第56話「石碑巡り」
終業式終わり春休みに突入した、終業式当日は甲斐達と一緒にカラオケボックスに行って半日遊び回った。幸田のお別れ会を兼ねてだったが終盤幸田とガッツの二人が消えて行き残された私達は気恥ずかしい思いをした。
日曜を挟んで月曜に関東に有る攻略済みダンジョンの石碑巡りが始まる、葛飾、武蔵野、松戸と巡り判明した事は3点。
1つ目一度にダンジョンに入れる上限人数が決まっていると言う事、それぞれのダンジョンに寄って人数は違ってくるが上限に達したダンジョンにはそれ以上の数が入れないと言う事。
2つ目ダンジョン内に生息する動植物の一部が可食だと言う事と内部で採取した物を外に持ち出しても構わないと言う事。
3つ目ダンジョンに持ち込まれた物品はスキルに寄って固定化された物以外は外に出ると消えるという事。これについては若干疑問が有る、鎌倉ダンジョンに入れた記号はそのまま残っていた、描いた文字は残せると言う事になるのだろうか。
3つの情報をまとめ森下に本部に連絡してもらった、当初は数人居た解読班のスタッフはもはや着いてすら来なく成っていたから。
「聡志君涼子ちゃん晩ごはん何が食べたいっすか」
「家に帰って食べますよ」
「つれないですね、3人一緒に食べましょうよ1人わびしく食べるご飯って美味しく無いんですよね」
帰りの車の中で森下から夕飯に誘われた、外はまだ明るく夕飯を食べるには少し早いが私達と一緒なら経費が使えると言う森下の下心が丸見えだ。
「リュウ君私お腹減った」
「ここから支店まで飛んで帰ったら一瞬で到着するけど」
最後の松戸ダンジョンの石碑を解読した時点で私と涼子の二人は飛んで帰っても良かったのだ、それを1人車で帰るのは寂しいと言う森下に気を使って車に乗って居た。
「電話使って貰っても良いっすよ」
森下から携帯電話を渡され私は涼子の視線に負けて夕食を涼子一緒に外で摂ってくる事を母に伝えたら遅くならないようにと釘は刺されたが許可はすんなり貰えた。涼子も私と同じ用に連絡を入れるとやはりすんなりと許可が出たようだ。
食事は牛松で焼き肉をたらふく食った1人1万円近くに成ったが経費で落とすからと森下が全額払ってくれた。
「柔らかくて美味しいお肉だった、こんな焼き肉屋初めてだよ」
中学時代に焼き肉屋なんて出入りしたことは無い、ましてや初めて牛松に入ったのは結婚してからの事だった。
「涼子ちゃんこれからは仕事の後は美味しい所に連れてって上げるから期待しててね」
「怒られないで下さいよ」
「これだけダンジョン攻略に貢献してるんだから大丈夫、コスモ君や剣人さんはもっと美味しい思いをしてるんじゃないのかな」
SDTFも公的期間だから経費は税金で支払われてる筈だ、怒らるのは森下だが今更担当変更なんて面倒なので何か有ったら口添えしない訳には行かない。
「経費の水増し請求なんて絶対に駄目ですよ」
「そこまでやったら犯罪ですからしませんよ、隊長からは美味しい物を食べて来て良いって許可も貰ってるので大丈夫っす」
牛松を出てから帰宅すると、待ち構えていた妹の紀子から私も一緒に行きたかったと駄々を捏ねられた。母がデートの邪魔しちゃ駄目よと言うと更にまとわりつかれたので一緒に食事に行く約束を取り付けられてしまった。
水曜日今度は関西の攻略済ダンジョンを回る、最初は彦根城に有る支店に行って彦根下級ダンジョンを確認した。
「アレって本物のお城なの」
「そうらしいよ、江戸時代から続く国宝の城なんだってさ」
ダンジョンは彦根城の直ぐ脇に存在していた、朝早い時間なのでまだ誰もダンジョンには入っていないらしいが3つの冒険者グループがレベル上げの為ほぼ毎日入っているようだ。
「それじゃあ長浜に行きますよ」
彦根城の敷地を出た所に車が用意されている、運転手は見知らぬ男性だったが『鑑定』の結果SDTFの関係者だった事は解ったが冒険者では無く一般人だった。
長浜の初級ダンジョンは城下町に有る寺の一角に存在して石碑を確認すると関西四国地区に存在する下級ダンジョンの位置が記されていた。
「吹田、高槻、福知山、宇治、神戸、宝塚、彦根、大津、和歌山、那智勝浦、奈良、大和郡山、香川、徳島、高知の15箇所ですかSDTFで把握しているダンジョンより多いですね。愛媛にダンジョンが存在しないのは何が理由が有るんですかね」
ここに示されて居たのは下級ダンジョンだったので中級以上が愛媛に有るのかも知れない。
「今日中に京都も回ってしまうつもりなんですが以外と時間が掛かりますね、お昼は京都御所近くの料亭に用意されてますから直ぐに飛んじゃいましょう」
寺の一室を借りて御所内の支店に飛ぶ、飛んだ先にはSDTFのスタッフが居て料亭に案内してくれたがどう見たって一見さんお断りだろうと言う格式の店だった。
