第6話 装備完了!
――10分後。
「おえ本田、お前を仲間に入れたったんは他でもない」
改めて健太郎が、やっと落ち着いた本田に向かって話を再開した。
藤原はまだ笑いのツボが取れきれず、時折肩を震わせていた。
「お前の持っとる銃や。あるだけ見せてみい。そん中で使えそうなやつを俺らが選ぶ」
「うん……」
本田が押入れの中から、大きなダンボールを引きずってきた。
箱を開けると、男なら誰もが憧れる金属とオイルの匂いが広がった。
その匂いに、ようやく藤原も笑いのツボが取れ、好奇まじりの緊張感溢れる男の顔になった。
健太郎が手を入れ、無造作に物色を始める。
「なるほどなるほど……闇でトカレフは定番やのぉ……それと……何しろ石像と戦うんやからな、半端な武器では勝てん。他にええ
「うん……そやけど僕もまだ、一回も試射してへんやつばっかりなんやで。そんなんまで健ちゃんに渡さなあかんの」
「ひつこいやっちゃのぉお前は。何遍
「そやけど健ちゃんは涼子ちゃんを助ける為だけに行くんやろ。なんで僕までついていかなあかんの」
「まだ
「……ここ
「ほぉ……うまい具合にハンドガンが五丁かえ。そやけど全部
「僕、リボルバーはあんまし好きとちゃうねん」
「なるほど、こだわりっちゅうやつやな。そやけどお前、オートはジャムったら
ジャムるとは、
その点
「僕の手入れした銃は絶対大丈夫やもん」
「
「んな訳ないやんか。そやけど僕が一生懸命集めた宝物なんやで。勝手に無茶な使い方されたら嫌やねんけど」
「何や、ほんだらお前も行くんかえ」
「……う、うん……分かった、行くよ」
「よっしゃ。あんましあてには
「お前はほんま、強引やのぉ……」
藤原が、半ば呆れた表情でそうつぶやいた。
「何
「……まあ、そう言われればそやけどな……本田、ほんまについて来るんか」
「うん……大丈夫、僕もついてく」
「そうか……ほんだらええけどな。あくまで自分の意思に従ってくれや。強制はしたないから」
「何
「……分かった」
「よっしゃ、決まりや!……と、それはええねんけど本田、お前、何押入れん前に立っとるねん」
「え……?ううん、何も隠してへんよ」
「そうかそうか、何も隠してへんのか……おえどけっ!」
健太郎が本田を蹴飛ばして、押入れを一気に開けた。
「あ……」
本田の顔が青くなる。
「ほおおぉっ……何も隠してへんてか……そかそか……おえ本田、俺、え~
「やめてやめて」
「じゃかましわいボケっ!これは何やねんっ!」
押入れに腕を突っ込み、健太郎が中からマホガニー製の長細い箱を出した。
「な~にが入っとるんかの~」
真っ青な本田を無視して健太郎が箱を開けた。
中はビロードの内張りが見事に施されており、そこにポンプアクションのショットガンが納まっていた。
「こないええ
「ぶっ……」
再び健太郎の右ストレートが炸裂した。
「おえタコ、これも使うからな」
「け……健ちゃん頼むから、後生やからこれだけは堪忍して……それは僕の命の次に大事な大事な宝物やねん」
「じゃかぁしわいこのエロザルがっ!これあるとないとでは戦力も桁違いじゃ!……そやけどちょっと銃身が長すぎるな、実戦仕様に変えとくか……おえサナダムシ、これ以上殴られたなかったらな、ポエムアップされたなかったらな、今すぐ糸ノコ出せ。ちょっとストック切っちゃる」
「け……健ちゃん……」
「は~よせ~えや~」
本田がベソをかきながら糸ノコギリを持ってきた。
それを奪い取ると、健太郎が無造作に木製部分を切り出した。
「あ……ああ……」
本田が崩れ落ちる。
数分足らずで本田の宝物は、無残な姿に変わり果てた。
「よっしゃ、こんぐらいでええやろ。これやったら近接戦闘になっても小回りがきくっちゅう
健太郎が満足そうにほくそえんだ。
藤原は泣きじゃくる本田の肩を抱いてあやす。
「すまんな、本田」
「うん……ありがとう藤原君、大丈夫やから」
本田が瞳をうるうるさせて藤原を見つめ、力なく笑った。
「……後は坂口さんやな。今時間は……おお、なんやかんや
「ピザでも頼む?」
「ぼけええええええええっ!」
「ぶっ……」
またまた右ストレートが炸裂し、本田が血を吹いてのけぞった。
健太郎が鬼の形相で立ち上がり、本田を見下ろして吠えた。
「おどれは今まで何聞いとったんじゃこの鼻糞がっ!電話は怖いからあかんっちゅうとるやろうがっ!まだこの辺は大丈夫らしいけどな、そやけど念には念を入れとかんと、いきなりお前が石像になったらどないするんじゃ!
