第16話 クイズ大会

 「賢者殿、そなたの異常なまでの魔力は理解したが、やはり私としては常識的な飛行術というものも理解されている必要があると考える」

 「箒に跨ることが常識とされとるこんな世界なんて滅びたらええねん」

 「…。今のは聞かなかったことにしよう。時に賢者殿、魔力の根源とは何か?」

 「ロックンロールの精神や」

 「…。ロック…、それはなんだね?」

 「マイ・ベイビー・ロックス・ミー・ウィズ・ワン・ステディ・ロールや」

 「そのような呪文があるのかね?賢者殿。魔力の根源とは我々の脳に存在する魔力帯とよばれる部分から放出されている【ハピタン】とよばれる物質である。まさかご存知でないのですか?」

 「そんなもん知るかい。魔法をかますときはできるだけ頭の中でロックを流すねん。エルヴィスしかり、チャック・ベリーしかりや。手強い相手と戦う時はヘヴィメタルを流すねん。メタリカしかり、チルドレンオブボドムしかりや」

 「…お戯れは辞めなされ。賢者殿、そなたの異常なまでの力を秘めておきたい気持ちも分かる。しかし、そなたはもう我々魔術師たちが名乗ることを許されなかった【賢者】という頂きのような肩書を称してしまっている。その肩書に恥じぬよう、そなたは知の共有に努めるべきだ」

 「勝手にあの貧乏っタレのジジィが決めただけやないけ。俺は別に好きで名乗っとるわけちゃうわ。肩書なんぞケツから絞り出してお前の座っとるネコに食わしたるわアホンダラ」

 

 生徒たちから小さい笑い声が起こる。


 「賢者殿。まずはその言葉使いを改めなされ。魔術師というのは呪文を生業とする者。いわば言葉を貴重とする者。普段の口利きが粗末であれば、魔力もそれに比例して減弱するのは自明の理」

 「俺が十代のハナタレ坊主やったら、すんまへ~ん言うて話聞いたるけどな、オッサン、お前誰やねん。お前に口の利き方どうこう言われる筋合いないんじゃ。第一、口振り、見た目で人を判断するような奴が人に説教垂れとんちゃうぞコラ」

 

 賢者は鋭い睨みと共にプッチンの胸倉を掴む。プッチンの足元で控えていた豹が咆哮する。生徒たちはどよめく。プッチンは動じず、豹と生徒に向けて落ち着くようにジェスチャーを取る。


 「そなたを賢者と称した王に失望した。お前のようなゴロツキが賢者などと、二度と名乗るでない!!」


 プッチンが目を見開きながら語調を強めただけで辺りに衝撃波が走る。賢者は一瞬にして二〇メートル程飛ばされる。


 「おもろなってきた。お前潰したるわ」

 「どこからでもかかってきなさい」

 「飛行術において重要なのは浮遊の理解と空間を意識した射出、しかしもう一つ重要な要素がある。それはなんでしょう。五秒。チッチッチ」

 「え!?えーと、あ…!速度だ!速度の認識だ!風の魔力の調整だ!」

 「正解。第二問や」

 「え!?どっからでもとは言ったけど…」

 「魔力帯の発見はコヤイケによって発見されたことが有名であるが、そのコヤイケの右腕として活躍した助手の名前を答えよ」

 「あ~。確かにいた!いたな!誰だっけな…あれだ…えーと…」

 「あと、五秒」

 「ま、待ちたまえ!すぐ出る!出るぞ!」

 「セックスしとんのか」

 「!ショーウスだ!」

 「やるな~。次が最後の問題や!」

 「ふぅ…。さすがは賢者殿。やはりその称号に恥じぬ知識人であったか…。しかし面白くなってきた…。さぁ来い!」

 「今何問目!?」

 「え?三?」

 「…おめでとう。お前の勝ちや」



 「な、納得いかねぇぇぇ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る