第67話「ジャッチメント」

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※本文中に残酷な表現が有ります、苦手な方は後半を読み飛ばして下さい。※

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「先生大丈夫なの?花村の馬鹿は本物の馬鹿だから何するか解んないよ」

「緒方君にも言いましたがこれでも荒事には慣れてるので中学生相手に遅れを取る事は有りません」


 中学生どころかこの世の中に居る大半の人間に負ける事は無いだろう、ただ目の前にその大半の人間に属して無い2人が居るのだが。


「そうなの先生全然強そうに見えないよ」


 涼子と比較するのは酷な話なのだが、涼子も野生の勘で小田切の本当の力を感じ取れるのでは無いかと思っていたのだが、そうでも無いようだ。


「2人は花村君の事、何か知ってるのかな」

「私は小学校も別で今まではクラスも違ったので今日、花村の存在を知ったくらいです」

「私もリュウ君と一緒です」


 ハンバーガーを片手にしながら花村の話題に移って行ったので正直ホッとした。


「1つ聞きたかったんですけどクラス編成に小田切先生って加わってたんですか」「その辺りの話は生徒には出来ない事に成っているんだけど、私が確認したのは各クラスの成績の平均値が取れて居るかと言う事だけで、後は先生方の言う通りの編成です」


 花村のようなろくすっぽ学校に来てなかったようなロクでなしを6人も割り当てたら成績上位者を配置しないと平均を保つことが出来ない、中垣内晴彦を筆頭に成績優秀者が集められたのはその辺りの事情なのか。

 3組に集めらた生徒は成績優秀者だけでは無く、体育の優秀者もチラホラ頭に浮かぶ、各部活のキャプテンやエースクラスが何人も居た。ピアノが引ける生徒を各クラスに配置すると言う話は聞いたことが有るが、マイナスを消すために大判振る舞いをしたもんだ。


 だとするなら私に求められた役割はクラスの牽引役って所か、案の定学級委員を引き受けてしまっている。


「先生闇討ちするなら手伝うよ」

「誰をですか」

「先生をハメた他の教師達」

「川上さんて過激なんですね、嬉しいですが冗談でも辞めて頂戴ね」


 冗談では済ませない力が涼子には有るからな、下手を打っても『収納』してダンジョンにポイすれば完全犯罪の完成だ。

 どうやら涼子が小田切の事を気に入ってしまったらしい、この懐き方は森下の時と通じる物が有る。


「私もリュウ君も去年北大の構内を通ったんだよ」


その話題を振るんじゃ無いよとツッコミそうになった。


「何しに来たんですか」

「剣道の試合だよ、個人戦の全国大会が札幌国体と一緒に有ったんだ」

「ああそんなイベントも有りましたね、そう言えば。あなた達全国大会に出られる程の腕前だったの」

「そうだよ私とリュウ君のペア優勝」


 話が剣道に戻ったので焦りだしたのだが口を挟む余白が無かった、マシンガントークが終わるまでしばしの時間が必要そうだ。




「私達の先生は明星十和子師範だよ」

「本当に世間は狭いのね、まさか2人が十和子先生の教え子だったなんてね。これは同門の姉弟子としては弟弟子たちをしごかないといけないわね」


 涼子の迂闊な一言でアッサリ十和子の事がバレた、涼子に目で話すなと言うメッセージを送り続けて居たのだが無駄に終わってしまったようだ。


「もう少し落ち着いてから先生の所に顔を出しに行かなきゃ、所で先生のご自宅て何処なの」


 涼子が口頭で場所を教えているが東兼に不案内な小田切には理解しきれて居ない。


「先生って千葉から東兼まで通って居るの」

「流石に遠いからこっちでアパートを借りたの、警察署の近くの公舎だから何か相談毎が有ったらいつでも尋ねてね。部屋番号は303号室で古い公舎だからエレベーターは無いの」


 ついに部屋の場所まで聞きだしてしまっている、ランチをする前に小田切の正体を伝えておくべきだった。



その後かなりプライベートな話にまで踏み込んで会話が進んで行って涼子が食事を取り終えた事学校に帰る事になった。バーガー店には40分程滞在しただろうか、店を出る時うちの制服を着た生徒を目にしたが一瞬の事で誰だかまでは解らなかった。




