第28話 対魔王軍戦④ -相変わらずのお二人-
「おい、起きろ。お前ようこんな状態で鼻提灯膨らましてスヤスヤと安眠できるな。肝っ玉チタンでできとんのけ?」
「ちょっと居眠りしたぐらいで言葉数多いねん。胃もたれるわ。それよりなんか分かったんけ?」
賢者に強引に起こされた勇者は若干の不機嫌さを残しつつ、豪快な欠伸を一つ漏らしながら目頭を掻く。若干の咽頭痛に、周囲に用心しつつ小さく喉を鳴らす。
二人が居る倉庫の中は埃が積もり、漂う。周囲には朽ちた木材や、武器類、所々破れ、長い年月をかけて変色した書物や、何かの骨などが雑多に広がっている。おそらく魔王軍が不要品などを廃棄するための建物なのだろうと二人は推察する。勇者と賢者が得体のしれないこの土地に迷い込んでから3日程経過するが、魔物がここに顔を出すことは一度もなく、二人は不幸中の幸いだと密かに安心する。
しかし、倉庫の質自体は非常に悪く、ところどころの隙間から悪戯な微風が侵入する。また室内の臭いも強烈なものであり、賢者と勇者の二人もいまだ慣れていない様子で、時折顔をしかめる。
賢者が透明な状態から姿を現し、勇者の前にその辺に転がっていた切り株を置き、その上に座る。臀部に湿り気を感じ一度は腰を浮かすが、諦める。そして懐から煙草を取り出そうとするも、周囲に魔物が蔓延っていることを思い出し、また寂し気な表情と共に諦める。
「どうやらここはフラン共和国内の補給拠点らしいな。例の要塞に繋がっとるようや。さっきもようけ荷物積んだ馬車みたいなんが三台ぐらい通って行ってたわ」
「フラン共和国てどこやねん。酒場の姉ちゃんえらい出世したんけ?」
「知らんし、おもんないねん死ね」
「キツゥ…。要塞に繋がっとるいうことは魔王軍サイドってことやろ?え?僕ら今敵のど真ん中におるってことやん」
「こんだけ周りに魔物おるんやから、そらそうやろなぁ。いや、えらいこっちゃやで。ダンジョンで欲張らんかったらよかったわ…」
「いやほんまに。あのまま皆と一緒に帰ってたらよかったんや」
「せやけど前あそこ行った時はめちゃめちゃお宝ありましたやん。それが次行ったら無くなってるなんて気になるやろ?高橋名人の現在ぐらい気になるわ」
「好奇心レベルお茶の間すぎるわ。でもまさか隠し通路があるとは思わんかったな」
「ドキドキグルーヴワークスやったな」
「お前実は知ってるやろ」
「でもあんなサイケな模様書いてある門みたいなんあると思う?俺ちょっと気味悪かったわ…」
「でもなんか一人でぶつぶつ読んでたやん。アレなんやったん?そっちの方がキショかったで?」
勇者は賢者に顔も向けず尋ねる。賢者の表情が一瞬ピリつく。
「コッチきて、師匠、前言うたやろ?魔法教えてもうてた」
「あぁ。文通しとるお嬢ちゃんな」
「せや。その師匠に教えてもうてたんや。この世界にはようけ言葉があるから、何個か知ってても損せえへんいうて」
「ええ師匠やんか。感謝せぇよほんま」
「いや、ほんま…。せやな。感謝してる」
倉庫の外で魔物どもの話声が聞こえる。二人は咄嗟に身と息を潜める。しばらく警戒した後、気配が去っていったのを確認し、二人はゆっくり音を立てないよう慎重な様子でまた元の位置に戻る。
「てことはお前が習ったのはフラン共和国語、なわけやな」
「そうなん?」
「だってお前が読めたからあの門がなんや光だしたんやんか。ほんでその先にあったのがココなわけやろ?」
勇者は親指を床に向ける。
「その指し方やめぇ」
「お前の師匠、魔物なんけ?」
「あ?」
「なんでフランの言葉知っとんの?」
「そんなもん知っとるやつぐらいおってもおかしないやろ?習ったら誰でも理解できんねんから。現に俺ができんねんで?」
「いや、なんで敵の国の言葉知っとるんかな、おもてな。普通そんなん知ろうと思う?お前の師匠ナニモンなん?」
勇者の何気ない問いに賢者は沈黙する。
「いや、悪かったな。気になっただけや。とりあえず、ここは今敵地やっちゅうことやな。なんにせよこんなクッサいとこにずっとはおれらんわ。どないしょかな…」
「飯はなんとかなるのが救いやな」
「お前、あのよう分からんやつ二度と盗ってくんなよ」
「なんで?甘味の向こう側あったやん。お前も受け入れてたやん。そうやってストレスを受け流していくのが俺らの役目やと思うで?」
「なんで神取忍みたいなこと言うてんの?」
「逆になんで分かんの?」
「JODENにちょっと興味あった時期あってな」
「JODENに!?ごめん、びっくりしすぎて【きりり】としてもうたわ」
「それアジャコングな」
「てか、酒場の店主と一緒の名前の国潰そうとするなんて、それこそパブクラッシャーやんな」
「それ前泊な」
「なんで、俺ら異国で女子レスラーの話してんのやろ」
「根本的に異世界に向いてないよな」
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