第7話 薬草チューハイ

 冒険者ギルドが存在するこのベルリの街には多くの冒険者が、富や名声など、様々な想いを胸に集まってくる。

 そんな街のアイドル的存在、美人店主フランが切り盛りするフランの酒場は、日々死と巡り合わせる冒険者達の憩いの場となっている。

 ある者は、今日討伐したモンスターとの死闘の様を酒で滑らかになった口で熱く語り、またある者は、ダンジョン内で見つけた珍しい品々をテーブルに広げ鼻を高くする。

 今日も酒場は大繁盛。乾杯の音があちこちで鳴り響き、高笑いに変わる。

 眩しい笑顔、赤ら顔での喧騒、酩酊した頭のため整理できず零れてしまった本音、それに対する怒号など、そういったものを全く寄せ付けず、関与しない様子で奥の席にひっそりとあの二人が座っている。


「薬草酎ハイをな、略して薬チューてみんな言うてるやん?」


 賢者が、赤ら顔でジョッキに入った薬草をマドラーでかき混ぜながら話す。薬草を串刺しにする様に混ぜ、エキスを絞り出す。


「その…、いや、まぁ。この酒場の看板やし?味も美味いよ?次の日にも残らんのも魅力やけどさ。あかんくない?」

「薬チュー、て略すのが?」


 勇者は枝豆を口に入れながら言葉を返す。


「うん。絶対あかんやろ。違う略し方を考えた方がええと思う。この街、この酒場のためにも。お前勇者やろ?」

「え、それも勇者の仕事なん?」


 賢者はジョッキを勢いよく傾ける。ガシャガシャと氷の踊る音が鳴る。薬草の風味と炭酸の刺激を十分に味わった後、口に入った薬草の片を取り出し、枝豆の皮入れに投げる。


「誰かのために動くことが勇者の仕事、それが誉れやろがい。お前、なんか考えたれよ。絶対あの店主もそれを願ってるはずやで」

「うーん。僕あんまり薬チュー好きちゃうからなぁ」

「そんなもん好きな奴おるかい。ほら、こうやって言葉遊びに発展するやん?子供の教育に良くないよ」

「子供はこんなとこ来うへんて」

「そういうことちゃうねん ! ええ気分で帰った親父から、今宵の薬チューも最高だったぜぇー!なんて言われたら…。それを思うと不憫でならん!絶対そんな下品な街にしたらあかん!」


 酔った賢者はジョッキをテーブルに叩きつけながら声を荒げる。顔は火照りだし、瞼は閉じかけている。

 勇者は面倒臭そうに賢者を見る。そしてワイングラスに手を伸ばし、ゆっくりと嗜む。


「そうやって冒険者の子供たちは逞しく育っていくねんて。そんで成人して、初めての魔物討伐を終えて、この酒場に来る。そしてドキドキしながら頼むはじての一杯。ああ、これがあの憧れの薬チューかぁ、言うて…。あかんな」

「そやろ!?」


 賢者は身を乗り出しながら勇者を指差す。


「なんか、考えよ。初めての酒の名前が薬チューは可哀想すぎる。えー、この薬草はなんて名前やったかな?」

「聞いてみる ? ちょうど俺の無くなったし」


 賢者が、すいませーんと手をあげる。気付いた女性店員が二人の席まで近付いてくる。注文を取りに来た店員は、猫のような耳を頭から生やしている。亜人と呼ばれる、半人半魔の種族である。この街ではそう珍しい存在でもない。


「ご注文ですか?」


 店員は愛嬌のある笑顔と、それとは裏腹に芯の通った透き通る声で2人に尋ねる。


「えーと、薬チューひとつとぉ、お前何飲むん?」

「あ、ちょっと待って、ごめんなさい後でもっかい呼びます」

「え?あ、はい。またお決まりになりましたらお呼びください」


 猫耳の店員は一瞬戸惑うも、明るい笑顔を振りまき去っていく。


「なになに?」

「お前まで薬チュー言うてるやん。あかんて。勇者の仲間が声高らかに薬チュー言うてたら」


 勇者は賢者の頭を軽くはたく。


「ごめん。まさかここまで毒されてるとはな。さすが荒くれ者達が集う冒険者の街。侮れんな」

「ただただ馴染んでしもただけやろ。もう店員はええわ。メニュー表に載ってるやろ」

「さすがは勇者!」


 賢者は揚々と、テーブル下の隙間からメニュー表を取り出す。鼻歌まじりに酒の欄までめくっていく。


「これや!」



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【薬草酎ハイ 480エン】

フラン酒場に来たらまずはコレ!迷ったらコレ!

爽やかな薬草の風味と、強烈な炭酸の絶妙な絡みが痺れる一杯!

癖のない味のためお酒が苦手な方にもオススメ!

また、体の脱水を抑えてくれる「シャブラン」の葉を使っているため次の日も二日酔いにならず元気に冒険できますよ !

※お好みによりトウガラシやレモンなどのトッピングにもお答えしております◎

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「「う~ん…。薬チューの方がマシやな~」」

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