教室で篠崎を加え明日以降の予定が伝えられる事になった、涼子は先に帰らせたので必然的に帰りは私一人と言うことになる。


「各委員会の委員決めと修学旅行の班決めそれにクラス内の班も決めなければならないって事ですね」

「そう、特にクラスの班と仕事の割当は明日の2時間で絶対に確定しないと給食も食べられ無いからマストでよろしく。あとは少し重いんだけど教科書の配布もしちゃわないと駄目なの、朝のショートホームルームが終わったら運ぶのを手伝って欲しいわね」


 こんな時代からマストなんて言い回しがあるのかと思いながら、明日の班決めのシミュレーションを行う。

 うん花村達と一緒になっても良い女子なんて1人も居ないな。


「班は6班ですかそれとも7班ですか」

「最低限必要な班は5だけどクラスが42人だから6班にすると切が良いわね」 


 男子20人女子22人それを6で割ると男子は3人の班が4つに4人の班が2つ、女子は逆で3人の班が2つに4人の班が4つと言う事になる。


「決め方は一任して貰えるんですか」

「それは勿論2人に任せます」


 花村のグループは花村を含めると7人、バラバラの班に振り分けても一班だけ2人のグループが出来てしまう。花村が班活動をするとは思えないしその取り巻き連中だってサボるだろう、あいつらを1つの班にまとめて活動から除外するのが1番なのだがそれは小田切が許さないだろう。


「一応念の為に聞くんですが男子だけの班や女子だけの班って言うのは」

「それは辞めて置いて下さい、トイレ掃除が班活動にあるので女子トイレを男子が掃除するのは抵抗が有りますよね篠崎さん」


 私の会話は最後まで聞かれもせず即座に拒絶された。


「そうですね、それは辞めて欲しいです」


 トイレ掃除は各クラスが持ち回りで行う、3階に有るトイレの数は2箇所でそれを6クラスで受けるのでおおよそ各クラスが2ヶ月間の割当と言う事になる。長期休暇の関係で短いクラスも有るとは思うがそれが3組になるのかは知らない。


「うちが受け持つ掃除区域は第1音楽室と第1理科室と調理室の3箇所それに教室の掃除は2班必要だから全部で5班が必要と言う事です。残りの1班には他の班の応援をしてもらおうと思います」


結局花村達は各班に割り当てて負担を応分して貰うことにした、1番負担が大きいのは花村本人が加わる班だが私が面倒を見させられそうで嫌な感じだ。

 

 最終的に余りにも面倒くさくなったら腕力で解決してしまおう、警察組織にもSDTFにも随分と貸しが溜まっている筈だしな、後始末は彼らに任せよう。



「修学旅行って何で3年生で行くことに成ったんですか毎年は2年の終わり頃ですよね」


 修学旅行の班分けの話になって篠崎が理由を聞いたが小田切の口が重い、私は朝の内にあずみからその理由を雑談で聞いていたから薄っすらと理由を知っている。


「京都の旅館が使えなくなったから急遽別の場所になったらしいよ」

「へぇ、そうなんだ何が有ったんだろうね」


 1番の原因は野生のゴリラ事矢野元教員、旅行会社を巻き込んで女子風呂を盗撮していたらしい。

 それが捕まった時に発覚して旅行会社との取引は中止、毎年使っていた旅館にも協力者が居たらしくそっちは数日の営業停止命令が出た。

 私達が旅行を行う筈だった2月頃にはその旅館も悪い噂が広まり、既に廃業してしまって居たらしい。1つの出来事が連鎖して世の中を変えていく、知らない内に私も歴史を改変しているのだろう。


