第57話「中級ダンジョン」

 福岡から帰ってきた森下を待っていたのは隊長の更に上藤倉課長以下の大説教だった。説教は私にも飛び火して自分の身体を一番にしてくれと心配されてしまった、今回は我ながららしくない行動のオンパレードで反省すべき点は幾つも存在した。


「お小言はここまでにして、3人とも犯人逮捕協力と大平巡査と高島警部の命を救ってもらって感謝しています」


 爆弾を抱えた犯人に木刀で殴り掛かるのはどうかと思うが倒れて居た二人の命を救えた事は藤倉からも褒められ、大濠から感謝状と金一封が貰えた。


「リュウ君いくら入ってた」

「図書券が5千円分だね」

「子供のお小遣いじゃないんだから、ちょっと渋すぎない」


 実際子供の小遣いのつもりで金額を入れたんじゃないのかな、中学2年生が貰うものとしては妥当な金額だと思う。


「そういうもんですよ金一封なんて私達なら1000円が良い所っす、その代わり給与の査定が良くなったり昇進しやすく成るって話ですけど。爆弾抱えた犯人を木刀で確保したら1階級くらい上がるんじゃないっすかね」

「じゃあリュウ君のお給料上がるのかな」

「上がるかも知れないですね、上がったら私にもご飯に連れてって下さいね」


 森下の戯言を聞きながら最近コスモと肥後の姿を見ていないなと思いながら3人でまったりと支店で過ごした。


 石碑最後の解読先は北海道の札幌だったが未だ江下から北海道に一泊するためのアリバイ工作が伝わって来ていない、ダンジョン攻略隊が忙しく動いているようで北海道にまで人員を送り出す事が出来ていないらしい。


 特段約束は取り付けて居なかったが江下と御園が揃って東兼の支店に現れたそうだ、呼び出しを受けた私が支店に向かうと江下と御園の他に攻略隊の最大戦力北条大吾までが私と涼子を出迎えてくれた。


「どうしたんですか3人共その怪我は」

「大した事は有りませんがダンジョンでやられました」


 一番酷い怪我を負っていたのは北条だったが御園も足を引きずっていて、江下に至っては顔に大きな傷跡を残していた。


「スキルを発動するタイミングが遅れてしまって不覚を取りました、現在の私達の力量では中級ダンジョン攻略は早すぎたようです」

「どこのダンジョンに入っったんですか」


 池袋の中級ダンジョンは入るのに聖職者が必要だし、横浜と千葉のダンジョンは『瞬間移動』の候補地に登録しただけで調べても居なかった。


「梅田に有る中級ダンジョンです。このまま放置すると2000年には氾濫すると言う情報を元に集中して攻略に入っていたのですが油断しました」

「レベル帯はいくつなんですか」

「推奨レベルは30ですがモンスター部屋に出てくる魔物で最大値が45で1.5倍程だと言うことが判明しました」


 鎌倉ダンジョン地下1階で遭遇した奴らのレベルを考えると推奨レベルの1.5倍が雑魚キャラのレベルでボス相当の魔物が倍程度のレベルだと考えて居た。だから推奨レベル30のダンジョンなら最大レベル60程度のボスとエンカウントしたっておかしくはない。


「地下1階で45の魔物が出たんですか」

「でました、それまでに7回モンスター部屋にアタックを掛けてレベル20から37程度の魔物だったのでそれが油断に繋がったと言えます」


 レベル37の奴らとなんて戦った事は無いのだが勝てる物なのだろうか。


「レベル37の魔物だと互角以上に戦えると言う事ですか」

「相性が良かったから戦えたとも言えますが対処は可能でした」


 どんな魔物が出てきたのか興味は有ったが先に3人の治療を行う事にした、痛々しくて見ててられなかった。

 攻略隊の梅田ダンジョン攻略法は北川による弓での遠距離攻撃、梅田ダンジョン地下1階は鎌倉ダンジョン地下1階と同タイプで小部屋に入ると敵が召喚されるタイプのようで廊下側から魔物をコアを狙って倒して居たらしい。

 現れる魔物はスライムと呼ばれる生物で核が壊れると自壊をお越し崩壊する、魔法でも倒せそうだが直接剣や槍で戦う事には向いて居無さそうだ。


「賢者と言うジョブは司祭の上級職なのでしょうか」


 治療を終えて話の続きを始める。


「違うと思いますよ回復魔法の他に攻撃魔法も補助魔法も使えますので」


 3人を癒し終えても魔力が逼迫される感覚には成らなかった見た目程3人共怪我の具合は悪く無かったようだ。


「コスモ君から大量に魔法薬を仕入れてますよね」

「魔法薬は全国に居る冒険者に配布してます、我々には教団から司祭の派遣を受けて居ますので」

「教団?」


 以前に聞いた聖職者で有る司祭が所属している宗教団体だろうか、まさかガチの宗教関係者だとは思わなかったがSDTF以外にも団体で行動している組織が存在するようだ。


「ルナリアムーン教会はご存知ですか」

「聞いたことも有りませんけど」

「癒しの奇跡で教団を運営している組織です、眉唾物の奇跡では無くスキルによる本物の奇跡です。教団は1980年から活動していますが元は同人サークルから始まったようです」


