第37話「消えた戦士」

 後藤と連絡が取れなく成った、ダンジョン地下二階の探索から帰還したその日後藤は何も話さずそのまま1人車に乗り込むとコスモを残し無言で帰って行った。

 それで次の週の土曜やはり連絡が取れず涼子とコスモを連れて喫茶フランベルージュを訪れてみたら閉店の張り紙が貼って有って教えられて居た電話番号も解約されて居た。


「コスモ君後藤さんの自宅は知らない?」

「明菜お姉ちゃんの家には行った事無いよ」


 私と涼子が知らせれて居たのもこの喫茶店と電話番号だけだった、こちらも用心の為住所を知らせて無かったから後藤の住所を聞こうとさえしてなかった。


「年内は一旦ダンジョン攻略は諦めるしか無さそうだね、3人で地下二階の攻略出来なくは無いと思うけど仲間探しを本気で考えた方が良さそうだ」

「駅で探すの?」


 コスモを1人駅に立たせて置くことは辞めた方が良い、事件性を疑われても言い訳が無いからな。


「今すぐって訳じゃなくて長い目で探そうかって事だよ、地下二階を探索するためには用意して置いた方が良いものが沢山あるから準備を整えるのにも時間が掛かりそうだからね、用意が出来たらコスモ君に連絡するからそれまで1人でダンジョンに向かっちゃ絶対駄目だよ」

「うん解った」


 コスモを涼子と一緒に家前送って行く、大体の住所は聞いていたが家を尋ねるのはこれが初めてだった。都心の高級住宅街にコスモの自宅は存在した、その家はうちと涼子の家を足したより広い敷地を誇っていた。それもそのハズで周辺地域一帯には建築協定が結ばれて居て最低敷地面積が1500平米以上と決められている地域だった。バブル絶頂期の今最低でも3億以上の価値が有る物件ばかりが並んでいるのだ。


「ここがコスモ君の家?」

「うんこっちが僕の家であっちはお祖父ちゃんの家だよ」


 一筆の敷地に2軒並んで家が有り家と家の間には広い庭とガレージが存在していた。


「じゃあコスモ君しばらくお別れだけどまた連絡するからその時にはいっしょにダンジョンに潜ってくれるのかな」

「うん僕もっとレベルを上げたいし商店の品揃えも良くしたいから一緒に行くよ」


 敷地の前で別れると涼子と二人目立たない場所を探す、空き家らしい家の前で涼子のスキルを使って自宅まで移動すると涼子を部屋に上げてこれからの事を相談する事にした。


「リュウ君後藤さんを探すの?」

「居場所くらいは突き止めて起きたいけど連絡するつもりは無いよ」

「そうなんだ、秘密をバラされる前にやっちゃうのかと思ってた」


 涼子が俺をどういう目で見てるのか解った気がするが秘密が漏れたとしても影響は無いだろう、そもそもダンジョンやレベルの事を無条件で信じる大人が居るとは思えん。それに北海道のダンジョンを攻略した人間が居るのだし、後藤の口を封じたとしたってそれで秘密が外にもれない保証はない今日まで誰にも口外してないとも言えないし。


「じゃあ出来ることって何も無いの?」

「剣道の練習したり期末テストの勉強したりやることはいくらでも有ると思うけど」


 私の方は甚八と進めている株取引が山場だ、そうは言っても私に出来る事は無いのだが。


「そうじゃ無くて」

「何?」

「クリスマスにデートするとか、初詣に一緒に行くとか」

「年末は付属で合同練習でしょ」


クリスマスくらいは涼子為に開けておいても良いのだがそうすると紀子がうるさくしそうだ、仕手戦が上手く行けばその頃にはもう結果が出ている事だろうから金銭的に余裕が有る事を願うばかりだ。


週が開けた月曜日放課後真っ直ぐ家に帰ると速攻で着替え涼子に新宿ダンジョンに飛んでもらった。そこから池袋の法務局で喫茶フランベルージュの土地の名義を調べると驚いた事に後藤明菜の名義になっていた。

 名義人の住所をたどって後藤のマンションを調べると既に引っ越しをした後だった。これ以上私に後藤の足取りを調べる事は難しいのだがこの時代まだ住所を探す方法はいくらでも存在する。一番手っ取り早いのはマンションの管理人に問い合わせる事が簡単で中学生の私や涼子なら尚更簡単に聞き出す事は可能だろう。


