第21話 王国騎士団長ロアンヌと羊と三本線②

 「貴様ら、誰に口を利いているのか分かっているのか?」

 「グンテ、よせ。構わん。今は情報が優先だ」

 「タバコぐらいで何やねん。ゴタゴタ言うなや金属ゴリラ」

 「おい、お前もやめとけや。イチイチ絡むな」

 「いや、やめへん。俺はこういう真面目系のゴリラが一番嫌いやねん。お前、そんな図体しとってその女の尻に敷かれとんのかい?ダサすぎるやろ」

 「なんだとこのクソ坊主。喧嘩売ってんのかコラ」

 「おい。私の部下を愚弄した上にここで揉め事を起こすつもりか?いい身分だな貴様。羊と三本線、勇者と賢者と聞いていたが、どうやら噂だけの小物共だったな」

 「お姉さん、そのウンコ坊主の口車に乗ってるんやからあなたも小物やで」

 「貴様…。とにかくお前らの情報をとっとと吐いてここから失せろ」

 「おいおい!それが人様が命がけで収集してきた情報を聞く態度け!?姉ちゃん頭に血上らすんだけの無能団長ちゃいまんの?」

 「お前その減らず口いい加減にしろよ。ん?姐さん、コイツ借りていっていいか?」

 「グンテ…。止めろ…。まずは情報が優先だ…。気持ちは分かるが、今は揉め事だけは起こすな」

 「…。クソ坊主が。覚えてろよ」

 「お前みたいなゴリラ覚えるかアホンダラ。早よ手ェ離さんかいコラ。俺の一張羅伸びたらどないすんのじゃド腐れが」

 「お前もやめんかい。僕が言うわ。その代わり煙草は失礼しまっせ?僕らもしんどいねん。煙草ぐらい好きに吸わしてぇな」

 「…。いいだろう。で?ダンジョンの異変とはなんだ?」

 「この街から10キロ程離れた場所にある湖知ってまっか?」

 「ヴォデ湖のことか?」

 「名前はちょい分からんねんけどな。僕らこっちの文字読まれへんよって」

 「ふん。なんだ勇者だ賢者だ言われてるが、中身ただのポンコツじゃねぇか」

 「黙っとけやお喋りゴリラ。お前が喋るたんびに世界の海鳥が5羽死んどるんや。責任感じろカスが」

 「な…!こ、コイツ…!」

 「グンテ!イチイチ乗せられるな。それになんだその啖呵は…フフ…」

 「ね、姐さん!今笑ったか!?」

 「おい、情報はいらんのけ?」

 「失礼した。で、勇者殿、そのヴォデ湖近くのダンジョンに異変ということか?」

 「…あんたらさてはこの辺の見回りしてへんな?騎士団やから色々忙しいのは分かるけど、環境の把握はしっかりしとかなあきまへんで」

 「その湖近くにダンジョンやことあるかい。そもそもその周辺には小っちゃい村が集まっとる。問題はその村の家畜が一夜にして50匹程行方知らずになっとるいう話や」

 「…そんなことがあったのか」

 「これやから現場知らずのヌクヌクオッパイ大好き騎士団はあかんねん。頭使うよりまず足使わんかいボケェ」

 「コイツ…言わせておけば…」

 「ゴリラ!あ、違う間違えた。グンテ!悔しいがこればかりは私達は言われても仕方ない。実際その通りだ」

 「姐さん…。まず俺に謝ってくれ」

 「その家畜の行方の調査に僕らは向かったわけ。まぁギルドに依頼があったからな。まぁでもまったく痕跡もなく、なんて事は無いわけよ。奇妙な轍を僕らは見つけたの。まぁ、辿るやろ?ほならその先に…」

 「ダンジョンがあったってのか」

 「イエス。ビンゴ。ディスコ」

 「?」

 「このハゲの言う事は放っておいてかまん。とにかくそのダンジョンはこの街のギルドも把握してない、言うたら最近出来たダンジョンなわけや」

 「この時期にそんなダンジョンが発見されたということは…。敵はそこから本土へ侵攻しようと企んでいたわけか」

 「そこが分からん。まず、そんな重要なとこを見つかるような痕跡まで残して食糧調達するけ?ってとこと、完全に隠匿するなら村ぐらい潰して回るはずやし、なによりもう中身の魔物がダンジョンから出て自由に動き回っとる。どうにもおかしな事が多いと思わんけ?」

 「言われてみれば確かにな」 

 「魔物といえども全てが魔王の配下であるわけではない。もしかするとそのダンジョンが魔王軍とは関係のない、言うなれば野良ダンジョン、という可能性もあるわけか」

 「けど、野放しにはでけへんし、真相は探ってみいひんと分からん。けど、僕ら二人だけではちょっと…しんどい…ていうか…そこまでする義理もないというか…」

 「お前勇者と言われてる身分でそんなこと言っていいのかよ」

 「それやったらお前もゴリラ言われてる身分やねんからバナナ食うてクソして寝とけや」

 「言われてねぇわ!あの坊主はなんでイチイチ俺に絡んでくるんだ!?」

 「ダンジョンのお宝独占できるチャンスやのに僕がギルドと騎士団に報告しよう言うて街まで戻ってきたからご機嫌斜めやねん。八つ当たりさせたってくれ」

 「知らねぇ!いい迷惑だ!」

 「勇者殿、では騎士団から何名か人手を出してほしい、そういうワケか?」

 「勿論タダで、とは言わへんよ?協力してくれたらあんたらが睨み合ってる遺跡の軍隊攻めるのも手伝うし、この周辺の地形や情報もやる。あんたらこの街の人間ちゃうやろ?街中闊歩するのも気まずい状況ちゃいまんの?」

 「…グンテ、今自由に動ける奴は誰がいる?」 

 「姐さん!こんな奴らに協力するのか?ダンジョンだってまだ魔王軍のモノと決まってないような不確かな情報だぞ?第一俺たちが手伝うより、ギルドから冒険者雇ってパーティ組めばいいじゃねぇか!」

 「おいラッキーパラダイスゴリラ、コラ。お前ほんま感情的なりすぎて周りなんも見えてへんな。今俺らが新発見したダンジョンよりも、目下の魔王軍との戦争の方がどう考えたって金になるねん。儲かんねん。冒険者やこと儲けてナンボ。王様からアッパレの一言もろてナンボの商売や。だからあんさんとこの活きの良ェ奴貸してくれ言いに来とんちゃうんかカスコラそろそろしばくぞボケェ!」

 「分かった。少し動けるものを考慮するとしよう。少し時間を貰えるか?」

 「できたら今晩までに決めてもうたら。多分今晩、また動きよると踏んどるよって」

 「理解した」

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