第119話「県大会」

 千葉ダンジョンを攻略してから2ヶ月の時間が経過し、7月に突入していた。

 今日まで私達はダンジョンに潜り続けて居たが、それは関東に有るダンジョンでは無く、札幌の中級ダンジョンだった。

 札幌ダンジョンの推奨攻略レベルは35、1階でレベルを上げるには敵のレベルが物足りない、最初に地下2階に降りた時にはSDTFにも協力してもらって、最強の布陣で挑んだ。


結局地下2階、更には3階共にアンデッドの徘徊するカタコンベ型ダンジョンで、平均レベルは地下2階が45、地下3階は55と10レベルずつ上がって居た。

 地下3階でも埒が明かないと4階に降りた、勿論それなりの戦力を備えて。

 しかし10レベルずつ上がる法則はれ、4階の敵平均レベルは60と成って、地下4階で魔物を狩り続ける日々が続いて居た。


「リュウ君2ヶ月経ってもレベル上がらなかったね」

「レベル上限説が現実味を帯びて来たか、横浜ダンジョンに挑戦してみた方が良いのかも」


 2ヶ月間の間に攻略メンバーを変えて、レベルの上がり具合を確認しても居た。

 腐女子の味方たーみん先生も連れてきて、聖女の力を見せて貰ったが、アンデッドに対してほぼ無敵に近い活躍を見せた。


現状限界であるレベル64に達して居るのは、私、涼子、森下、野田、英美里、ターミン先生、山村、鹿島の8名で、誰もが64を越えてレベルが上がっていなかった。  

同じメンバーでレベルを上げ続けるのもモチベーションに関わる、レベルが上がる様子が見えないから尚の事で、コスモや肥後を誘ったり、ド外道後輩3人組をメンバーに加えたりもした。


結果私達以外のメンバーはレベルがどんどん上がっていき、64に近づくと上がりが悪く成る。最初の街でスライムを倒し続けてレベル99にする事ってのは出来ない仕様なんだと確信した。


それはレベル20代だった、大島、萩尾、竹宮のど外道娘がレベル63まで上がっても、私達のレベルが上がってない事で予想から確信に変わったのだ。


「そうなのかな、中級だともうレベルは上がらない気がするけど、たーみん先生は池袋ダンジョンに入ってても64から上がって無いんでしょ」


 そうなのだ、推奨攻略レベル50の池袋ダンジョンを主戦場にしているターミン先生達も、レベル64を越えて居ない、潜っている階層が3階で、敵の平均レベルはまだ60だと言う事も関係しているのかも知れないが。


「もう1階層下に降りてみる?」

「それは今は辞めて置きたいかな、小田切先生がレベル64に成ってからでも遅く無いと思う」


 本音を言えばターミン先生や英美里も同行してもらいたい、忙しく世界を飛び回っている山村や鹿島を貸して欲しいとは言えないが。


「夏休みにならないと伊知子先生は無理だよ」


 小田切も全くレベル上げに参加してない訳では無く、先日の日曜には60まで上げて居る。

 まもなく夏休みに突入するのだが、今度は私と涼子は剣道の大会に参加する事になり、暫くダンジョンに入る事は出来なくなりそうだった。


「地下5階にボスが居る気がするんだよな」

「何か根拠は有るの?」

「ほとんど感みたいな物だけど、魔物のレベルがこれ以上上がらない気がするんだ、あの推奨攻略レベルってのも無茶苦茶だと思う、レベル30代のまま地下4階まで降りたら死ぬんじゃないかな」


 推奨攻略レベルと言うのは、一番最初に入る階層のレベルではと疑いたくなる。


「今日で暫くダンジョンは入らないんでしょ」

「まあね、ギリギリで大会に参加出来て本当に良かったよ」


 県大会には団体個人両方エントリーしていて、地区予選は既に終わり、私も涼子も本線出場を果たしている。


「リュウ君優勝するつもりなの?」

「どうかね、それは相手次第だと思うよ」


 私より高レベルの男子高校生が居れば必然的に負けるだろう、今回イカサマ的なスキルや魔法を使うつもりは無い、わざと負けるつもりは無いけど。


涼子と一緒に公舎に帰って森下に新たな情報が入ってないか確認してもらった、岐阜中級ダンジョンが攻略されたようだ、それも攻略したのは公認冒険者で、それと同時にレベル30を越えた冒険者が100名を突破しダンジョン攻略連合の常任国入が決定した。








「一緒にハワイに行かないんすか」

「全国大会に参加するんで」

「涼子ちゃんも行きたいっすよね」

「うん行きたい」


 森下に誘われて居るのはダンジョン攻略連合第一回会合がハワイで行われ、常任国条件を満たした、アメリカ、日本、ドイツで親睦会が有り、そこに日本代表冒険者として参加しないかと打診されているのだ。