「すみません703号室の後藤明菜さんにお歳暮を届けるよう母に頼まれたんですけどいらっしゃらないようなのですが」

「後藤さん?引っ越されましたよ、引越し先はアメリカだって話だったからお歳暮を届ける事は難しいんじゃない。詳しい住所も聞いてないしね」


 後藤がアメリカに引っ越したかどうかを確認する事は難しい、旦那が海外赴任していると言う話だったから追いかけて行ったなら流石に探すことは出来ない。住所くらい簡単に探り出せると考えたのは甘すぎたようだ、区役所で住民票を閲覧する方法も無くは無いが流石に中学生には見せてくれないそこまでして後藤の足取りを追う必要も無いかと引き下がった。




街がクリスマスムードに包まれる頃私は涼子と一緒に期末テストの勉強を行っていた。甲斐達は今回一緒に勉強していない、理由は真由美が少し荒れて居たからだが私にはどうする事も出来い。もっとはっきり言うなら真由美に構っている暇が無いので放置だ、以前の真由美と比べるとまだましだからな。


「真由美ちゃんどうしちゃったのかな」

「詳しくは知らないけど親と揉めて居るらしいよ」


 真由美は演劇の道に進みたいと親に意思表示をしたが開業医である父親は真由美の行動が理解出来なかったようだ。真由美もいきなり演劇系の学校に進学するなんて言わずに演劇部の強豪校に進学して部活で実績を作ってから芸術大学にでも進学すると言えば親はここまで反対しなかったろうに。


「真由美ちゃんのお父さん真由美ちゃんを医者にさせて跡を継がせたいのかな」「そこまでは考えて無いと思うけど、演劇の世界って言うのが理解出来ないだけだと思う」


 私が知ってる真由美はもっと荒んでいたから今程度であればあそこまで落ちる事は無いと思いたい、真由美から何か言われたら相談くらいは乗ってやるつもりだ。


「ガッツ君と香代ちゃん付き合ってるのかな」

「はぁっ?」


 話が飛びすぎてついていけず思わず聞き返してしまった。


「だからガッツ君と香代ちゃんが恋人同士なのかなって」


 これはアレだ意味の無い会話だ、勉強に飽きて会話に逃げたいから話を振って居るだけで中身が無いこれ以上勉強を続けても頭に入らないだろうと判断して試験勉強を終わる事にした。


「気分転換にハンバーガー屋にでも行く?」

「うん行く行く、すぐ行く」


 私は涼子に引きずられるようにしてファーストフード店に向った、夜からは陣八との打ち合わせが有るのでその埋め合わせも兼ねて涼子にサービスを行う。


夕食を食べた後甚八が家まで向かえに来てくれた、着いてくると言う紀子をなだめるのに苦労したが母は出かける事についてうるさく言わないので助かる。


「また車買ったんだ」

「そそ、これ美少女天使クルミちゃんの乗ってる車の元デザインのモデルなんだよ」


 美少女の天使が車を運転するのかと突っ込みたい所であったがこれまで乗せて貰った車の中じゃ一番マトモだったので車について言及することは止めて置くことにした。


「西芝電算株だけど40億で600万株手に入ったよ、これ以上増やすなら信用買するしか無いけどどうする」

「金利がかかるんだよね、その分は現金で支払わないと駄目なの?」

「取引期間が短いから問題無いと思うよ、1000億の投資話が発表されたら株価が跳ね上がる事は間違い無いよ。ただその話がガセだったら元手の40億の半分も残らないと思うけど」

「明日にでも買い増しお願い、それで投資の話が出ら信用買は止めて空売りの準備を開始してね」

「了解」


 盗聴の心配なんかは無いハズだが一応用心して車の中で会話する、車に盗聴器が仕込まれて居たら意味は無いがそれでも甚八の自室よりはよっぽど安全だろうと思う。


「話は変わるんだけど甚八くんの所にコンテナハウスって有るよね」


 工事現場に置いてあるようなコンテナハウスが畑の横に有る事は以前から知ってた、中に入った事は無いが鎌倉ダンジョンを潜るのにあれなら充分休憩出来ると踏んだのだ。


「物置代わりに置いてるやつねそれがどうしたの」

「あのコンテナハウスに内装をしてトイレと風呂とキッチンを付けて寝泊まり出来るように出来ないかな」

「出来るだろうけど欲しいの?」


 収納出来れば手に入れたいが私が直接購入することは難しい、だが甚八を介してなら手に入れられるかと思いついたのだ。


「秘密基地って言えば良いのかな、そんな感じで欲しいんだ。で購入出来たらしばらく甚八くんの所で預かってもらいたいんだけ駄目かな」

「秘密基地ってサトチャンらしく無いね、コンテナハウスに内装作っても上下水道や電気を繋げないと使えないと思う。キャンピングカーでも買って置いといた方がよっぽど簡単じゃないかな。キャンピングカーと言えばだけどね劇場版愛・覚えてなさいよのアズアズの・・・」


