第98話「商談」

 SDTFの本部に来た、約束の時間の数分前だったが藤倉は快く出迎えてくれ、部屋に通して貰えた。


「お久しぶりですね」

「はいご無沙汰してます、これ北海道土産です皆さんで召し上がって下さい」


 藤倉と会う時にはいつも同じような挨拶をしている気がする、やはりここでもバターサンドを手渡し、早速本題に入る。


「ミスリルの相場が落ちたって聞いたんですが本当なんですか」

「ダンジョンで鉱脈が発見されたんですよ、とは言え場所が場所だけにそう簡単には入手出来ませんが」


 ダンジョンで鉱脈ってのは比喩的表現だろうか、それとも本当に鉱脈を掘り当てたのか。


「場所を聞いても教えては貰えませんよね」


 ダメ元で場所を聞いてみた。


「緒方さん達にも積極的に確保して頂きたいので勿論場所はお教えしますよ、ただ入場制限を掛けてますので誰でも入れる訳では有りませんので、なるべく口外しないで下さい。日本国籍を有するレベル40以上の公認冒険者じゃ無いと入る事が出来ません」


 国内の冒険者でレレベル40を越えるのは私達の他には居ないのでは無いだろうか。


「今の相場はどの程度なんですか」

「1グラムで48万程です」


 いきなり半額以下に成っているのか、もちろんそれでも高額で有る事に変わりは無い、6人で分けたとしてもそれなりの金額には成る。


「どの程度の量をお持ちなのですか」

「980グラムです」


『収納』していたミスリルをテーブルの上に置いて、嘘偽り無い事を証明した。


「精製済みのようですね、私と緒方さんの間ですから少し上乗せして、5億で買い取らせて頂きますが宜しいですか」


 本来の金額だと4億7千万と少しだったが、3千万程上乗せしてくれた事に成る、億単位の金なのに慣れてくる自分が怖い。


「お願いします」


 秘書がミスリルを運んで代わりに5億の現金を持ってくる、秘書と行っても山田花子なのだが、完全にSDTFに所属を移したのだろうか。


「北海道のダンジョンにもミスリル鉱山が有りましたか」

「鉱山なんて物は有りませんでした、魔物を焼いた残りカスにミスリルが残っただけです」

「微量のミスリルを体内に含む魔物の情報は聞いてます、ですがかなり高レベル帯の魔物だけだって話でしたが」

「レベル50代のスケルトンナイトがワラワラと湧いて来ましたので」


 北海道の情報をどの程度渡すか考えて居なかったが、中級ダンジョンの話はしてしまっても構わないだろう。


「それは緒方さん達では無いと、まともに集まりそうに有りませんね。もったいぶるつもりも有りませんので、そろそろミスリル鉱山の場所をお教えします」


 交換条件でも出されるのかと思ったが、すんなりと教えてくれるらしい。


「北九州中級ダンジョンにミスリルの鉱脈が有ります」


 中級ダンジョン内だったか、それなら確かに入れる人間は絞られて来る。私達でも気を抜けば死が隣り合わせになる、その証拠にまだ梅田ダンジョンの地下2階へは進行して居なかった。


「推奨レベルはどれ程なんですか」

「レベル25です」


 雑魚モブでレベル37くらいの魔物が湧く訳か、私や涼子なら何でも無い相手だが一般の冒険者だと少し厳しい。


「中級ダンジョンだと入りやすそうな場所ですね」

「ええ中は炭鉱型のダンジョンで大規模な攻撃が難しい事を除けば、うちの攻略隊でもどうにかミスリルを持ち帰る事が出来ます。主に2班と工作隊が共同で採掘を行っています」