森下はSDTFスタッフとして参加するので、アメリカ、ドイツに対抗するため高レベル冒険者を、集めて居るらしい。


「涼子ちゃんも行きたいって言ってるっすよ、7泊8日で遊びたい放題なのに何が不満なんすかもう」

「だから剣道の全国大会が有るんですって、その期間」

「県予選で負ければ良いっすよ」


 もう無茶苦茶だ、涼子はそもそも剣道に興味が有るとは思えない、実際私もそんなに興味が有る訳ではない。

 しかしそれでも世間の柵って物が有るだろう、 剣道部の鳥羽上や魁皇の事も有るし、涼子と一緒に全国を目指していた、千葉や道場でも世話に成っている美奈子の事も有った。


「全国制覇しますので」

「えー、ハワイっすよハワイ、ハワイと部活どっちが大事なんすか」

「私と涼子は部活で青春を謳歌するって誓ったんで」

「リュウ君私そんな誓い立てて無いよ」


私の言う事なら何でも2つ返事だった涼子が大人になって反抗してきた、嬉しくも有り、悲しくも有る。

 感慨深い物が有るが面倒くさい、部活で高校に入学してるんだから、少しくらいやる気を見せないと学校に悪いと思う。


「一緒に行きましょうよ、きっとハワイなら臭っさい剣道着より素敵な思い出が残るっすよ」

「野田さんと三馬鹿連れて行ったら良いじゃないですか、仲良くなったんでしょ」「えー、梨乃っち最近怖いから嫌っす」


 野田はやっと怪しい儲け話から手を引いて来れた、この2ヶ月の間に何かが起こったらしいが、その話は聞いていない。


「野田さん真面目になったもんね」

「あれは嵐の前の静けさっすよ、きっと。その内どでかい事をしでかす気がします」


 その意見には私も同意するが、100に1つくらいは本当に更生したかも知れないでは無いか。


「つみぎちゃんと、みのりちゃんと、みねこちゃんはハワイなんか連れてっちゃ駄目っすよ、アメリカンヤンキー共のハートを鷲掴みにしちゃいますもん」


 大島つむぎ、萩尾みのり、竹宮みねこの3人は野田曰くど外道なのだが、私が持った第1印象は普通の女子大生だった。

 3人とも美人で実家が裕福の上スタイルも良い、野田や英美里達と関わっては駄目だろうと言うタイプなのだが、はやり本質的には残念女子でも有った。


「日米友好に丁度良いじゃ無いですか」

「サトピョン冷たっ」


 誰がサトピョンやねん、と心の中で突っ込んだが声を出したら付け上がる、このまま黙ってスルーだ。


「和美さんは江下さんと一緒の部屋なの?」

「このままだとそうなんすよ、彩世の局が隊長と一緒の部屋になれば良いのに、噂によると彼氏が出来て浮かれてるって話っす」


 彼氏と部屋割りの話全く関係が無いのに、何故ここで話に挟んできた。


「へー北川さん彼氏が居るんだ、あの北条さんかな」

「玲央じゃ無いかと睨んでるんすよ、大穴で山村班長って線も有りっすよね」


 鹿島も山村も既婚者じゃ無かったか、高レベル冒険者同士の不倫なんて不幸な結末しか見えて来ない。


「和美さんと肥後さんってどうなったの」

「どうも成ってないっすね、でも御園さんとは完全に終わったみたいっすよ。それだけが今年一番の朗報っす」

「まだ続いていたんですかあの2人」


 肥後が御園に未練タラタラだったのは見ていて判ったが、完全に切れていた物だと思っていた。


「御園さんもそれなりの年齢っすから、色々有ったんでしょうね」


 御園もそろそろアラフォーに足を突っ込む、階級がそれなりに高いし、下手な男と付き合う事も難しくなるのだろう。


「ねえリュウ君本当に行かないの」

「行かないよ、今年のインハイは沖縄らしいし、沖縄で遊べば良いだろ」

「えっ、沖縄なの、そうなんだ沖縄なんだ。じゃあ新しい水着また買いに行かないとね」


 買い物は乗り気はしないが、涼子がそれでやる気を出してくれるなら、付き合うしか無いなと思い、頷いてしまった。



 夏休みが入って数日で県大会が始まった、会場は県立体育館で団体戦から始まる。5人対5人で勝数が多い方が勝利するトーナメント式で、私は1年生ながら大将として出場している。


