第103話「急転直下」

 結局私が江下と会えたのは10月10日の体育の日だった。


 現在ダンジョン攻略は一旦ストップしている、もっと言うなら政府が管理しているダンジョン全てが入場を禁止されていた。


理由は大規模な死亡事故が発生したからだ、最初の犠牲者は公認冒険者だったが、同じダンジョンでSDTFの攻略隊3班が全滅してしまったのだ。

 そこで急遽東海中部を攻略していた1班が関東、東海中部に加え関西までもを攻略しなければならなくなったと言う事になる。


「事故が起こったのはやっぱり吹田下級ダンジョンなんですか」

「その通りです、すでに宇治、宝塚、和歌山、那智勝浦、大和郡山の下級ダンジョンは攻略され、関西地区では吹田ダンジョンを残すのみとなっていました。四国にはまだ未攻略のダンジョンが1ヶ所残っていましたが、そちらは公認冒険者が攻略を進めていましたので」


 3班の隊員は全て戻ってきて居らず死亡認定されている、支援を行っていた工作隊は一部戻って来られたので、まず生き残っては居ないだろうと言うのがSDTFの見解だ。


「原因は不明ですか」

「そうですね、1班も静岡ダンジョンを攻略途中のまま、一旦全てのダンジョン攻略をストップしています」


 3班って1番レベルが低い班だったのでは無かろうか、最後に会ったのは夏休み前なので記憶が定かでは無い、江下に確認してみよう。


「3班って確か山村茂さんの班ですよね、私が最後にお会いした時にはレベル35程だったと記憶しているんですが」

「少しレベルが上がって山村特補はレベル37で他の隊員もレベル30のラインは越えて居ました」


 下級ダンジョンで最低レベルが30、その状態の隊員が全滅するなんて、やはり何か特殊な仕掛けが有りそうだ。

 その他のダンジョン、特に江下達が攻略してきたダンジョンの話を聞かせてもらう。東海中部のダンジョンも下級は静岡ダンジョンを除いて全て攻略済みになっていたらしい、私が知らぬ間に殆どの下級ダンジョンが攻略されていた。


「現状で残っている下級ダンジョンって何ヶ所有るんですか」

「北から順に北海道東北地区は手つかずで3ヶ所、関東は全ての下級ダンジョンを攻略しましたので0、東海中部は攻略途中の静岡1ヶ所、関西四国は吹田を含めて2ヶ所、九州はミスリル掘削に力を入れて居ましたので残り5ヶ所です。現在の所中級ダンジョン以上は1ヶ所も攻略されておりません」


 全部で残り11ヶ所か、吹田以外のダンジョンを私達が攻略するなら、1月程で終わらせられそうだ。


「どうしてSDTFは全てのダンジョンの立ち入りを禁止してるんですか」

「吹田型のダンジョンが他にも有る可能性が有るからです、ダンジョンの特性に型が有る事はすでに既知ですから。その事は緒方さん達もご存知ですよね」


 当然知っては居るが、私達が全てのダンジョンに入った事が有る訳では無い、そんな事はSDTFなら百も承知の事だとは思うが。


「いつまでダンジョン攻略をストップさせておくつもりなのですか」

「1班と公認冒険者の内、レベル30を越えて居る冒険者を募って、吹田ダンジョンを一気に攻略する準備を行っています。吹田ダンジョンの正体が判明した時点で全てのダンジョン攻略が再開される予定です」


 下級ダンジョンを攻略していた江下のレベルは然程上がっていない、『鑑定』した所この数ヶ月の期間でレベルは一つしか上がって居ないのだ。

 レベル40を越えると上がりにくいのは自覚しているが、江下がこれだとそれ以下の隊員達のレベルもドングリの背比べだろう。


「私達にもその攻略に参加して欲しいって事ですね」

「まさか、緒方さんと川上さんお二方が我々よりも格段に強い事は否定しませんが、命の危険が有る場所に未成年の、しかも中学生を頼って連れて行くようなこと、出来る訳が無い」


 それはそうなんだろうな、私でさえコスモを連れて行く事なんて考えられないから、江下達が私達をハブる事は容易に想像が付く。


「北海道グループに参戦を要請するんですか」

「森下から報告は受けて居ますが今回は見送ります、ただ肥後君と森下の参加は強制です。今回聖王国同盟幹部の3人も同行させますので」


 この事態でたーみん先生の話を聞くことは憚られるが、今しか聞くチャンスが無い。


「江下さんは安倍民子さんとは高校時代からのお知り合いなんですよね」

「そうです、安倍さんと日下部さん土御門さん私の4人が高校漫研部で聖王国同盟を結成しました」


 安倍民子、日下部内子、土御門寛子、江下敬子、たまたま漫研で子が付く女子が集まって同人誌を作り出した、それが聖王国同盟結成の理由だったらしい。


「安倍さんと江下さん以外のお二人は亡く成ったとお聞きしましたが」

「どこでその噂が広まったかは知りませんが、全員無事にダンジョンから出ました。安倍さんはそこで聖女に、私は軍師、日下部さんと土御門さんは陰陽師と言うジョブを得てます。今も日下部さんと土御門さんは安倍さんと一緒に教団で幹部として残っていますよ」


 陰陽師とはまた変わったジョブを持っている物だな、レベルとスキルはどの程度なのだろうか。


「陰陽師って戦えるんですか」


 安倍民子のレベルは一桁代だったように記憶している、同じ同人グループに属していたその他2人がどの程度戦えるかは疑問に思う。


「日下部さんも土御門さんもダンジョンにはアレ以来潜って無い筈ですから、レベルは2か3だと思います」

「そんな2人を連れて行くんですか」

「式神で偵察が出来ますから、安倍さんを含めて後方で待機をしてもらいます」


 支援要員として連れて行くつもりのようだ、森下が後方で待機するなら安全は保証されたも同然だろう。


「武器と防具は揃っているんですか」

「ミスリル装備は一式揃えて居ます」


 私がコスモに買い取って貰ったアダマンタイトで次の装備が現れる事は無かった、量が少ないのか、コスモのレベルが足りないのか、理由は不明だが後回しで良いかとそのまま放置していた。

 こんな事になるなら北海道の中級ダンジョンで、狩りをしておくべきだったか。


「大丈夫です、緒方さんそんなに心配しないで下さい、我々が無事にダンジョン攻略を成し遂げますので」


 江下は静かにうなずくと私の手を取って、数冊の薄い本を手渡してきた。


「それは私が最後まで手放さなかった聖王国同盟の同人誌です、緒方さんが読みたいと聞きましたので持ってきました」


 最後の最後に薄い本を渡されて終わるのかとガックリ来たが、別れ間際に江下から出た言葉で、私は思わず思考を停止してしまった。







「もし、もし万が一にも私達が誰一人戻って来なかった時には、緒方さん達が大人になってからダンジョンを攻略して下さい」




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