第118話「草薙の剣」

「ドロップしたアイテムが有るっすよ」

「あの状況でどうやって持って帰って来たんですか」


 森下が一振りの剣を持っていた、『鑑定』すると草薙の剣と言う名称と攻撃力50と言う超絶武器だった、ただ耐久は7500と低いので使い続けられる物ではない。  

 しかしこんな物、誰が使うかで揉める未来しか見えない。


「リュウ君レベル上がった?」

「今確認するのは無理、涼子は上がったの?」


 ほとんど魔力を使い果たしたから倒れるかと思ったが、意外と平気で座ってられる、魔力が尽きる事に慣れたのだろうか。そえでも自分のステータスを確認することは避けたかった。


「レベル64になったよ」

「4つも上がったのか、次に入るダンジョンは少し考えないと駄目だね」


 一気に上級ダンジョンまで潜っても良いのか、と思わないでも無いが、5階層あると思ったら3層目でボスとエンカウントした。

 下手をすると2階層目で、ボスとエンカウントする可能性すら有る。


「涼子は何かドロップしなかったの」

「最後のトドメを刺した和美さんだけしか、貰えないんじゃないの」


 今までボスを倒してドロップした物なんて何か有ったかな、記憶に無いな。


「でも倒した首は『簡易アイテムボックス』の中に1本入れて来たよ、和美さんも入れてたし、野田さんなんて2本も入れて居たから」


 確かに私も魔力さえ有れば『収納』していたと思う、今回の攻略報酬の分配が面倒だな。


「野田さん、ダンジョンの残骸収納したら売れるみたいですよ」


 少し大きな声で野田に声を掛けると、へたり込んでいた野田がスクっと立ち上がり、ダンジョンの残骸を回収しにいった。


「緒方君少し良いですか」

「山村さんもう大丈夫なんですか」

「ええ、まだ身体は重いのですが、大丈夫です。今SDTF本部に連絡を入れたんですが、藤倉課長が直接出張ってくるそうなんです。持ち帰ったアイテムやダンジョンコアについて相談が有るそうです」


 ダンジョンコア?初めて耳にする言葉だ。


「ダンジョンコアって何ですか」

「ご存知有りませんか、今、野田さんがまさに『収納』しているダンジョンの残骸がダンジョンコアです。高レベルな『鑑定』を使わないと看破出来ません」


 ダンジョンコアね、ダンジョンの残骸はほぼ全てコスモに渡していた、高額でクレジットに換金出来るからボーナスアイテムかと思っていたのだが、そう云う事だったのか。コスモに隠し事が有る事はなんと無く判っては居たが、そう云う話ね。


「その話はSDTF内では共有されてるんですか」

「判りません、私も京都ダンジョンを攻略した時に初めて聞かされました。我々は公僕なので構わないのです、ですが緒方君達は民間のしかもまだ未成年です。騙すようなやり方には納得出来ません」


 山村さん見かけによらず熱い人なんだな、私としてはダンジョンの攻略さえ進めば大抵の事はどうでも良いのだ。

 忠告してくれる山村の事は有り難いとは思う、信用出来る大人が1人見つかって嬉しいとも思う、しかし狡くても良いからダンジョンをどうにかして欲しいと言うのが本音だ。



 藤倉が千葉に到着したのは1時間程後の事だった、それまでに風呂に入ったり着替えて居たりと身支度を整える事が出来た、話し合いの場所に山村と鹿島は外されて居る、私にリークした事がバレて居るのだろうか。


「どうも」

「はい、先日ブリですね」


 公舎の来客用の応接間に藤倉と私、涼子と野田、それに森下がソファーに座っている。


「報酬の話は緒方さんにすれば良いですか」

「私はそれで良いよ」

「自分もそれで良いっす」

「はい、聡志さんにはいつもお世話に成っていますから、それで構いませんけど、足元を見られたら黙って無いですからそのつもりで居て下さい」


 森下は上司だから強い事は言えないらしく、私に一任するようだ。

 涼子の事は考えるまでも無く、野田はバリバリ口を挟んでくる気でいる。


「そうですか、まずはダンジョン攻略の報酬からお話しましょうか。公認冒険者の方には推奨レベル掛ける1000万で報酬をお渡ししてます。ですが今回のダンジョンはかなりイレギュラーだったようですからそれを考慮しまして、推奨レベル掛ける2000万をお渡ししましょう」


 千葉中級ダンジョンは推奨攻略レベル40だから8億、4人で分けるなら1人2億貰える計算になる。


「それに山村君と鹿島の2人のレベル上げにも協力いただいたようで、その分の報酬は別にお支払いしましょう」


 レベル55だった山村と54だった鹿島の2人はダンジョン攻略後、私達と同じ64まで上がっている、理由は分からないがダンジョンによってレベルの上がる上限が決まっているのかも知れない。