 2班と言われても誰だか、確か九州方面のダンジョンに潜っている盾騎士の柴田と言う特務警部が、隊長を務めて居た筈だがそれ以外の隊員は解らない。


「他のダンジョン攻略に何か進展は?」

「関東に有る下級ダンジョンは全ての攻略が完了しました。関西四国は新たに、大津、福知山、奈良、徳島、高知が攻略済です」


 かなりのダンジョン攻略が進んでいる、これは嬉しい誤算だ、下級ダンジョンばかりとは言え、生き残れる可能性がまた一つ上がったのだから。


「ただ九州中国方面が北九州ダンジョンの採掘作業を中心としているので、下級ダンジョンの進みが悪いです。公認冒険者の皆さんも協力をしてくれて居ますが、やはりレベルが足りないのか進みは遅いです。以前のようにレベル上げのお手伝いをお願いして頂ければ解決するのですが」


 案にレベル上げを手伝えって事なのか、そう言われてみると九州から来たと言う公認冒険者の記憶が無い。


「今度は北九州でレベル上げって事ですか」

「いえ、あそこのダンジョンはレベル上げに適して居ません、引き続き梅田ダンジョンでご協力して頂きたい」


 梅田ダンジョンに最後に入ってから大分経つ、攻略隊の面々もレベル40を越えて居るのではなかろうか。


「梅田ダンジョンに進展は無いんですか」

「江下君と北条君がレベル40に達しました、他の隊員もレベルを上げて居ますので地下2階に挑戦しましたが、直ぐに引き返してしまいました。今は再度レベル上げを行いつつ、他のダンジョン攻略に入っています」


 地下2階に降りたのか、詳しい話を江下から聞いてみたいものだ。


「他のダンジョンですか」

「ええ、関東一円の下級ダンジョンは全て攻略が完了しているんですが、東海中部地域のダンジョンは手付かずだったので、そちらに回って貰っています。池袋中級ダンジョンはあまりに危険なので、後回しと言う判断です」


 東海地域のダンジョンが見つかった話は耳にしたが、詳しい話はまだ聞いてなかったか、あの口ぶりだと風俗街か繁華街に有る風だったが。

 涼子やコスモを連れて行きにくい場所だ。


「関東ダンジョンの事で一つ情報が有ります。新宿ダンジョンに入るためのキーアイテムは見つかりましたか?」

「いえ、まだ見つかって居ません。私達の予測では中級ダンジョンに存在しているのでは無いかと考えて居ます」


 それはそう思っても仕方ない、実際私もそんな風に考えて居た。


「コレを見て下さい」


 龍の首飾りを取り出して机の上に置いた。


「コレが新宿ダンジョンの鍵である、龍の首飾りですか」

「恐らくそうだとしか言えません、『鑑定』ではそう云うアイテム名に成っていますが試してみる度胸は有りませんから」


 藤倉は恐る恐ると言う手付きで龍の首飾りを手にとって、まじまじと観察している。


「龍には見えませんね」

 

 形はなんて事の無いただの首飾りで、龍の装飾が飾られて居る訳では無かった。


「素材が龍の物だとか?」

「そうなんですか」

「いえ、ただの当て推量です、私の『鑑定』では名前しか判りませんでしたので」 


 実物なんて誰も見たことが無いのだ、本物かどうか、素材がどのような物なのか、装備として何か特別な効果が有るのか、全てが謎だ。

 ただこの首飾りが無いと新宿ダンジョンに入れないと言う事だけはハッキリしている、私の『鑑定』結果が間違えっているとは思えない。


「どちらで入手されたもの何ですか」

「私は預かっただけなんで正確な情報は有りませんよ、ただ、札幌の下級ダンジョンで見つけたとは聞きましたが」

「札幌と言うと北大の」

「はい、北海道東北地域のダンジョンの場所は森下さんに伝えましたが、伝わって居ますよね」

「情報には感謝しております」


 感謝の気持ちを物にしてくれとは言わない、私はだたダンジョンの攻略さえ進むならそれだけで十分だ。


「そうですか、こちらで預からせて頂いてもよろしいでしょうか」

「出来れば買い取って下さい、それが持ち主の意向なので」


 野田にはミスリルの代金を回せるので、首飾りは後回しにしても大丈夫だとは思う。しかしあの野田の事だ、他にも借金を掛けて居ないとも限らない、速やかに換金した方が野田の役に立つだろう。


