第17話 健太郎の最後
雄介が拳を握り締め、体をわなわなと震わせた。
レースでよく見えないが、泣いている様にも見えた。
そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。
「あっはっはっはっ!」
雄介の虚しい笑い声が室内に響く。
「……分かりました……僕には……僕にはやっぱり友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……
まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」
「何……直美ちゃん……やと……」
雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。
「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」
「待て健」
身を乗り出して叫ぶ健太郎を藤原が制した。
「……あかん、目が死んどる」
「な……直美ちゃん……」
「ええ、彼女はもう僕の忠実な下僕です……彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには惜しい……そう思いましてね、彼女にはその姿のままで僕の番犬になってもらったんです……
さあ直美さん!まずは健太郎さんを殺して下さい!」
その声に、直美の体がピクリとした。
ゆっくりと健太郎を見据えると、一気に突進してきた。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
防御する間もなかった。
直美の肘が、健太郎の顔面を捉えた。
「ぶっ……!」
健太郎が血を吹く。
頬骨が砕け鼻が折れた。
続いて蹴りが入りあばらが砕ける。
リミッターの外れた直美の一発一発が、健太郎の肉体を破壊していく。
「な……直美ちゃん……頼むから、お願いやから正気に戻ってくれや!」
健太郎が叫ぶ。
しかし直美の攻撃は止まらない。
健太郎が右ストレートを放つがあっさりと腕を掴まれ、足を払われた。
「ぐっ……直美ちゃん、勘弁してくれやっ!」
馬乗りになろうとした直美に、ショットガンを向けた健太郎が叫んだ。
ボンッ!
ショットガンが火を噴いた。
その瞬間、直美の左手が素早く動いた。
「げっ……ん、んなアホな……」
ニタリと笑った直美が手を広げると、手のひらから散弾がボロボロと落ちた。
「や……やっぱし直美ちゃんは半端な人間とちゃう……」
健太郎が仰向けのまま後ずさる。
直美は立ち上がり、ゆっくりと間合いを詰めてくる。
「さて……」
二人の戦いを見ていた雄介が、藤原に視線を移した。
「あなたのお相手は僕ですよ、藤原君……あなたは僕の中に残る最後の人間性です……僕はあなたを殺す事で、人間を超えます……」
雄介がゆっくりとレースを取った。藤原が慌てて安眠マスクをする。
「じわじわと……なぶり殺してやるっ!」
雄介が目を見開いた。
すると、視線の先にあった物が粉々に砕けた。
「くっ……こ、こんガキ……!」
藤原が発砲する。しかし目が見えない為、あさっての方向に弾が飛んでいく。
「ふ……ふははははははははっ!」
雄介が流れる涙を拭いもせず、高らかに笑う。
雄介の目が妖しく光った。
すると床に散乱していた無数のコードが、まるで生きている様に動き出し、床はまるでウオーターベッドのように波打った。
足を取られて転倒した藤原に、コードが襲い掛かる。
「くっ……」
藤原がグロックを捨て、腰に差していたダブルエッヂのナイフを抜き、当たり構わず振り回して抵抗する。
その藤原に向かい、雄介の鋭い視線が襲いかかる。
「ふんっ!」
「ぐっ……」
藤原の左肩が血にまみれた。藤原が吠える。
「ええ加減にさらせよこのクソダコ!」
ボンッ!
銃声が響いた。
「ぐえっ!」
撃った一発に、藤原が確かな手応えを感じた。
そして同時に聞こえたうめき声に、藤原がニタリと笑った。
「当たったか……コツがつかめてきたぞ!」
「違う!」
健太郎の声が響いた。
「今お前が撃った弾は、俺の脚に当たったんじゃこんボケッ!」
「何、健に当たったんかい」
「ふはははははははっ!」
雄介の嘲笑が部屋中に響いた。
一方その健太郎は、直美のサンドバッグと化していた。
コードによって両手の自由が奪われた健太郎は、ただひたすらに殴られ続けていた。
意識が朦朧としてきた健太郎。
その彼が、最後の力を振り絞り、拳を握り締めて吠えた。
「ぐおおおおおおおおおっ!」
コードをぶちぶちとちぎる。
何とか腕の自由を取り戻した健太郎は、ポケットから取り出したジッポを手に、藤原に向って大声で叫んだ。
「藤原っ!涼子ちゃんを頼むぞっ!絶対幸せにしてくれやっ!」
そう言って直美にしがみつく。
「頼むぞっ!お前の
直美のエルボーが容赦なく健太郎の肩に炸裂する。鎖骨が砕ける。
「う……うおおおおおおおおっ!」
健太郎が直美にしがみついたまま、窓ガラスに向って突進した。
「あ……」
窓ガラスが粉々に砕け、健太郎と直美が十三階から飛んだ。
「なぁ直美ちゃん……あんたはほんまに、ええ
そう言うとジッポで、腹に巻かれたダイナマイトの導火線に点火した。
「直美ちゃん……あの世でも、太腿さすったるさかいにな……」
ドゴオオオオオオオオオオオッ!
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