第4話 ギルドな会話①
冒険者と呼ばれるならず者達に仕事を斡旋する場所、通称ギルド。第一次世界大戦時、勇者が魔王を倒し、平和が訪れた際、それにより職を失ったツワモノ達を救うために設立された。当初は便利屋ぐらいの扱いだったが、近年の魔物の活性化に伴いその活躍が期待されており、今では人気職業の一つとなっている。
「あの2人、急に現れたと思ったら物凄いスピードで格を上げていきますね」
ギルドの受付に座るショートカットの女が山積された書類に目を通しながら話す。
「勇者と賢者?」
隣に座る眼鏡をかけた女は、涼しい表情で書類を適切に処理していく。
「そうそう。なんか変な言葉使いますよね?」
「噂では、異世界人、なんて言われてるわよ」
「あー。あたしそういう話嫌いなんですよね~。伝説の〇〇みたいな。昔からあの手のオトギバナシって皆キラキラした顔で語りません?若干しんどいっていうか…」
顔を歪ませながらショートカットの女は湯気立つカップを静かにすする。
「まぁ、興味はあんまりないよね。異世界から来ようが、要は仕事さえしてくれてればいいわけで―。あら!お帰りなさいませ」
眼鏡の女は受付に冒険者が現れると態度を豹変させる。ショートカットの女も手早く書類を整え、背筋を伸ばし、笑顔を張り付ける。
「やあ、お疲れ様。クエスト完了の報告に来たよ」
受付のカウンターにもたれかかる冒険者の男は2人に眩しい笑顔を見せる。そして勿体ぶるようにクエスト用紙を提出する。
「ふぇぇ!すごーーい!マンティコアを討伐されたんですかーー!」
ショートカットの女が目を輝かせ、甘い声を放つ。冒険者の男はその反応に満足する。
「さすがはラメル殿。銀等級の腕前、お見事でございます」
眼鏡の女は冷静に世辞を並べる。ラメルはまたもや満足し、首にかけた銀のプレートをわざとらしく触れる。
「いやいや、僕なんてまだまだだけどね。それに僕だけの力じゃないよ。信頼できる仲間がいたからこそ…さ」
「そういうお仲間がいるのもラメル様の人望の賜物ですよ~」
ショートカットの女は身体をくねらせながら大げさに振舞う。眼鏡の女もその言葉にゆっくり頷く。
「2人はこの後何時まで仕事なの?よかったら夕食でもいかない?」
気をよくしたラメルは流し目で誘う。ショートカットの女が「どうします~?」と聞こえる様な声量で尋ねる。
「お誘いは大変うれしいのですが、今日は仕事の方が溜まっておりまして…お恥ずかしいばかりです。その…また誘ってくださいますか…?」
眼鏡の女は上目でラメルを見つめる。ショートカットの女はラメルに見えない位置でガッツポーズを作る。見つめられたラメルはデートは断られたというのに落ち込むこともなく「も、もちろん!」と上擦った声で返答し、弾むように帰っていく。
「先輩、ラメルさんでいいじゃないすか。強いんだし」
「嫌よ。タイプじゃないもの」
「そんなこと言ってたら婚期逃しますよ~」
「スフレ、あんたイケばいいじゃない」
「うーん…あたしもいいかな~。なんか小さそうじゃないですか?」
「あんた大きいの痛いから嫌って言ってなかった?」
「あれは前の男がデカすぎたんですよ」
「デカすぎるのは嫌ね。あたしも裂けるかと思ったことある」
「でしょー?そういう奴に限って無理な動き方するでしょ?こっちのことはお構いなしか!ってね」
「わかるわかる。スフレ、コーヒー」
「はいはーい」
スフレは席を立つと裏に姿を消す。眼鏡の女は目を閉じて首を傾げる。骨の爆ぜる音が鳴る。ゆっくり目を開けるとクエストボードの前に見覚えのある2人が立っている。
「羊と3本線…」
「これなんてどう?」
「俺いまだに文字読まれへんねん。お前読めるん?」
「読めへんよ?」
「じゃぁもう家帰って寝とけや鬱陶しい」
「言い過ぎちゃう?言い過ぎちゃう?」
「また受付で聞こや。その方が早いって」
「皆みたいに掲示板眺めて、コレだ!ってやりたいわ…」
「俺らみたいなアホにはそんなん向いてないねん。夢を見るな」
眼鏡の女がコーヒーを淹れて戻ったスフレに耳打ちする。
「例の2人よ」
「ヒュ~!やっぱ雰囲気あるっすね~。さて、今日はどんなクエスト紹介します~?」
クエストボード前で話していた2人がゆったりと受付の方へ向かってくる。
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