第18話 決着


爆発が起こった。


衝撃で部屋が揺れる。


「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」


「くっ……健っ……!」


素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。


その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。




その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。


「……お……お兄ちゃん……」


涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。


幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。




――涼子の目に、床に転がっている鉈が映った。




涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。


「ふはははははははっ!藤原君、そろそろお別れの時ですね!僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」


涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。


藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。


「よりによって、屁たれのクソダコにられるとはな……」


「死ねっ!」


――その時だった。




「やああああああああっ!」




涼子が雄介の首目掛けて、渾身の力を込めて鉈を一気に振り下ろした。

 




「お兄ちゃん……」


その声に藤原が安眠マスクを取ると、そこには血まみれになった鉈を手にした涼子が立っていた。


「……涼子!ゆ、雄介は……」


涼子が力なく、人差し指を雄介の首に向けた。


「……」


雄介の髪は元に戻っていた。


「やっと呪いから解放された……とう訳か……」


涼子が鉈を放り投げた。


藤原が立ち上がり雄介に近付くと、傍らに真紅のしずくが転がっていた。


するとそのしずくが、藤原に呼びかけた。




――欲しい物をやろう――




ボンッ!



藤原がトリガーをひき、しずくは粉々に砕け散った。


「あんまり……人間をなめんなよ……」


その時、しずくの中から真っ赤な妖気の様なものが立ち込めた。


「な……」


その妖気が、藤原に語りかけた。


――人間の世界に欲望がある限り、私は滅びない……必ず私は戻ってくる……必ず……――


やがて妖気は、静かに風化していった。


「欲望か……確かにそうかも知らんな……」


藤原がつぶやいた。


「お兄ちゃん……健ちゃんは……」


涼子の問いに、藤原は無言で首を振った。


「健……ちゃん……」


その場に崩れた涼子が、手を口に嗚咽した。


「泣くな……悪夢は……悪夢は終わったんや、涼子……」


窓の外に目をやると、白いもやで覆われていた空から、太陽の光が差し込まれていた。




ガチャッ!




突然、玄関のドアが開いた。


「なっ……!」


そこには、血まみれになった直美が立っていた。


ゆらりゆらりと近付きながら、直美が床に転がるグロックを手に、藤原に向けた。



ボンボンボンッ!



直美と藤原が同時に撃った。


直美の弾はれ、藤原の左肩をかすめた。


藤原の弾は直美の額に命中、直美がその場に崩れ落ちた。


「……屁たれが……」


藤原がガバメントを投げ捨て、そうつぶやいた。


涼子が母に巻きついているコードを外し体を揺らすと、母も意識を取り戻した。


「……」


藤原が窓から街を見下ろす。


「お兄ちゃん、終わったんやね……」


「ああ……失ったんは……でかいけどな……健……本田……坂口さん……直美ちゃん……」


「私は大丈夫よ、お兄ちゃん……」


そう言って涼子が、藤原に寄り添うようにもたれかかってきた。


「また……いい彼氏見つけるから……」


そう言って小さく笑う涼子の瞳に、涙が光った。




徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の人間の姿に戻っていた。


しかし坂口の言っていた「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返ってきた。


確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はなかった。


市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。


しかし藤原は、街を見下ろしながら思っていた。


(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)



涼子の肩をそっと抱いた藤原が、ようやく笑った。


「やっと……終わったんやな……」

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