第104話「吹田ダンジョン突入セヨ」
吹田ダンジョン攻略結構日は10月10日体育の日と言う事になっていた、もはやそこは蚊帳の外で、私達が関与する余地は無かった。
昭和時代に10人構成でダンジョンをアタックし、最近ではSDTF3班が全滅している、もし仮にスキルの力で生き残っていたとしても、ダンジョンの中でどのくらい時間が経過しているのか想像すら出来ない。
一応、念の為密かに英美里とは連絡を取っていた、ターミン先生が戦場に出てくるから、10月10日に吹田に来れば会えるぞと。
10月10日はこの頃まだ休日だったから、仕事は休みだろうし、大阪・北海道間の飛行機のチケットを取るくらいどうと言うことの無い資金は渡してある。当日来るかどうかまで確認してなかったが、まあ確実に来るだろうな、英美里が持っていない同人誌を手に入れた事は話して居るから。
10日まで僅かな時間しか無かった、全てのダンジョンに入場する事は規制され、ダンジョン前には警備員が立ちはだかって居たのでレベル上げも出来ない。
肥後と森下は一時的に江下の指揮下に居て、連絡も取れない状態が続いている、私と涼子に出来る事は当日様子を見に行く事くらいだった。
「リュウ君どうするつもりなの」
「何も考えて無いよ」
当然嘘だが、もしこの作戦で江下達が全滅でもしたら、ダンジョン攻略なんて出来なくなるかも知れない。政府がどんな意思を持って行動するのか読めないが、例え攻略帯が全滅しても、私や涼子のような未成年をダンジョンに入れるとは思えない。
だからもし、江下達がダンジョンに入って30秒経っても出て来なかった時には、最悪一人で突入するつもりで居た。そうならないように手を打つつもりだったが相手方が乗って来なければそれまでだ。
そこに涼子を連れて行くつもりなは無かった、現時点で最大戦力で有る涼子では有るが、涼子は私と違って正真正銘の女子中学生。
道連れになんか出来筈が無い。
「リュウ君私の目をよく見て」
涼子に肩を掴まれて瞳を覗き込まれてる。
「本当に何も考えて居ない?」
「・・・」
返事は出来なかった、嘘を見破られるのが怖かったからでは無い、涼子が着いて来ると行った時止める術が無い事が怖かったのだ。
「大丈夫だよ、江下さんも森下さんも肥後さんも無事に帰って来るよ」
「うん、そっか皆帰って来たら問題無いんだよね」
涼子は本能的に全員帰って来れないと感じているらしい、それは私も同じで全滅する未来しか思い描けない、どうしてなのだろうか理由は解らなかったが。
1990年10月10日水曜日大安吉日、吹田の支店には多くのSDTF職員と公認冒険者が集まっていた、普段現場に現れない藤倉課長と佐伯室長が揃って控えて居て、更には統括本部長の大濠まで詰めかけて居た。
「あの、私、先生の大ファンで、それで先生がもうお亡くなりに成って居るんじゃ無いのかって考えて居て」
錚々たるメンバーの中で、思惑通り大阪まで来た英美里がターミン先生こと、安倍民子の元で感動の余り泣いて居る。
「そうあなたもシュタイナーゼから転生して来て居たのですね、アーシュラ・ル・グイン嬢」
誰やねん、新たな登場人物の名前で混乱しそうになったが、当然ターミン先生の脳内世界の住人だろう。
「先生私はアーシュラの生まれ変わりだったのですね」
「そうです、絶世の美女と謳われ大公爵カールハイム・ヘルムート4世に寄ってその生涯を散らされた、アーシュラ・ル・グインに間違い有りません」
ターミン先生は絶好調で英美里の手を取り喜んでいる、英美里が絶世の美女ということには同意出来るが、アーシュラ某かの話を聞くと頭が居たく成りそうなので聞き流す事にした。
「野田さん何か雰囲気が変わりましたね」
1月程しか経過してなかったのだが、野田の姿は様変わりしていた、何が変わったってジャケットには肩パット、更には腰回りにキンキラのチェーンのベルト 、足回りはエルメスの靴、典型的なバブル女子大生がそこに居た。
「そうですか、別に普通だと思いますけど」
「野田さん香水着けてる?」
涼子の言葉で気がついた匂いか、そう言えば野田から良い香りが漂って来ている、風呂にもまともに入れなかった以前の野田とは大違いだ。
「香水なんて最低限の身だしなみなので当然着けてますよ。そんな事より聡志君耳寄りな情報があるんですが聞いて貰えませんか」
何の話なのかと耳を傾けたら、札幌で巨大ディスコ計画が有って出資して欲しいと言う話だったから、聞いてるふりして周辺に目を配っていた。野田の話がひとしきり終わった所で後輩3人組が来ていないか確認しておいた。
「授業があるので来られませんよ、今頃はゼミの実験の最中です」
「野田さんは大丈夫だったんですか」
「はい論文も書き終わって、就職活動も必要有りませんし今が人生で1番楽しいです」