「宮城福島って何が有るのかも知らないから半分楽しみです」


 残りの半分は不安だろうか、宮城は仙台の伊達政宗で福島は会津の白虎隊その程度の知識しか無い私も篠崎と同じような物だが、花村の居るおかげで不安しか抱けない。


「先生の時は何処だったんですか」

「私は京都奈良だったかな、新幹線で京都まで行って後はバスでずっと名所旧跡巡り、買い物で新京極って所を回ったのが1番思い出に残っているわね」


京都と言えば御所の中にも入ったし三千院にも立ち寄った、しかし何と行っても1番の思い出は京都競馬場だなあそこでしこたま稼がせてもらった。

 思い返すと中学時代の修学旅行の記憶は殆ど残っていない、理由は考えなくても判るから思い出したくも無い。



「大きなイベントは修学旅行くらいです、秋には体育祭と文化祭が有りますがそれは次の委員の仕事です」

「夏休みの学校説明会って今年は無いんですか、去年は手伝いに駆り出されたんですが」

「聞いて無かったので確認して置きます」


 説明はだいたい終了していて時間は14時半頃、篠崎はそのまま部活に向かって小田切は職員室へと帰っていった。


 私は1人昇降口へと向かうと上履きから下履きへと履き替える為下駄箱に手を入れた。


「川上涼子は預かった帰して欲しかったら小田切伊知子と一緒にオートフェニックの廃車置場に来い、警察に知らせれば川上の命は無い」


 馬鹿だ馬鹿だと思っては居たが本物の馬鹿だったようだ、呼び出しを掛けて来たのは花村達だ、本当に涼子をさらうような事をしていれば今頃奴らは全員あの世に居る。

 この手紙はデタラメだとは理解しているがこのまま放置すれば奴らは増長するに決まっている。

 これ以上の面倒ごとには手を焼きたく無かったし、涼子の手を汚さす事は絶対に避けたい。私が先んじて暴力に訴え出るかと呼び出しが掛かった中古車ショップのオートフェニックスに向かう事にした。


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             ※ WARNING ※

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 オートフェニックスは悪い噂の耐えない車屋だった、飛ばしの車庫証明なんて朝飯前で、残債が残ったままの金融車両なんて物も取り扱って居るらしい。

 廃車置場は幹線道路や住宅からかなり離れた場所に有る、私が一人近付いていくと物陰から花村達がゾロゾロと姿を表す。

 

「おうワレ、伊知子はどうしたんじゃ」


 廃車場には山積みの車が置かれている、ぶつかって崩れて来たら自分の命も危ないと言う事を気づいて居ないのだろうか、居ないんだろうな馬鹿だから。


「一応聞いて置くけど涼子は何処に居るの」

「おうあの女もワシが味見してやったわ、騒ぐと写真をばらまくと脅したら大人しいもんよ。弥生と同じ目に合わしてやったわほれこんな風にな」


 どの程度痛めつけたら大人しくなるのかと算段していたのだが花村が投げ捨てた写真が目に入ると、私は無意識に花村の股間を全力で蹴り上げて居た。鈍い音と共に何かが潰れる感触が有ったが、花村は地面に突っ伏して倒れて居る為どうなったかは確認出来ない。


「お前誰に何をやったか・・・」


 花村の取り巻きがまくし立ててきたが、会話の途中で横っ面を思いっきりビンタしてやった、狙いがずれて耳の辺りを叩いてしまい、空中で数回転した取り巻きは耳から血を流し泡を吹いて倒れた。


「おま、おま、お前川合を殺したのか」


 泡を吹いている男は川合と言うらしいがそんな事は既にどうでもいい、ここに居る人間を一人として無事に帰すつもりは無かったのだから。


「上等だよ、俺が殺してやんよ」


 取り巻きその2がポケットからバタフライナイフを取り出し刃を私の方に向けて走り出す。突き出してきた右手の手首を掴むとそのまま握りつぶすと、取り巻きその2の肘を人体構造上曲がらない方向に向かって曲げてやった。


「痛てーよー」


 大きな声を上げそうだったからそのまま横隔膜に向かって膝蹴りを入れる、口から血を吐いた取り巻きその2は静かになった。


「違う、嘘、嘘なんだ、川上さんを捕まえなんか居ないって、御免って、謝るから見逃してくれよ」


 そう懇願してきた取り巻きその3の顎に軽くパンチを入れて身体を軽く浮かせると、無言で逃げようとしていた取り巻きその4と5に向かってその3をぶつけるように蹴り飛ばした。

取り巻きその3の身体が高速で飛んでいきその4と5に命中する、蹴り飛ばしたその3はどうだか解らないがその4と5は生きては居るだろう。


「なあサトちゃん聞いてくれよ、俺は下村と笠間に無理やり付き合ってただけで花村とは関係無いんだ。俺たち同じ小学校で一緒に遊んだ友達だろ」


 最後の一人は同じ学区の人間だったらしいが顔も名前も覚えちゃ居ない、言い訳はもう聞き飽きたと殴りかかろうとした時スーツ姿の男達に取り囲まれて居る事に気づいた。



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