第36話「鎌倉ダンジョン攻略2」

 翌週の土曜日2回目の攻略を結構する、今回の攻略には後藤だけでは無くコスモも参加してのフルメンバーで挑む。私と涼子はスキルで移動してきていたが後藤とコスモは車でやって来ている、まだ後藤に拠点登録の話はしていないようだがしていたとしたって帰りの足が無いから結局車で来る事になるのだろう。


「コスモ君先週狩ったゴブを渡しても大丈夫かな」

「うん良いよ聡志兄ちゃん、ここに出してくれたら収納するから」


 数等のゴブリンを買取査定してもらう300クレジット程度にしかならなかった少なくともホブが居ない事には買取額には期待出来ない。販売出来る物を確認したが現在の所持クレジットでは食料しか買えそうに無かった。


「それじゃあ攻略を再開しましょうか」


 完全装備の後藤が先陣を切ってダンジョンに突撃し後を追う形で私達3人がダンジョンに入っていった。ダンジョン内では時計は勿論携帯機器とうのデジタル器具の一切が使えない状態で中に入った経過時間が解らない所が恐ろしい。

 マッピングをしながら先週回れなかった方面へと移動する。部屋の造りは何処も似たりよったりだったが先週付けて置いた番号はしっかりと保存されていて迷うことはなさそうだ。

 初見の部屋に入ると罠が発動し奴らが湧いて出る、ホブ主体だったがレベルが20を超える事は無い、事前にコスモの鑑定で奴らの情報が得られるから今の涼子と私なら難無く倒せる敵ばかりだった。

 1階のフロアすべてをマッピングした時点で引き返す事にした。地下に降りる階段は発見済みで宝箱は合計3つ見つかり中には鋼鉄の盾と鋼鉄のショートソードそれに謎の種が出てきた。前回取得した風のマントも合わせてコスモに鑑定してもらったが特殊な効果が有る物は無かった。


「聡志兄ちゃん僕ねレベル15になったよ」

「おめでとう、新しいスキルは何か出てきたのかい」

「うん『マッピングスキル』ってのが出てきたよ」


 商人のスキルでマッピングが出てくるのか関連性が見いだせないが便利そうなスキルだからこれからはコスモにマッピングを担当してもらおう。


「聡志兄ちゃんはレベル上がった?」

「18に上がったけど実感は無いかな」


 実際ザコ相手だと17でも18でもレベルの恩恵に大差はない、確実に強くは成っているのだと思うがそれ以上の感想は無かった。


「中での経過時間がわからないのが不安よね」

「商店に新しい商品が入荷して時計も有ったよ、1万クレジットだけど買うの?」 


 100万の時計か涼子と後藤が居なければ間違いなく購入するのだが現在所持しているクレジットは今日狩った分を合わせても5000クレジット程しか無かった。


「聡志君買うべきだと思うんだけど今クレジットはどのくらい残ってる?」

「5000程です」

「残り50万か、今は保留するしか無いわね」


 購入制限が無ければ内緒で購入してしまおう、その程度の現金を切る事は怖くない。後藤もレベルが上がっているのだが私達に進んで話すつもりは無いようだ、私の鑑定でも後藤のレベルとスキルは覗けるようになっていた。これがレベルアップの恩恵ならレベルは上げて起きたい物だ。

 後藤のレベルは15、新たに得たスキルは『倍力』と言う物で戦闘中の腕力を上げる事が出来るようだが使用するとインターバルが必要で倍という言葉が入っているが必ずしも2倍になる物では無いらしい。

 出口まで戻ると本日の探索は終了して解散となって後藤が鎌倉駅まで送ってくれる、いつもならコスモは後藤の車で帰宅するのだが今日は私達と一緒に列車に乗り込んで来たので時計の購入を依頼する事にした。


「時計の制限は5本だよ」

「じゃあこれで3本お願いね」


 涼子やコスモに私が現金を所有している事が知られる事になるがそれよりもダンジョン内での時間経過がわかる事が重要だから3人それぞれの分を購入する事にした。


「明菜お姉ちゃんの分は買わないの?」

「後藤さんの分まで買える程のお金が無いから仕方ないよ、時計を買った事は後藤さんには内緒にしてほしいんだけど後藤さんが購入したいって連絡取ってきたら売っちゃって構わないよ」