「……う、うん……分かった……」
鼻血を拭きながら、本田が台所へと歩いていった。
「……おい健、お前ほんま、自分より立場の弱いやつにはとことん強気やのぉ」
「当たり前じゃ、弱肉強食が地球の鉄則じゃ。今から飯食って……寝屋川やったら一時間ぐらいか。坂口さんおってくれてたらええんやけどなぁ。まさか電話でアポ取る訳にもいかへんし、こんな時はほんま、不便やのぉ、携帯使えんっちゅうんは……
おえ本田、何があるねん」
「レトルトカレーしかないけど……」
「何でもええ、はよ作れ。それにしてもこの部屋、玄関がないせいか冷えるのぉ。おえ本田、エアコンぐらいつけたらどないやねん。全く無愛想なやっちゃで、客が来とるっちゅうのにエアコンもつけんとは」
「……ごめん」
「そうや本田、こんだけ銃は
「うん、銃一丁にマガジン五つずつついてる」
「五つか……まあええか。おおっ、
「健ちゃん」
「なんやサル」
「笑われるかも知らんけど……市内に行くんに一つだけ頼みがあるんやけど、聞いてくれる?」
「おぉ何や、
「僕、出来たらタイガーストライプの迷彩服着て行きたいんやけど」
「はぁ?」
「こんな時ぐらいしか着られへんもん」
「ほんまお前は、訳の分からんこだわり持っとるのぉ。まぁええ、好きにせえや」
「よかった、折角戦争するんやもん、格好ぐらいつけたいし」
「わぁったわぁった」
「おい健」
「何や」
「その迷彩、俺も着てええか」
「藤原お前もかえ……おえ本田、その迷彩っちゅうんはどんぐらい持っとるんや。藤原も着たいっちゅうとるわ。どうせや、俺も坂口さんらも着ていくわ」
「ええよ、迷彩服はようけ持ってるから。あ~、何かゲームやってた頃思い出すわ」
「訳の分からん感傷にふけるなこのエテ公が。おおっ、
「うん」
「ごめんな本田」
「うん……でも、やっぱり大事な友達が困ってるんやもん、やっぱしここは踏ん張って男らしさ見せんとね」
「そう
「だから健ちゃん、それやめてって。僕の命の次に大事なショットガンまで貸すんやから」
「あぁあぁ分かった分かった。よっしゃ、ほんだら食お食お。腹減ってたら戦も
「そやな」
「おえ、お前ら」
健太郎が手を差し出した。
「おおっ!」
「うんっ!」
三人が手を合わせた。
その時だった。
家の外から拍手と歓声が起こった。
何事かと振り返ると、そこには近所の住人たちが集まっていた。
「ええぞええぞっ!それでこそ日本男児やっ!」
「頑張れやっ!」
トカレフの流れ弾を食らい、頭から血を流している老人も惜しみなく拍手を送る。
「わしもお役に立ちたいんじゃがな、何しろこの年じゃ……代わりに奮励……努力して……く……れ……」
言い終わると、老人は事切れて崩れ落ちた。
「こ~ろした~こ~ろした~♪明ちゃんが~こ~ろした~♪」
皆が歌いだした。
「心配すんな、じいさんの死体はどっかに埋めといたる」
住人たちは玄関で、一部始終を聞いていたのだ。
拍手が更に大きくなると、健太郎が照れくさそうに手を上げた。
「ありがとさんです、ありがとさんですっ!気合入れて
「おおっ!気合やぞっ!明ちゃんも頑張れやっ!ふんばらんとダークジェノサイトの名が泣くでっ!」
「うわああああっ」
「うはははははははっ!」
歓声が笑い声に変わった。
健太郎が言った。
「気合入れてきますわっ!」
「おおっ!頑張れやっ!」
一人が白飯を持ってきた。
「カレーだけやったら力もつかんやろ、差し入れじゃ、食え食えっ!」
「すんませんっ!」
住人の拍手と歓声の中、三人が照れくさそうに笑いながらカレーを頬張った。
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