「ここでランチを取るんですか」
「夕飯を食べる余裕が無さそうなんでランチを奮発しちゃいました、かの文豪川端康成が愛した料亭ですよ」
中に入ると大きな古民家と言う感じの古めかしさが有るが襖や掛け軸に描かれれている絵が何処かで見た事の有るような物ばかりだった、これが本物ならとんでもない金額になるのでは無いだろうか。
通された部屋は30畳はあろうかと言う上部屋で真ん中に天然木のテーブルがぽつんと置かれて居る。三人分の席が用意されていたので座ると料理が運ばれて来た。
「松花堂弁当ですか、お酒も飲まないのに」
「これが京都一流料亭のランチですよ、1人5000円のランチなんてなかなか食べられないんですから心して頂きましょう」
ご飯と吸い物は別の容器で出てきたがそれ以外は1つの弁当箱に収まっている、刺し身がメインでその他に小鉢と牛肉のしぐれ煮と豆腐のような物が有ってご飯を2膳もお替りしてしまった。
「親が死んでも食休みってね、少し休んでから移動しましょう」
料亭を出たのが2時過ぎで三千院に到着したのは3時前、場内でダンジョン跡地まで移動すると3時を少し回っていた。石碑の文章を読んでいると森下が何が書いて有るか尋ねてきた。
「ダンジョン内で発掘出来る鉱石に付いて書かれて居ました、武器や防具の材料に成るものが有るらしいです、それとダンジョンの残骸もやはり素材になるような事が書いて有りますね」
「了解です」
森下の反応が薄い、私は知らなかったが既知の情報だったらしい一応本部に携帯から連絡を入れていたが下級ダンジョンの位置情報の時とは対応が全く違った。
土曜は大阪に飛んだ朝から梅田と堺へ、そしてそのまま尼崎に移動する、神戸から移動するより堺から車で移動する方が早いらしい。
「3箇所とも収穫無しですか」
既に他のダンジョンで仕入れた情報が乗せて有るだけだったので新たな情報を得られる事はなかった。
「残念賞でお好み焼きでも食べて行きましょうか」
「たこ焼きも食べたい」
「たこ焼きとお好み焼を一緒に食べられる店有ったかな、ちょっと調べますね」
まだネットも無い世界でどうやって調べるのだろうかと疑問に思って森下の様子を伺っていると携帯電話で何処かに電話を掛け情報を仕入れていた。
「梅田に戻りますよ、良い店が有りました」
少し遅めの昼食を梅田の鉄板焼屋でお好み焼きとたこ焼きそしてステーキを一緒に食べる、ランチと言うにはかなり値の張った店だったがやはり森下は経費で支払っていた。
「九州に上陸する前に残念なお知らせが有ります」
「どうしたんですか森下さん」
関西遠征が終わった後の最初の月曜日、九州の博多に飛ぼうかと言う段階で森下からいきなりそう切り出された。
「九州では昼食が取れない事に成りました」
「博多に支店が有ってダンジョン跡まで近いって事ですよね」
「同じ福岡市内なので車で30分も掛かりません、10時のおやつの時間にはもう東兼に戻ってます」
残念なお知らせでも無いと思うのだが涼子ががっくりしていたので食事を楽しみにしていた事は伝わってきた。
「観光してから食事を摂ったら駄目なんですか」
「それじゃあ経費で落ちないじゃないですか、自腹で外食するより自分で作った方が経済的です」
『調理』スキルの有る森下が食事を作れば外食することと同等の味が出せるだろう、自分で作るのが面倒と言う事と最近の外食は高価な食材が使われて居ると言う二点で食事を楽しみにしていたようだ。
「メシ代くらい私が出しますから福岡の美味しい店を探して置いて下さい」
「かしこまりー」
3月も最終週となると九州では春の陽気が訪れていた、まだ肌寒い千葉とは気候が異なるようだ。
「かなり暖かいですね」
「早良区って所にダンジョン跡が有るみたいです、車の手配が終わってる筈なんですが誰も居ませんね」
まさかまた騒ぎが起こったのかと心配し外回りをグルっと回って見たが誰も居ない、近くにダンジョンも無い事からここがダンジョン攻略の為に作られた支店じゃ無いことは明白だった。
「携帯で連絡とってみますね」
森下が携帯を取り出し本部に連絡を入れると待ち合わせ場所が支店近くの県警本部前だと言うことが判明した。
「こんなに近いなら福岡県警の本部内に支店を作ればよかったんじゃないですか」「本当にそうですよね、私達を待たせず迎えに来いって話ですよ」
若干話しが噛み合って居ないがいつもの事なので気にせず県警本部の中へと入っていく。受付の婦警に森下が事情を説明しているが要領を得ない、県警内部ではSDTFの事は秘密裏にされているようでたらい回しされた末車両を借り受けた事が出来たのはもうすぐ昼になろうかと言う時間だった。
「失礼しちゃいますよね本当」
「話が通って無かったんですか」
