第105話「再会」

「涼子ちゃん、りょーーーこ、ちゃーーーん」


 コンテナハウスの入り口を開けると、森下が涼子に向かって突進して抱きついた、部屋の中にはベッドが並び数人が寝かされて居る。

 ターミン先生達も無事のようだが、グッタリしてソファーに寝そべって居た。


「うぐっ、私、うぐっ、もう皆に会えないかと、うわーん怖かったです」


 私達の体感では1時間程しか経過して居なかったのだが、森下はここで1月踏ん張って居たようだ。


「森下さん、けが人の様子は」

「ああ聡志君、応援に来て来れたんすね、私感激っす」


 森下を落ち着かせて話を聞くと、寝かされて居るのは全滅した物だと思われて居た3班の攻略隊のメンツのようだ、森下や肥後と同じようなダンジョン内で安全に過ごせるスキルを持っている隊員が隊に居たようだ。


「森下さん帰れない理由って判りますか」

「地下2階に誰から居ると帰れないみたいっす、今は隊長達が地下2階に降りているんで帰れないんすよ。でも多分全滅したら帰れるようになると思うっす」


3班攻略時に数名の支援隊は無事に帰って来ていた筈だ、だとすれば今目の前に寝かされて居る3班の生き残りは何処で何をしていたんだろうか。


「3班の人たちって何処で保護されたんですか」

「地下2階っす、山村班長達は2階と1階を行ったり来たりしてたみたいっす」


 よく見たら行方不明の3班の内5人はベットに寝かされて居る、6人構成で攻略していたから、今尚行方不明なのは1名と言うことになる。


「行方不明の一人を探し続けていると言う訳ですか」

「解んないんすよ、江下隊長達と最後に会ったのはもう20日も前なんす」

「行方不明の隊員も1階と2階を行き来しているって事なんですかね」


 そうで無ければ山村達を見つけた時に一旦帰還すれば良いのだ、吹田ダンジョンに留まり続ける理由が無い。


「そこら辺も解んないんすよ、山村班長が見つかった時にはもう班長達に意識が無かったみたいで。聖女様が治療して下さってるんで生きては居るすけど・・・」


 どんな様子なのかと『鑑定』してみた、山村茂42歳レベル36屯田兵、スキルに『入植』や『警備』、『巣篭もり』と言う物が有ってコレが安全圏を作り出せたようだ。

 ステータスに状態異常に強制睡眠と言うものが着いていた、回復魔法では状態異常を直せ無いようなので、ターミン先生では治療が出来ないだろう。

 ただ衰えて居る体力を回復させる事には成功しているので、死ぬような状態では無い。


「状態異常が出て居るようなので魔法で治療を試みます」

「そんな事が出来るんすか」


 寝かされている山村の近寄って、状態異常を回復させる為呪文を発動させる。


『回れよ回れ、時間の間のお寝坊さん、そろそろ夜明けの時間です』


オイオイオイ、なんだこの恥ずかしい呪文は、英美里が駆け寄って介抱しているターミン先生が目を見開いて嬉しそうに私を見つめて居る。

 薄い本の題材にされるのでは無いかとゲンナリしたが、幸いにも山村が状態異常から回復して目を覚ました。


「ここは・・・森下君か、ということはまだ夢の中なのか」

「班長ここは仮設休憩所っす、まだ吹田ダンジョン1階っすよ、班長は地下2階で倒れて居たって江下隊長達が言ってました。3班の石塚さんがまだ見つかって無いんすけど、班長何か知らないっすか」

「石塚・・・雷太か、そうだあの羊をどうにかしないと全滅する」


 羊、今回の魔物は羊だそうだ、だがそもそも羊なんて物を見た事が無いのだが。羊は毛むくじゃらで頭に角が生えている生き物で、毛糸の素材になる奴らの事のようだ、まあ魔物なので普通の羊とは違うが見た目はほぼ変わらないらしい。