 アズアズの話はどうでもいいがキャンピングカーってのは盲点だった、それなら移動も出来るし電力はエンジンを回せば良いし水もタンクが付いている。風呂とトイレとキッチンが備わっている物も有るはずだし購入もしやすい。


「キャンピングカーっていくらくらいするのかな」

「ピンキリみたいだよ、アズアズ仕様のキャンピングカーだとベースがバスだから改造費込で5000万くらいだってさ。株で儲かったら買おうかと思うんだよサトチャンも一緒に買ってみる?」


 車検の問題や自動車税をどうするのかと言う事も考えに至ったのだが購入する事に決めた、合わせて内装が施されていないコンテナハウスと仮設のトイレも一緒に購入してもらう事に決めた。


信用買をお願いしてから程ない日程で西芝の1000億円設備投資の話が大々的にマスコミ発表されそれと同時に株価が連日ストップ高に跳ね上がった。甚八が購入していた平均の株価は600円程だったのが10日後1株5800円にまで値上がりし土日を挟んだ月曜には1万円を越えて居た。


 期末試験が終了した、私の成績は学年で5番だった以前の今頃の成績とは比べるまでも無い好成績だったが二回目の学生生活だと考えるとそれなりの成績と言う程でしかない。

 意外だったのが涼子の成績でなんと平均くらいまで順位を上げておりレベルアップの影響が学力にまで及ぶのでは無いかと疑ってしまった。


「ねえねえリュウ君クリスマス何する?」


 テストも終わって仕手戦もいよいよ本番なのでゆっくりとしたい所なのだがそんな事を言ったら機嫌が悪くなる事間違い無しだから涼子の好きそうなオシャレなカフェでランチを食べた後銀座でウィンドウショッピングを提案してみた。


「良い、それ良いよリュウ君もう最高」


 涼子が抱きついてきた、最近涼子との距離感が近い気がするかと言って直接的な接触には奥手だ、せいぜいキスをするくらいでそれ以上の関係性に発展する様子は無い。

 精神性はともかく肉体的には性欲を持て余している中学生の私には厳しい状況なのだが一歩先に踏み出せないのはやはり優子と明雄二人の顔がチラつくせいだ。


クリスマス後数日という所で甚八が空売りを始めた、まだ上昇トレンドだった西芝株の動きが空売りによって鈍化する、それでも値段はジリジリと上がっている事から一般ユーザーが買いに入っている事が予想された。それで私は叔父の事を気にかけ一応連絡を取るべく1人で母の実家に向かった。


「叔父さんお久しぶりです」

「聡志か此花神社の祭事を手伝う気になったか」


 そんな話も有ったなと思い出したが今話たい事はそんな話では無い、叔父の部屋に盗聴器が有るような事は無いだろうし今更聞かれても既に遅いと西芝株の話を切り出した。


「西芝株って叔父さんもう手放した」

「そっちの話か、一応半分は手放したそれでも元本の3倍くらいは利益が出たからもし仮に急落したって損失が出る事は無いんだがやっぱり危ない情報が入ってきてるのか」


 利益が出ているなら忠告するほどでも無いかと念の為だと言って私を信じてくれるなら直ぐにでも全部の株式を手放した方が良いと再忠告して祖父母に顔を見せた後自宅に帰った。


 クリスマス当日何故か私と涼子の間に紀子が割り込んでいる、出掛けに紀子に見つかり一緒に行くと泣く紀子を放置する事が出来ず涼子の了承を得て一緒に近所のファミレスでランチを食べて居た。

 街はカップルと家族連れで溢れている、フライドチキンを売るファーストフード店には長蛇の列が出来ていて見知った顔も散見された、このまま銀座に行くことは難しい私と涼子の二人なら何が有っても平気だが紀子も連れてとなると。

 予定を変更して地元デパートの屋上へ3人で遊びに行ったやはりそこも人だかりだったが紀子が迷子になると言うほどでも無く一日紀子を連れて涼子とデートする羽目になった。



夕方帰宅すると臨時ニュースが報道されていた、西芝の社長を筆頭に役員数人がココム違反で逮捕されたと言うものだった同時にアメリカ政府は自体を重く見て西芝への輸入規制を報じていた。

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