「県警の担当者が事件に駆り出されて不在だったんですよ、市街地で銃撃戦だとかなんとか福岡は修羅の国なんですかね」
大丈夫かよと思わずバックミラー越しに森下の顔を確認したが流行歌を口ずさみながらノリノリで運転していた。
「県警内が慌ただしかったのってそれが理由ですか」
「どうなんでしょうか、埒が明かないので本部長経由で車を準備してもらいましたから後から担当者の人こっぴどく怒られるじゃ無いっすかね」
笑顔で怖いことを言うなと注意したかったが目的地周辺に到着したようだ。だが真っ昼間の大通りなのに人っ子一人居ない、嫌な予感がプンプン漂い出すのだが森下はさして気にする様子も無く車を路上に駐車してダンジョン跡へと向かっていく。
「こんなに空いててラッキーでしたね」
「路上駐車して大丈夫なの?」
「県警の車ですから平気ですよ、怒られるのは県警の誰かですし」
早良初級ダンジョン跡は公園の中に有った、公園の目の前にはデカデカと反社の看板が掲げられて居りますます不安が募るのだが森下は気にせず進んでいく。
「往生せいや」
公園のど真ん中石碑が鎮座している真横に3人の男が倒れている、その内1人はその制服から警察官だと言う事は一目瞭然だ、遠目から見て胸が上下しているので息が有る事は間違い無いだろう。
土手っ腹にテレビでしか見たことの無いダイナマイトを巻いた男が拳銃を両手に持って立ちはだかる警察官に向かって発泡した、『危機察知』で『思考加速』をとっさに発動し弾丸の軌跡が森下に向かっている光景が目に入った。
ここで聖剣を出すのは悪手だ、銃刀法違反で捕まりかねない。じゃあっと普段から使っていた木刀を手に持ち弾丸の未来位置を『未来予知』に従い木刀を振るう。弾道を僅かに上方に反らせると森下の命中コースから外れる、そのまま拳銃をぶっ放した男に向かって移動する。
移動が完了した頃男が二発目を撃とうとしていた、既に私の木刀は男に直撃するコースで振り下ろされて居て右鎖骨辺りから袈裟斬りになり、鎖骨と肩の骨を粉砕しながら、使い慣れた木刀は木っ端に崩れた。
「確保ーーー」
警察官がワラワラと現れ私諸共捕まえようとしていたが私は倒れている警官に向かって移動する、息の有る人間は二人、1人は既に虫の息でこのままでは死を待つばかりだろう。私は意識を集中させ詠唱に入る。
『無辜の民を守りし英雄に癒しの軌跡を与え給え』
一気に魔力が持っていかれる事が判る、二人一緒に回復させようとしている自分自身呆れて居るが悪い気分では無かった。詠唱が終わって治療が進むと二人の体内に取り残されていた弾丸が排出され傷跡もみるみる塞がっていく。但し無くした血が元に戻る事は無いので医者に連れて行く必要は依然として存在するが、二人の命は救われたように思える。
倒れそうに成る私を涼子が支えてくれた所で気を失う。
最後に目にした光景は森下が警察官に取り押さえられている場面だった。
「あれから何日経った?」
見知らぬ場所で寝かされていた私は涼子の顔を目にしてそう尋ねていた、今までの経験上数日は意識を失っていたのでは無いだろうか。
「二時間くらいしか経ってないよ、和美さんが捕まったり本部長さんがお礼を言いに来たり大変だったんだよ」
「あの犯人って何者だったの」
「知らない、でも生きてるからそのうち判るんじゃないの」
「森下さんは」
「福岡県警の刑事さんに連れてかれたよ事情聴取なんだって」
私が目覚めた事を知った県警の幹部たちが揃って謝罪と礼を言ってきた、あの公園全体を封鎖したつもりで居たらしいが私達が国道から直接乗り入れた方面に穴が有ったらしい。堂々と路上駐車をして公園に乗り込んでいくような奴の事を想定して居なかったようだ。
「もう最悪っすよ、なんで私だけ取り押さえらたんすか」
「交わせば良かったんじゃないですか」
「私は聡志君や涼子ちゃんみたいな万国びっくりショー人間じゃ無いので無理です」
今回の事件で報道協定が結ばれていた為私達の顔が公にならずに済んだのが幸いだった、事件は警察が解決したと言う風に流され私の平穏は守られた。
「聡志君の体調が良いようなら美味しい物を食べてから石碑を解読しに行きましょうか」
「もう公園に入れるんですか」
「大丈夫っす、それよりも今日は名一杯高級料理を食べますよどうせ帰ったら隊長からの説教が待ってるっすから」
おもう怒られる事は確定で諦めて居たようだ。
ダンジョン跡に残された石碑には再話にも九州中国地区の下級ダンジョンの位置が書き示されていた。
場所は久留米、熊本、鹿児島、長崎、那覇、岡山、倉敷、福山の8箇所だった。関西関東に比べると若干数が少ないようだが人口割合通りなのだろう、そう考えると関東に有るダンジョンは少ないくらいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます