第13話 神童の少女

 「師匠と呼ばせてください!」

 

 可憐な少女が賢者に頭を下げながら懇願する。当の賢者が臀部を抑えつつ、猫背でトイレから出てくるやいなやだ。賢者は露骨な怪訝を少女に向ける。

 

 「誰やねんお前」

 「グミ・プラネットです!!!」


 賢者は手で追い払うような仕草と共に立ち去ろうとする。が、少女の振り絞るような大声による名乗りに圧倒される。少女は自身の気合の入りように思わず赤面し、顔を伏せる。


 「急にでっかい声出すなアホ。衝撃で痔が爆発でもしたらどうすんねん」

 「そ、そんな魔法があるのですか!」

 「うわ~、コイツ苦手なタイプやわ~」

 「どうしてそんなこと言うんですか!私はこう見えてもこの学園では神童と称される程の実力の持ち主ですよ!」

 「いや、知らんし。そういうところがキモいねんな。絶対パンクロックとか聞いたことなさそう。俺パンクな奴しか友達なりたくないから」

 「パンクとはなんですか!?」


 先ほどの会合の時の大人しく、どこか鋭さのある雰囲気とは打って変わり、グミは明るく、無邪気な瞳を賢者に向ける。純粋な尊敬と恋慕が含まれている。賢者はその眼差しに珍しくたじろぐ。


 「俺もう帰りたいねんけど」

 「師匠はどこに寝泊まりされてるんですか?」

 「いや、言わんし」

 「お邪魔したいです!」

 「何なんお前。怖いから。人の話聞いてる?」

 「私は師匠以上の魔術師に出会ったことがありません!」


 グミはそういうと、賢者の手を握る。そして目を閉じ、深々と礼をする。

 

 「いや、何してんねん。やめぇや」


 賢者はグミの手を振り解く。グミの表情が少し曇る。


 「師匠は私のことが嫌いなのですか?」

 「情緒どうなってんの?」

 「もうこの学院内に私を驚かせるような魔術師には出会えないと思ってたのです」

 「知らんけど」

 「この学院に来れば、この世界各国の魔術師が集うこの学院に来れば、私を負かすような存在に出会うことができると思ってたのです!」

 「急に言葉に力入れるんやめてくれへん?ビクッてなるから」

 「私はこの学院に来て、数ヶ月で全ての知識を理解しました。本を読めば私はすぐに理解することが出来るのです。頂きは容易かったのです」

 「…お前怖いって…。何の話してんの?さっきから」

 「半ば諦めかけていた私の前に現れた貴方。初めは小汚い坊主男だと侮ってはいましたが―」

 「しばくぞ」

 「闘技場での御姿を拝見して確信したのです!師匠は私の遙か上の存在であり、私の知り得ない知識と心理を備えているのだと!」

 「いや、そんなんでさっきのくつがえらんから。手出せや」

 「え?」


 ビシ!っという鈍い音が鳴る。賢者がグミの手首にシッペを食らわせたのだ。丁度手首の突起部、橈骨に直撃する。重たい衝撃と共に鈍い痛みがじんわりと広がりグミは思わず声を上げ、その場で崩れる。


 「師匠!酷いです!一体私が何をした―」


 涙目のグミが声を荒げながら顔を上げる。しかしそこには賢者の姿はなく、一枚の紙きれだけが残っていた。賢者の喪失による虚脱感を感じながら―急激なほどにグミの感情はそぎ落とされ、会合での鋭さを取り戻す―痛みの無い手で拾い上げる。


 【RiotのNaritaのジャケットぐらいお前変な奴やで】

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