 あまりお近づきに成りたくない存在だが何故急に江下達が私にそんな内情を吐露しだしたのか理由が気になる。


「教団から中級ダンジョンへの聖職者派遣を断られました、SDTF内部には癒しの奇跡を実行出来る冒険者は居ません。そこで先日我々の仲間を救って下さった緒方さんに協力して頂けないかと思い恥ずかしながら参上した次第です」


 つまりSDTF側は私にダンジョン攻略の手伝いを願い出た訳か、私もこのままだとレベル上げもままならないなと考えて居た所だ、特に商人で有るコスモのレベル上げは急務だと言っても良い。


「私だけでは無く涼子と肥後さんそれにコスモ君も一緒なら構いませんよ」

「肥後は構わないのですが川上さんと悠木さんは・・・」


 警察官で成人済みの肥後は自己責任だと強弁出来るが涼子と特に小学生のコスモが怪我でも負った日には責任を取れる大人が居ない。


「こう見えても涼子もなかなかのもんですよ、私なんかより数段強いですから」

「私が一緒じゃ無いとリュウ君を連れて行かせませんよ、私達一心同体ですから」 


 渋る江下に私と涼子それに森下まで一緒になって連れて行けコールを連発して結果江下が折れた。


「悠木さんは最重要人物の1人なので私だけの判断ではダンジョンに連れて行く事が出来ません、悠木さん本人の意思の確認と上層部との話し合いをさせて下さい。今週中には結論を出しますので暫くお待ち下さい」


 3人が帰っていったがその間御園とは会話する事が出来なかった、彼女には中町の事を聞きたかったのだがそれ相場では無かった事は私も認める所だ。


「コスモ君連れっても大丈夫なの?」

「コスモ君のレベルを上げない事には装備の更新も出来ないしね、ダンジョン攻略の要がコスモ君だと思うよ」

「最近全然顔を見てないもんね、何してるのかな」


 支店の拡大を続けているのだろうけど、私達と切り離すと言う理由も有るのでは無いか、そんな気は無いがコスモから仕入れられる魔法薬を使えばそれなりに稼げる筈だから。


「今は中部地方を回ってるって話ですよ」

「肥後さんとコスモ君の二人で?」

「工作隊の皆さんも居るんじゃないですか、後は攻略隊二番隊か三番隊の皆さんか」


 江下、北条、御園、北川の他にも攻略隊が存在するようだ、考えたら当たり前の事なのだがそんな事思いもしなかった。


「二番隊や三番隊の人達も戦えるんですか」

「私よりは戦えると思いますよ、階級もお給料も高いので戦えなければ詐欺ですよ詐欺」


 小隊1つは6人編成で攻略隊最強の一番隊は御園純子が小隊長を努め、北条、北川がその麾下に居て更に安達と織田と言う課員も所属しているようだが私達は会った事が無い。


「それだと1人少なくない?」

「一番隊の6人目は欠員なんですよ、江下隊長としては剣人さんを加えたいみたいなんですけど上の方が剣人さんを入れたく無いみたいなんですよ。理由までは知りませんけど」


 機動隊時代の肥後に何が有ったらあそこまで上層部に嫌われてしまったのだろうか理由が気になる所だが流石に聞きにくい。


「和美さんがその6人目に成ることは無いの?」

「冗談でも辞めて下さいよ涼子ちゃん、私ダンジョンに青春を注ぐなんてまっぴら御免です」


 その割にはダンジョンやジュブの恩恵を全力で教授している気がするのだが。


「その安達さんと織田さんでしたっけ、私達に紹介されない理由って何か有るんですか」

「見た目が怖いからじゃ無いですかね、元マル暴なんでまんまヤクザですよ。私だって1人じゃ会いたく無いですもん」


 本当にそれだけの理由で会わせたく無かったのだろうか、私やコスモは『鑑定』が使える、読み取られると不味い人間はそもそも私達の前に出てきてないと言う可能性は無いだろうか。


「二人のジョブとスキルは判りますか」

「スキルは知りませんけどジョブは織田さんが剣士で安達さんは武道家だっって聞いてますよ」


 剣士と武道家ね剣士の方はまあ判る、しかし武道家って何を意味しているのだろうか。武道と言うのは武士が身につけるべき技でそれ自体が何かの職を指している訳では無い、柔道や空手を行う徒手空拳の戦士と言う意味なら武闘と言う言葉の方がしっくり来る。私に会わせたく無い人間はその安達と言う人物な気がしてきた。


「そんな殺伐とした問題よりもですね木曜ってどうします」

「木曜ですか、買い出しのキャンセルは今からじゃ間に合いませんよね」

「えっ二人で何処かにお出かけするの?」

「出掛けないよ、ここに食材と料理を運んでもらうだけ、森下さんにはダンジョンで食べる食事を作ってもらってたんだ。涼子も手伝ってくれる?」


 以前から少しずつ食料を買い込んでいたがブラックカードが手に入ってからは大規模に収集している。弁当や給食だって森下の存在が有れば大量に仕入れても怪しまれる事は無い、なんせ彼女は正規の公務員でも有るのだから。


「勿論手伝うよ、何で今まで言ってくれなかったの」

「ただの作業だよ」

「それでもリュウ君と一緒に居られるなら良い」


 次の木曜には涼子も交えて物資の備蓄を行う事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る