「北条さんでも勝てそうに無いんですか」

「正直に言って判りません、どうやって我々3班が眠らされたのかも。確実に言える事は、抗えない睡魔が襲って来ると言う事と。一度眠りに付くと自分の意思では起きれないという事の2点です」


 SDTFのエースは現在でも北条特務警部で有る事は違いない、レベル41の戦士でレベルだけなら肥後と並んでいる。


「催眠攻撃さえ無ければ我々でも充分に戦える相手だと思います、後方からの攻撃も充実している1班なら催眠攻撃を受ける前に対処出来ると思うのですが。今尚ダンジョンから出られないと言う事は、1班でも苦戦していると言う事だと思われます」


 後方からの攻撃か、弓騎士の北川がその役目を負っているのだろう、うちで後方からの火力となると私と言うことになる。

 羊を倒すか、もしくは催眠状態に成っているであろうSDTFの隊員を覚醒させるか、最悪命を絶つか、その3つどれかを達成しないと私達は永遠に外に出られない。


3班の他の隊員も目覚めさせたが、彼らは動く事もままならない、筋力が落ちすぎてリハビリ無しでは立って歩くことも出来ないようだ。


「皆さんの話を総合すると、羊に直接接触しなくても2階に降りた時点から眠気が襲って来るって事で良いんですね」

「多分そうだと思う、最初の1、2時間は眠気を跳ね除ける事も出来ない訳じゃ無かったんだ。完全に意識を失ったのは羊の姿を確認した時だと思う、そう思うだけで根拠は無いんだが、一瞬羊の魔物のステータスを読み取れた時スリープシープと言う名前が見えた、それは間違い無い」


3班の隊員の中にも鑑定持ちが居た、道化師や商人それにいまだ謎だらけの鑑定士のように使い勝手良い物では無いようだが、魔物のステータスを読み取るスキルを所持している。


「皆さんは江下さんに助け出されて時の記憶は無いって事ですね」

「意識が遠のく瞬間に『巣篭もり』のスキルを使った事だけでは覚えて居ますがそれが最後です。『巣篭もり』のスキルは泥の家の中では魔物に襲われなく物です、泥以外の家の中では効果が発揮しません」


 屯田兵には変わったスキルが多いようだ、山村が班長を行っているのは年齢の高さと階級が物を言い、強さが班長を決める基準では無く指揮能力に重きを置かれて居る。


「少し休息を取ったら地下2階に潜ります、階段の場所と2階の様子を教えて下さい」 


 多少記憶に齟齬が有るようだが、山村だけでは無く残りの4人から情報を聞いて、階段の場所と地下2階の事を聞いた。






「情報通りみたいね」


 階段の場所は直ぐに判った、ジャングル地帯でそこだけ木々や草が刈り取られて居た、2階に突入するまえ念入りに整備されていた事が伺える。


「ええ、草原なんて初めてでちょと戸惑ってます」


 一面腰くらいまでの草が生い茂っている、地形が隆起している為見通しは悪く、何処に羊が居るのかまるで解らない。


「車が欲しい所ですね」


森下が居れば車に乗る事が出来るのだが、残念ながらキャンプ地で3班を保護して貰う為に、私達に着いては来れなかった。


「無い物を強請っても仕方ないわ、それよりも問題はこんな所であなたの強力な火炎魔法が使えないって事よね」


 火系列の魔法は使えないだろう、延焼して草に燃え移ったら私達が丸焼けになってしまう、火に撒かれる前に煙で窒息死する事の方が先だろうけど。


「氷の刃を飛ばしますよ、使った事は無いですが水流で押し流すような事も出来ると思います」

「私泳げないのよ、氷の魔法だけにして頂戴」




 こわごわ先を進んでいく、目標は北、3班が進んだ道なりに進んで行く、踏み固められた跡があるので間違える事は無さそうだ。


「リュウ君アレって何の跡かな」


 1キロ程進んだ所で地面が荒れて居た、恐らくキャタピラのような物を使った跡だ1班には肥後も加わっている、戦車のような物でも運転する事は出来るのだろう、簡易アイテムボックスではそこでま巨大な物を運べない筈だから、『収納』持ちが居るのだろう。


