5 想起

 アスキスは椅子から転げ落ち、頭を抱えのたうち回った。

 席を立ち、近くにあった超立方体に右手で触れるルデリンガ。

 超立方体の下部から、音もなく人一人が入れるくらいの立方体が滑り出ると、呻くアスキスの近くで止まった。

「この中に入ると楽になれる」

 激しい頭痛に襲われながら、ルデリンガを見上げるアスキス。

 

 罠か。

 

 不信を拭いきれないまま、うずくまり悶えるアスキス。

 最初は立方体の中に入ることに抵抗していたが、アスキスは頭の痛みに耐えられず立ち上がった。

 立方体の蓋部分は、手を触れると透明になり消え、内部にクッション素材が敷き詰められ、中に入って眠れるようになっているのが見えた。アスキスが中に入ると、消えた蓋部分の色が濃厚になり、蓋が閉まった。ルデリンガは、立方体の側面にある突起部分を軽く押した。


 蜂起する人々。地下ドームに侵攻するアンドロイド軍。アスキスの脳裏に浮かぶ見たことのない光景。頭を銃で撃ちぬかれ倒れ込むアスキス。バックアップデータから復元され、アンドロイド軍をハッキングし、イプシムと共に反乱者達を制圧し超立方体の中へと封印するアスキス。


 新人類を使った完璧な支配体制の下で、新世界の利権と完全なるコントロールを手に入れようと目論んだ反乱者達。


 気が付くと徐々に頭の痛みは軽くなっていた。


「あんたの言うとおりだ。殺したのは俺だ。本来協力し合うべき任務者同士が欲に目がくらんだ結果だ。全ての責任は俺にある」

 アスキスは半透明状の蓋越しに、ルデリンガに語り掛けた。

「俺は人を信じることを止め、信頼に足る人格データの探索すら諦め、一人で任務を遂行することを決めた。そして長い歳月の中で、自分に都合の悪い記憶だけは忘れていた。これは自分自身が招いた孤独だった」


 暫くして頭痛が収まると、アスキスは立方体の中から出た。

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