しようと帰路に立った時、湖から数匹の魔物がゆっくりと出てくるのを目撃する。
「おい、コアラさん。あれ、やばくない?」
「きっしょく悪いオーラ出てるわね。ネームドだわ。完全に。なにこれ。なにこのタイミング」
「気づかれてる?」
「わかんない…」
二人は魔物群の中の一匹から発せられる気のようなものに吞み込まれる。一瞬で身震いしそうになるが、なんとか堪える。
魔物たちは二人のそんな様子を気に留めることなくゆったりとした所作で水辺から出てくる。
「カルカロさん!めっちゃ良い天気ですねぇ!!」
「あぁ」
「カルカロさん!暑くないっすか!?」
「あぁ」
「カルカロさん!これ!ドワーフ族が持ってきたビールです!」
カルカロと慕われる魔物がビールを持ってきた部下らしき魔物の顔面を拳で潰す。他の魔物たちは当然だ、と言わんばかりの表情で見つめる。殴られた魔物は地に臥し、動かなくなる。
「酒が飲めねぇのがそんなに面白れぇか?コラ?アァ!?」
「カ、カルカロさん!そんなことありません!酒なんて飲むやつが馬鹿なんです!」
「そうだぁ。お前は利口だな。アイツはだめだ。捨てとけ」
カルカロは血にまみれた部下を見る事もなく処理を任せる。そして煙草に火をつけ、部下が用意した椅子に深く座る。ゆっくりと煙を吐きながら目の前に広がる巨大なヴォデ湖を見つめる。
「オォォイ!!!なんか飲み物持ってこいやバカタレ共が!!」
突然のカルカロの怒号に部下は瞬時に姿勢を正し、急いで水を持っていく。カルカロは水を受け取ると、持ってきた部下の頭を強く叩く。
カルカロはコップを傾け、中が空になったのを確認するとそれを遠くに放り投げる。
「ヴィソンの馬鹿を処理してこいと言われて来てみたらもぬけの殻だし、腹ごなししようと思ったらハンナの野郎が全部呑みこんじまってるし。ったくツイてねぇよなぁ…。なぁ!?」
「そ、その通りです!!」
「だよなぁだよなぁ。はぁ。つまらねぇなぁ。」
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