「履帯の跡ね、装甲車か指揮車を持ち込んで居るのかもね」

「戦車じゃないですかね」

「戦車に何人乗れるのよ、多くても5人くらいじゃないの、それなら装甲車を持ってきた方が良さそうだけど」


 装甲車が何かという事は知らなかったが、歩兵を運ぶ乗り物だと言う事を教わった、江下達がどんな物に乗って移動しても構わないのだが、私達の歩く速度では追いつく前に眠気に襲われるかも知れないと言う事実が怖かった。


「それなら緒方君、走った方が良くない」

「そうなんですけど、注意力が散漫に成った所で魔物に襲われるのも避けたいんですよね、涼子はどう思う」

「さっきからずっと追いかけて来てる人が居るんだけど、リュウ君どうする」


 涼子の言葉に反応して私達が周囲を警戒し武器を抜く、『危機察知』を最大限活用するが見当たらない、危険覚悟で周囲に炎の竜巻を解き放とかと考えたのだが、その人物は両手を上げて近寄って来た。


「冗談はよしこさんっす、聡志君怖いっすよ顔が」


 追ってきたのは森下だった、こちらこそ冗談は辞めて欲しい、後数秒出てくるのが遅れて居たら辺り一面火の海だった。


「コンテナを放置して良かったんですか」

「ウージーさんとひろっぴさんが結界を張って来れたんで一日くらいは平気みたいっすよ」

「はあっ?」


 私が誰の事かと尋ねようとしたら、英美里が三銃士の皆さんがと感激していたので、ターミン一派の事なのかと納得した。


「そうならそうともっと早く声を掛けて下さいよ」

「何を言ってるんすか、ヒーローは遅れてやってくるもんなんですよ」


 森下はヒロインじゃなくてヒーローに成りたいのか、だが今はそんな事にかまけて居られない、睡魔に襲われる前に江下達を見つけなければならない。


「森下さん運転お願いします」


 私はいつものJupiter号を出して森下に運転席に座ってもらい、全員で車に乗り込んだ。





「聡志さんってこんな車まで持ってたんですか」


 成金の野田の眼鏡に適ったらしい、街中でJupiterを走らせる勇気は私には無いが。


「こういう時の為に買ったんですが、自分じゃ運転出来ないので宝の持ち腐れです」

「私の車より運転しやすそうだけど」


 英美里の車は動かし辛いだろうな、そもそも私が免許を取った頃はまだオートマ限定なんか無かったが、かと言ってミッション車なんて免許を取ってから数える程しか運転してない。


「免許が有ってもダンジョンの中じゃスキルが無いと車は動かせないんですよ」


 森下の運転技術のお陰で道とは呼べないような道を、かなりの速度で進んで居る、時々目にする魔物のレベルは20にも満たない奴らばかりだ、まともに戦えば確かに江下達でも苦戦する事は無いだろう。




 30分程移動して乗り捨ててある装甲兵員輸送車を発見した、最初の型は第二次世界大会中に作られた物で、最新式の車両では無いらしい。


「森下さんの他にも『整備』出来る人が居るんですかね」

「このポンコツ『整備』した覚えが有るっすよ、特別手当で30万貰いましたけど、SDTFってそういう所ケチですよね、聡志君ならもっと報酬弾んでくれそうっす」


 どっから引っ張り出した物なのかは知らないが、SDTFは森下の能力も最大限発揮させて居るようだ。


「誰も中には居ないみたいよ、どうする緒方君、一度引き返した方が良いんじゃないかしら」


 小田切の提案を受けて全員の健康状態をチェックする。


「誰か眠い人は居ますか」

「今の所平気です」

「大丈夫だよ」

「平気っす」

「少し眠いけど、これは昨日先生にお会い出来る事が楽しみで楽しみで、眠れなかったからかも」

「私は体育祭の準備を抜け出した罪悪感で眠く無いわね」



 一応全員まだ大丈夫そうだ、『鑑定』して状態を確認したが健康そのものだったから捜索を続行する事にした

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