「本当なら俺が大将を務めなきゃならないのに負担を掛けて悪いな」


 主将の鳥羽上は副将を務めて居る、部活が完全に再開されてからまだ1月と経っていない、鳥羽上は生徒会役員も務めて居たので、本調子と呼べるまでにはまだまだ遠かった。


「本番は全国大会ですから、その時に調子を戻して居れば良いんですよ」

「それもそうだよな、薫と聡志の二枚看板で勝ち進んで貰おうぜ」


 調子に乗っているのは副主将の澤崎、高等部から剣道部に入って来たのだが、対外試合禁止の中最後まで残っていた3年の1人だ。


 試合のオーダーは先鋒が魁皇、次鋒は巨漢の2年生村上、中堅が澤崎、副将が鳥羽上、大将が私で、怪我が無い限り決勝までこの布陣だ。

 1回戦、私達は春の大会を欠場しているからノンシード、相手は千葉では古豪の高校だったが無難に勝ち上がった。


 準決勝に進むまで無敗で来たのだが、現在先鋒の魁皇以外負けが続き、副将の鳥羽上が負けれると敗退が決まる所まで来てしまった。


「鳥羽上先輩ファイトー」


 黄色い応援が飛ぶ、女子部の生徒では無く一般の応援からの声だ、剣道部では珍しい歓声で注目が集まる。


「判定」

「赤3本で慶王付属の勝利」


 鳥羽上が判定までもつれて勝ちを拾った、練習不足が私の目から見ても明らかだった、中学時代に見たあの常人離れした強さは見る影も無かった。

大将戦はすんなりと私の勝利で終わる、対戦校が大将を実力不足の1年を持ってきていたので、大将戦までに勝ちを得るつもりだったのだろう。



 昼休みを挟んで決勝が行われた、決勝までオーダーを変えないと言ってた顧問の氏家は、副将の鳥羽上を次鋒に回し勝ちを狙いに行く方針に変えてしまったようだ。

結局決勝戦は4-1で私の出番までに優勝が決まってしまった、唯一負けが着いたのは副将戦に回された澤崎で、ともかくインターハイへの切符は手に入れた。


「この状況下でお前たちは良くやったよ、明日からは個人戦が始まるが気楽に行って欲しい」


 氏家の激励も弱い、注意するべき点は山程有った筈だ、しかしまだ学校側は通常の部活の範囲しか許していなく弱点を克服する時間が無い、合宿なんかの短期集中練習はまだ許可されて居なかった。


 女子部は県大会、全勝で全試合を終わらせ、すんなりと優勝していた、美奈子が部活禁止期間や自粛期間に、此花神社の道場を使い部員に指導していたようだ。

 大会2日目、個人戦が行われた、正直負ける要素が一切ない簡単にベスト8まで進むと、2日目が終わり男子部で残っているのは私の他には魁皇と鳥羽上の2人だけだった。

 8人中3人も残ったと見るか、県内最強を謳われて居た付属が過半数も取れなかったと見るべきか。

 どちらにせよ別山に居る魁皇と鳥羽上とはどちらか一方、しかも決勝戦でしか当たらないと言う事になった。


「涼子は当然勝ち進んできたとして後の7人は誰が残ってるの?」

「佐奈ちゃんと美奈子さんは残ってるよ、後は3年の茅ケ崎さんも」


 茅ケ崎の事は名前は聞いた事が有るが、顔は思いうかばないと言った程度の先輩だ。私と違って涼子は同じ山に茅ケ崎と千葉が残っている、美奈子とは決勝でしか当たらないが美奈子が決勝に残れるとは思えなかった。



 3日目、準々決勝は直ぐに終わり、準決勝の相手は付属が試合に出られない春の大会で頭角を現した南房総高校の生徒だった、誰かが実質上の決勝戦だと言っていたが、やはり私と対戦するにはレベルが足りなかったようで一瞬で終わった。

 涼子の方は準々決勝は茅ケ崎と当たり、無難に勝って、準決勝は千葉と当たりやはり勝ち進んだ。


「リュウ君おめでとう」

「涼子もね」


 個人戦は1位と2位がインハイに進めるので、私と涼子は団体戦、個人戦共にインハイに出場出来る事となった。

男子部の別山準決勝は、鳥羽上と魁皇が戦う事になった、才能で言えば鳥羽上が圧倒的だが4ヶ月まともに練習が出来ていない、一方の魁皇は才能には恵まれなかったが体格は勝っている、その上千葉の道場で鍛えて居たので練習量も充分だ。


事前予想では魁皇に軍配が上がるのかと見ていたが、結果は鳥羽上が2本先取して完勝していた。


「主将と本気で試合するのは2年ぶりですね」

「俺は聡志とやる時は何時でも本気だったよ」


 やる気全開の鳥羽上には申し訳ないが、女子の準決勝がまだ1戦残っている、準決勝を戦う1人は美奈子で、もうひとりは知らない他校の女子だ。


「ところで達也先輩女子の準決の岡崎女子の3年生、強いんですか」

「女子の事は解らいよ、多分川上さん程では無いと思うけど」


 涼子並の生徒が居たら、それはもう私達より高位の冒険者にほかならない。


「美奈子さんと比べてどうですかね」

「相当運に恵まれないと勝てないと思う」


 運次第と言われた準決勝が始まった。

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