「2億ですか、まあ悪くは無いですね」


 野田の足が高速で貧乏ゆすりを起こしている、予想外の高額報酬に動揺しているのが丸見えで、交渉には向かないって事を露呈した。


「報酬なんてどうでも良いんだけど、草薙の剣は和美さんが貰っても良いのよね」


 森下は小太刀を使っているから草薙の剣では長すぎるように思う、聖剣が破壊されるような出来事も有ったのだ、草薙の剣は涼子の予備の武器としたほうが良くないか。


「弱りました、草薙の剣は国の宝なんですが」

「あの剣を国宝って言い張るつもりですか、じゃあ熱田神宮の御神体は偽物って事ですね」

「我が国に伝承される草薙剣、つまり天叢雲とは勿論別物だと理解して居ます。ですが国内最強の剣ですから、それなりの使い手に使って欲しいとは思って居りますよ」


 最強なんて涼子以外に誰が居ると言いたいのか、まさかあの鹿島の事を最強だと言いたいのだろうか。


「私は涼子以外に最強の剣士って奴を知りませんが」

「100億で買取ますよ」

「「「「・・・」」」」


 1人25億、余りの金額に野田の貧乏ゆすりはピタッと止まった、それどころか言葉も発せず呼吸さえも忘れたように完全に停止していた。


「使いこなせる使い手が居れば構いませんが、それって涼子に剣技で勝てるって事ですよ」

「ええ現状川上さんより優れた剣術使いが居ない事は私も同意します、ですが5年、10年先は判りませんよね」


 5年先より現状のダンジョン攻略を優先させて欲しいのだが、武器には耐久度が設定してあるから使い減りを心配する気持ちは判る。

 実際この草薙剣そんなに耐久度が高い訳でも無い、メインの武器にすればそのうち壊れるだろう。


「今は皆さんにお預けして置きます、世代交代した時にお譲り頂ければそれで構いませんので。所で緒方さん石碑はもうお読みに成りましたか」

「いえまだ読んでませんが」

「お読みになる事をお勧めします。それとダンジョンの残骸はこちらに回して頂きたいのですが」


 コスモに渡して新たな素材にするつもりなのだろうか、その方が最終的にはこちらに有利な気もするが、野田を2人目の商人として育てるのも有りだとも思う。

 まずはスライムを狩って、スライムの素材と交換してMP回復薬を購入してもらわないと駄目なのだが。


「ダンジョンコアでしたっけ、何の素材になるんですか」


 直接質問する事にした、全くのゼロ回答と言う事は無い筈だ。


「下級ダンジョンのコアは新たな武器や素材が購入出来るように成ります。中級ダンジョンのコアはまだ売却していませんので、何が得られるのかは未定です。現在は研究施設で解析している最中です」


 2つ有れば一つは売却してしまって、新たに何が得られるか確かめる事が出来る。


「コスモ君に使って貰えるんですか」

「純粋な商人は悠木君の他には野田さんしか見つかっていませんので、当然ですね」


 コスモに使うのか使わないのかハッキリと言質は取れなかったが、草薙の剣を取れるならコアは譲っても良いか、山村と鹿島の貢献分って事にしておこう。


「野田さん後でSDTFの担当者に引き渡して下さい」

「幾らで売るんですか」

「山村さんと鹿島さんの取り分って事ではいけませんか」

「聡志さんがそれで良いなら良いんですが、本気なんですね」


 野田と森下がゴネるかと思ったのだが2人ともすんなり引いた。


「代わりに下級ダンジョンのコアを3つお渡ししますから、それでクレジットを購入して下さい」


 国内の下級ダンジョンは1ヶ所を除いて全て攻略されている、つまり売らずに取っておいたダンジョンコアが有るって事になる。

 売る以外で何か活用方が有るって事なのだろうか、野田には一つ売って貰って残りの2つは暫く保管する事にしよう。


「ヤマタノオロチの首買い取ったりしないんですか」


 野田の方が積極的に営業に出ている、切り離された首の内2本を野田が確保している。


「売って貰えるのであれば是非とも」

「幾らですかね」

「サンドワームよりは高額で買取を約束致しますが、この場で金額は査定出来ません」

「それもそうですね、じゃあ1本お渡ししますので、金額交渉は聡志さんとお願いします」


結局価格調整は私に任されてしまった、後日再び藤倉と会う約束まで取り付けられてしまった。

 ひょっとして藤倉の手の上で踊らされて居るんじゃないのだろうか、草薙の剣は目くらましで、本命はダンジョンコアを手に入れる事。ヤマタノオロチの首なんか自分からは欲しいとさえ言って無かった、わざわざSDTFの責任者が出てきたんだ、重要性が高いって事だよな。

 そんな考えも抱いたが表にはださず、別の話に切り替えた。


「話は変わりますが肥後さん達のダンジョン攻略は順調なんですか」

「はい、現在地下4階を探索中です」

「大丈夫なんですか、池袋ダンジョンって推奨攻略レベル50ですよね」

「今の所は聖女様のお陰で、アンデッドしか出ないようですから」


 モブがアンデッドでボスがアンデッドじゃ無かったらその時点で全滅するんじゃないか、次に潜るなら池袋ダンジョンで江下達と一緒に潜った方が良いかも知れない。


「緒方さんはここの石碑はもうご覧に成りましたか」

「いえ見てませんけど」

 

 不自然に誘導されている気がする、何か石碑に重要な事が書かれて居たのだろうか。


「早いうちにご覧になる事をお勧めします」


 ダンジョンコアの受け渡しなんかの話は、SDTFの工作班の人たちと話す事になり、藤倉は帰って行った。

諸々の処理が終わって野田が北海道に帰って行った後、私は涼子と一緒に石碑を確認しに中庭へと移動してきた。


「緒方さんここは立入禁止に成りますから、忘れ物なら今の内に入って下さい」


 顔見知りのSDTFが立入禁止のロープを上げて中に入れてくれた、石碑の前に移動して文章を確認した。


「どうしたのリュウ君顔が真っ青だよ」

「ああ、うん、部屋に戻ろうか」

「もう良いの?」

「うん」


 中々ショキングな内容が書かれて居たが、私や涼子それに多くの日本人には関係の無い文章だった、ダンジョン攻略連合が成立して一致団結でもしない限り対応は難しいだろう。



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