いたずら好きの狸様
トマトも柄
第1話 いたずら好きの狸様
ある村にはこんな伝承がありました。
この村には狸様が守っておられる、普段はいたずら好きの狸様だがいざという時は皆を助けてくれる心強い狸様。
村の人達は狸の像を作ってお供え物をするのが日課でした。
そこにいる村の女の子はいつも楽しく生活していました。
いつもみんなの周りを通りながら楽しく笑顔で笑っています。
今日、女の子は狸の像にお供え物をするのを頼まれていて、お供え物を納めに行っています。
すると、お供え物の前に何か茶色い物体がいます。
何かをムシャムシャと食べる音が聞こえてきて、何かを食べているという事が分かります。
女の子がチラッと見てみるとお供え物が無くなっているのに気付きました。
その茶色い物体は女の子の近くにいるのに関係無くバクバク食っています。
「ダメ―!」
女の子がその茶色い物体に叫ぶと、手を止めてこちらを見てきました。
その顔は狸の顔をしています。
けれど、二本足で立っており、器用に手を使ってお供え物を持っていました。
狸は驚いた目をして、女の子を見ています。
「僕が見えるの?」
女の子が何言ってるのみたいな顔でキョトンとしています。
女の子が小さく頷くと、
「僕が見えてる子を見るの久しぶりに見た!」
狸が驚いた様子で女の子に話します。
「狸さんは何でここの食べてるの?」
女の子は少し怒ったような顔をしながら狸に言います。
「え? 何でって? これこれ」
狸は供えられてる像を指差します。
そして、その後で自分の顔を指差します。
「あれ僕だよ」
女の子は像と狸の顔を見比べて言います。
「何か顔違う。 あっちの像の方がかわいく見える」
狸が崩れ落ちる体勢になって手と膝で体を支えています。
「ほら、あっちって村の人の想像で作ってくれたからさ」
狸が落ち込んだ声で説明しています。
「ここの狸って守り神って聞いたけどそうなの?」
女の子が聞いてきます。
「一応そうなんだけど…別にいたずらはしないから安心して」
狸は僕は大丈夫だよと手をフリフリして示しています。
女の子はそれを見て一歩後ろに下がります。
「下がらないで!」
狸が悲鳴に似た声で叫びます。
「だって何かされそうに思ったもん」
狸は再び落ち込みます。
「僕がしっかり見えてるってのは良く分かったよ。 こんなにはっきり見られたのは本当に久しぶりだよ」
「これからも私がお供え物するから狸さんちゃんといてね」
「一応僕、ここの守り神なんだけど」
こんなやり取りをしてから、女の子は毎日お供え物を届けに来てくれました。
もちろん狸は女の子に見えてるので、お供え物が来た時に必ず顔を出します。
そこからしばらくの月日が流れました。
女の子はいつものようにお供え物を届けに行きます。
けれど、今日は何かいつもと様子が違いました。
風が強く吹き付けて今にも雨が降りそうな雰囲気が出ております。
いつものようにお供え物を届けると、
「ぽんぽん!」
と狸がお供え物の匂いを嗅ぎつけてやってきます。
「はい、お供え物」
「もうちょっと丁寧な言い方してくれないの? 一応神様なんだよ」
「けれど狸なんでしょ?」
言われた狸は無言になりました。
「間違ってないじゃない」
狸はお供え物を貰ってムシャムシャ食べました。
「あ、明日からしばらくお供え物は大丈夫だから」
女の子は狸の言葉に首を傾げます。
「何で?」
「村に帰ったら分かると思うよ。 みんな準備をして備えていると思うから」
「備える?」
女の子は疑問を持ちながら村に帰りました。
村に着くと皆はバタバタと色々準備をしていました。
女の子は事情を聞くと、どうやら大きな台風が近づいてきているという話らしくみんな飛ばされない為の対策をしているとの事でした。
女の子も急いで家に帰って、村の人達と一緒に手伝いました。
ぽつんと山の上で狸が立っています。
周りには何も無い事を確認しており、人影や動物も見当たりません。
「さて、村の人達にはいつもお供え物を貰っているのだから、僕もその分働かないとね」
狸の前には大きな突風が待ち構えています。
「ぽんぽーん!」
狸は両手を前に掲げ突風を必死に食い止めています。
風の力はとても強く、狸の周りにあった木々も風の力によって吹き飛ばされています。
ただ、狸が必死に風を食い止めており、狸の周りは風が吹いていませんでした。
「まだまだぽん! 村の人達の恩をしっかり返さないといけないぽん!」
狸は必死な顔になって食い止めています。
そして、みるみる内に風の力が弱まっていきます。
「まだ完全には収まってないぽん! 完全に止まるまで力をだすぽん!」
狸は決して手を緩めませんでした。
そして数時間以上の激闘をして狸は風を食い止めました。
村に朝が訪れました。
村の人達が今の村の現状を確認しています。
不思議な事に村にはまったく被害がありませんでした。
村の人達はとても不思議そうな顔をしています。
その中で一人だけ何でか分かった子がいました。
女の子は狸様が守ってくれたんだと皆に言いました。
村の人達もきっと神の恵みがあったんだという事で、女の子の言う事を信じました。
そして、女の子はお供え物を供えに狸の像に向かいます。
狸の像に着くと、像は色々な所が破損しており、元の原型が見えないほどでした。
その像の前で思いっきり狸がいびきをかきながら寝ています。
女の子が近くにいるのに気付いたのか、お供え物の食べ物の匂いに気付いたのか分かりませんが、鼻をヒクヒクさせながら起きました。
「お供え物持ってきてくれたの?」
狸は寝ぼけながら女の子に話しかけます。
「ええ。 持ってきたよ」
「わーい!」
狸はお供え物を貰い、バクバクと食い始めました。
「昨日の台風から狸さんが守ってくれたんだね。 ありがとう」
それを聞いて、狸は首を傾げて、
「何それ? 僕は昨日ぐーすか寝てたから知らないなー」
女の子はそうなんだと頷きました。
「ここの像壊れてるのみんなに教えてくるね。 きっと直してくれるから」
「おお! ありがとう!」
そして、女の子は狸に手を振って別れました。
狸はそれに手を振って答えています。
帰り道に女の子はボソッと言います。
「狸さん。 嘘を付くのが下手なんだね」
女の子はもう気付いていたのです。
狸が村を守ってくれていたことに。
女の子は見ていました。
狸の手がとてもボロボロになっていて、昨日一生懸命に守ってくれていたことに。
いたずら好きの狸様 トマトも柄 @lazily
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