楽しい理由が時間的に余裕に有るのか、金銭的余裕にあるのかは知らないが、怪しい儲け話が野田の元に集まっている事は理解出来た。
「喫茶店の方は順調なんですか」
「ボチボチですね、今は4号店と5号店の出店準備中です」
「4号店って事は2号店と3号店が?」
「はいすでにオープンしてますよ」
野田の奴終わったな、今年ないしは来年早々この未曾有の好景気が終わりを告げる、付け焼き刃の野田の店が生き永らえるとは思えない。破産した後に首飾りの代金を渡してやろう、それが野田に対して私に出来る最後の事だろう。
「そうなんですか、所で小田切先生は野田さんが呼んだんですか」
「英美里先輩じゃないですかね、私も英美里先輩に強引に連れて来られたので、4号店の開店でテンテコ舞妓ちゃんなんですよ今」
寒いギャクも本気で嬉しそうにしている、こんな野田を計画に巻き込むことは忍びないがコスモを巻き込めない以上商人の確保必須なので、野田には泣いてもらおう。
9時55分、ダンジョンの前には20名程の男女が並んでいる、先頭は江下で中程に肥後が、後方に森下とターミングループが配置されていた。
10時になると作戦結構で、予定ではその1秒後に全員戻ってくる手はずに成っている。本部長の大濠が激励の声を掛けて10時きっかりに全員ダンジョンの中に入っていった。
全員の視線が知らず識らずに時計に向かう、無情にも時間が1秒2秒と過ぎていく、30秒経過した時点で計画を実行に移す事にした。
私は近くに居た野田の手を取るとダンジョンに向かって走っていく、同じように英美里が小田切の手を取りダンジョンに向かって駆けて来て、タイミングを合わせて一緒に吹田ダンジョンへと突入した。
「聡志君どういうつもりなんですか」
強引に連れて来た野田が怒り狂って居るが、私はそれよりも計画外にダンジョンに入って来た涼子の存在に愕然としている。
「野田、伊知子、貴方達拠点に帰えれる?」
「出来ないわね」
「えっ、何でですか、私も帰れませんよ」
帰れない事は予想出来ていた、もし帰れるのなら江下達の内後方に詰めて居る筈の、森下達が誰か帰って来ている筈だ。
「涼子どうやってタイミングを合わせたんだ」
「リュウ君が何かしようと考えて居た事は判ったから、動き出したリュウ君の後ろにピッタリ着いて来たんだよ」
1秒でもズレが有ったら問題を解決して私達は外に出て居た筈だった、つまりコンマ1秒のズレも無く涼子が私達に着いてきたという事になる。
「今更何も言っても仕方ないね、後方部隊の森下さん達を探しましょう。野田さんマッピングよろしくお願いします」
「聡志君!!」
野田の怒りが怒髪天を付きそうだ、当然と言えば当然、こんな危険な場所に説明もせず連れて来たのだ今ここで野田に刺されても仕方ないと思う。
「どうしてもマッピング出来る人材が必要だったんです、帰ってから償いはしますから今は協力して貰えませんか、森下さんたちを探したいんです」
「今の私は安く無いですからね、この件は納得出来るまで話し合わせて頂きますよ」
吹田ダンジョン1階はジャングルタイプで道や壁は無い、しかし大勢で移動した痕跡はそこかしこに残っているので、跡を追いかける事は難しく無かった。
「和美さん無事かな」
「大丈夫な筈だよ、食料もかなりの分量を持たして居たし、休憩出来るコンテナハウスも有るから」
涼子もそうだが普段から食料と水は持ち歩くように言い聞かせて居る、予測外にダンジョンから奴らが湧いて出た時、拠点に引きこもって生きながらえる事が目的だ。
生きてさえ居れば今の私達なら逆転の目が有る筈だ。
「緒方君、たーみん先生達も無事よね」
「無事で居る事を祈りましょう」
既に30分は移動している、全員レベル35を越える猛者達だ、かなりの距離を踏破している筈だがまだ森下達が見つからない、後方支援と言いつつ地下2階へと降りてしまったのだろうか。
「鬱陶しいわねもう」
魔物に遭遇したが瞬殺だ、レベル20程度のフォレストファングと言う狼型の魔物だったがものともしない。小田切は両手剣、野田と英美里は槍を使っている、野田に渡した盾は使っていないようだ。
「小田切先生ってテイマーなんですよね、仲間にしている魔物は居ないんですか」「居るわよ、ミーちゃんとキューちゃんが。キューちゃんは札幌で活動中でこっちには連れて来て居ないわ、ミーちゃんを呼ぶのはもっと後ね、本気を出させたら私の魔力が続かないの」
テイマーは魔力が必要な職業のようだ、竜騎士で有る英美里の存在も不気味だが今の所は槍で魔物をたやすく捌いて居る。
「リュウ君見つけた」
「現場事務所?」
ジャングルの中に不自然な建築物が現れ、涼子は安堵し小田切達は不思議な物を見たと言う表情に成っている、涼子が先頭に立って走り出し私達は後を追った。
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