第5話 ギルドな会話②

 「羊のぉ!久しぶりじゃないか。相変わらず汚ねぇエモノ使ってるな〜」


 前髪をオールバックにした快活な男が鋭さ残る笑みで勇者に声をかける。勇者は「お」と声を漏らす。


 「ビスコ」

 「ビスケトだ。変な覚え方してんじゃねぇよ。それより聞いたぜ?お前さんら、カシムラを倒したんだろ?大したもんだ」

 「カシムラ?」

 「あれや、あの赤い蛇。喋る蛇」


 賢者はそう言い捨てるとトイレの方に向かう。ビスケトと勇者は近くの椅子に座る。勇者は懐からタバコ葉と巻紙の入った缶ケースを取り出す。蓋を開けるとタバコ葉がふんわり香る。


 「えらい攻め込まれとったな。珍しいやん。あの娘来てなかったくない?あの、弓使う、耳の長い」

 「エクレアは戦が始まってすぐ腹壊しちまってな。前夜に食った貝に当たったんだよ」

 「大当たりやな」

 「死ななくてよかったってか?アイツはアイツで悔しがってたよ。戦線復帰した時にはお前らに大将潰されてたんだ。相当恨まれるぞ?」


 ビスケトは無邪気な笑顔をこぼしながら勇者の前に拳を置く。


 「まぁ、助かったわ。コレは取っといてくれや」


 ビスケトが手を退けると青い錠剤の入った袋が現れる。勇者のタバコを巻く手が止まる。


 「マジ?エーテルやん…」

 「やりすぎには注意しろよ?」


 ビスケトは口角を引き上げ、ギラギラした目つきで勇者を見つめる。そして腰を上げ、ゆったりギルド内を見回した後、外に出る。

 勇者は机に残されたエーテルを素早く懐に仕舞い、再度タバコを巻き始める。

 

 「いやぁ、賢者殿。この前はお疲れ様でした」 


 用をすまし手拭いで手を拭きながらトイレから出てきた賢者に、小太りで頭の禿げ上がった男が温かい笑顔で話しかける。その後ろには眼帯を付けた背の高い女が無言のまま礼をする。


 「ムーチョさん、カラちゃん。お二人の方はどんな感じやったん?」

 「3本までと止められてるポーションを5本飲むぐらいにはギリギリでした…。おかげで次の日はゲロゲロですよ。笑ってください笑ってください」

 「師匠はすぐ無理をする。私がいればある程度の敵は排除できる」

 「カラちゃん、ほんでも魔法使うモンとして、1人で勇猛果敢に攻め込むのは正直悪手やで」


 賢者はムーチョから受け取ったワインを少し口に含む。カラもその後を続くようにグラスを傾ける。


 「ダンジョンと戦さ場はちゃうからな。おのれ1人の武勇伝作りに来とるんやったら場違いやでな。その辺はしっかりわきまえや。戦さ場での立ち振る舞いの美しさこそ、勝ちの近道や。俺何度も言うとるはずやど?」

 「はい。気をつけます…」


 カラは頭を下げる。賢者はグラスを空にする。ムーチョは目を閉じながら嬉しそうな笑みを溢す。


 「さすが賢者様は違うね〜」


 鳥の亜人の男が手を叩きながら賢者たちに近づいてくる。


 「しかし今日はそんな酒にさせないぜ〜。仕事の話だよ。興味あるか?3本線」

 「どんな仕事よ」

 「残党がいやがるって話だ。どうやらキッポんとこが撃ち漏らしたくせに嘘ぶっこいて報告してたらしんだわ。その漏れた奴らがダンジョンの魔物連れ出してアチコチで暴れ回ってるらしいの。あ、ビール4つ。大将首もいやがる上に普段洞窟にいやがるデカブツと外でヤレる。ウマいだろ?」

 「俺はやめとくよ。この前の戦からどうも調子が悪い」


 ムーチョが眉間をかきながら頭を下げる。


 「利口な選択だと思うぜ?カラ、お前はどうする?」

 「行く。私はもっと強くならなくちゃならない。師匠のためにも、世界の平和のためにも」

 「よし!3本線お前はどうする?」

 「ゲキウマ。乗った」

 「話が早くて助かるぜ。とりあえず詳細を話したい。おい、上の部屋を借りてきてくれ」


 鳥の亜人は近くを通りがかった女剣士を呼び止め、指示する。女剣士は「自分で行けよ〜」と愚痴りながら受付の方へしぶしぶ向かう。


 「羊のはどうする?」

 「アイツはおってもおらんでも一緒や」

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