「金銭でと言う話ですか」

「はい日本円で出来るだけ高くお願いします」

「価格の査定はデータを取った後からでも構いませんか」


 データを取った後他のダンジョンから同じ物が出てきて安く買い取られたら目も当てられない。積極的に協力しているのだから、少しくらい融通を利かせてくれても良いんじゃないのか。


「手付を貰えるなら構いませんよ」

「手付金ですか、どのくらいをお望みでしょうか」

「最低でも1億は下さい」

「1億ですか、今は少し難しいですが、1月お待ちして下さいませんか。来月の予算でどうにかします」


 来月確実に入金してくれるのなら良いが、そのくらいの予算どうにか成らないのだろうか。それとも龍の首飾り入手の優先順位が低いと言う理由からなのだろうか。


「考えさせて貰います、持ち主とも相談しないと駄目なので」


 私が首飾りをテーブルの上から『収納』すると、慌てて藤倉が腰を上げて引き止めに掛かる。


「その持ち主の方はお困りなのですか」

「そうだと思います」

「5000万なら今直ぐ支払えます」

「最低でも1億と言いましたが、藤倉課長ならもっと融通してもらえるかと、期待して言った金額です」


 私は藤倉の目を見つめてそう言い返した。


「緒方さんの信頼には答えたい所なのですが、本当に今月は予算が無いのです。既に内調の予算も流用している所で、私の権限で動かせる限界を越えて居ます」

「SDTFの予算が足りないって事ですか」


 私は金なんてどうでも良いのだが、涼子や特に森下にはモチベーションとして金が必要だろう。

 中町グループを引き入れるのにも、金の力を借りた方が説得しやすい。

 SDTFに金が無いなら、私が直接支払う事まで考えないと行けない。そのためには海外の銀行に有る口座か、日本円で現金を確保しなけば成らないのだが。


「今月だけですよ、ミスリルの鉱脈発見で、急遽予算を越える額を投入しました。来月には蓄電池の代金が振り込まれるので、これまで以上に予算が増えます」


 ミスリルを使った蓄電池を国内で売却しているらしい、詳しい納入先は教えてくれなかったが一般企業では無さそうだ。


「そうれじゃあ首相の治療代金もまだって事ですか」

「そちらはうちからの予算では無いので、満額支給されるはずです、防衛機密費から3億と聞いていますよ」


 3億貰えるなら首飾りは私が買い取ってしまったほうが良いか、現金で貰えるならそのまま渡してしまっても良い。


「その首飾りが真実上級ダンジョンの鍵ならいくらで買い取って貰えますか」

「難しい質問です、鍵が1本しか無いと言うことで有れば10億でも20億でも支払えます。正直に言いまして、今直ぐ必要な物でも有りません。当然将来的には絶対に必要な物なので、確保出来るから確保してしまいたい物です。ダンジョンの品なので、研究対象の品としての価値も有りますから、5億以下での買取と言うことは無いと言う保証では駄目ですか」


 野田には未来の5億より、眼の前の現金が必要だと思う。

 ミスリルの買取が5億、あの時6人がダンジョン内に居たから6で割っておおよそ8300万、そこに5000万を足せば、それなりに生活出来るか。


 再度『収納』から龍の首飾りを取り出しテーブルの上に置く、しかし今度は私の席に近い方に置いたから手を伸ばさないと藤倉には届かない。


「判りました私の負けです、1億の手付を払いましょう。ですがこれで今月どんな品物を持ち込まれても、支払いは来月以降と言う事になります」

「それで構いません、しばらくは持ち込むつもりが有りませんから」


 山田花子が龍の首飾りと交換に1億の現金を運んでくれた。


「SDTFでは買い取れませんが内閣調査室にミスリルを持ち込んで貰えれば買い取らせて頂きますよ、それもSDTFよりは高額でね」

「山田さんはSDTFのスタッフじゃ無いんですか」

「秘密です」


 藤倉の表情から何か読み取れないかと考えたのだが、私には何の変化もしていないように思えた。山田とSDTFの関連性は今の所不明と言う事にしておこう

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