「来週もダンジョンに入るの?」

「そのつもりだけど都合が悪いのかな」


 11月は今週で終わり来週からは12月に入る、私も甚八と一緒に仕手を仕掛けるから時間的な余裕は然程無かった、もし年末までに間に合わないようだと攻略は来年に持ち越ししなければならない。


「クリスマス会の準備が始まるんだけど」


 クリスマス会か、学校行事でそんな物存在しただろうか宗教的要素を多分にはらんでいたが80年代後半ならそう云うイベントが学校にも残っていたのかも知れない。流石に小学生時代のイベントごとまでは覚えては居なかった。


「土曜も準備が有るって事かな」

「ゆかりちゃん達と一緒に劇の練習をしようって誘われてるの」


 交友関係の薄いコスモが友人達と演劇の練習に誘われて居るらしい、私達と一緒に電車に乗った理由はその辺りの事を相談する為だったようだ。相談の結果ダンジョン攻略は12月の第2週まで行いそれで攻略出来ないようなら来年に持ち越す事に決めた。後藤には事後承諾で悪いとは思ったが電話でその旨を伝えたが気持ち悪いぐらいあっさりと承諾してくれた。


 翌週の土曜日約通り4人が集合してダンジョン地下二階に降りる、コスモ商会から購入した腕時計は4人全員が装着している、全員が抜け駆けしているような状態なのでその事には誰も触れなかった。

ダンジョンに入り地図に従って目的に向かって歩く、コスモが会得した『マッピング』のスキルは自動地図制作能力のような物で一度通った場所が白紙の紙に記載されていくような物らしい。出力する術があると共有出来るのだが残念ながらコスモの脳内に保存されているから私達がその地図を覗く事は出来ない。

ダンジョン内で使える腕時計を信じるなら地下に降りる階段までは奴らを蹴散らしながらでも30分も有れば到達出来る場所だった。これなら引き帰る事も楽勝だなと安易に階段を降りたのは失敗だった。


「リュウ君階段が消えたよ」

「えっ」


 振り返って背後を確認すると階段が消え去って居た、それどころかダンジョン内を歩いていたハズなのに壁は無く天井も見上げると木々の隙間から空が見えるうつむくとむき出しの地面が見えるから森の中に彷徨い出たとしか言えない場所だった。


「コスモ君地図は」

「鎌倉下級ダンジョン地下二階だって」

「上に上がれそうな階段は?」

「地図には描かれて無いよ」


 リュックの中に方位磁針が有ったろうか、最初の探索時には持ってきていたが役に立たないようだから鞄から出して部屋に置いたままだった、『収納』を使えば邪魔に成ることは無いから仕舞って置けば良かった。


「閉じ込められたって事かしら」

「判りません、水と食料なら半年や1年引きこもっても充分足りる量は有りますけどキャンプ道具なんて持ち込んでは無いですから休憩やましてやここで眠る事なんて難しそうですね」

「頼りはコスモ君の地図だけか・・・仕方が無いから進みましょ宛なんて無いけれど」


 後藤の言葉に従うしか無いとコスモ君の支持に従って地図の上を北に見立てて進んで行く。先頭は涼子で二番手には後藤私が最後尾でコスモ君は私の前を歩いてもらう。


「後藤さん右からなんか来るよ注意して」


 涼子が叫んで鋼の剣を構える、私は後方から支援魔法を使って後藤と涼子を強化すると涼子と同じように新たに取得した鋼の剣を構える。

黒い塊が飛んできた、狙われたのは後藤で塊が後藤をすり抜けたように見えた時鮮血が飛んだ。コスモを強引に下がらせて私がかばう形になったが一瞬後に涼子が黒い塊の頭を切り飛ばした。


「鑑定を」


 私の言葉に従ったコスモが『鑑定』を掛ける同時に私も黒い塊に『鑑定』を施すとブラックサーベルタイガーレベル15と言う情報が見えた。海老かよっとツッコミ掛けたがそれは真っ黒の虎のようだ、普通の虎と違う所は鋭く伸びた二本の牙の存在だろう。


「リュウ君後藤さんの治療をお願い」


 私も冷静では無かったようだ、そう言われて後藤に駆け寄ると怪我の具合を確認する、右腕に大きな切り傷が存在し白い物が見える血は然程出ていなかっがそれが重症であろうことは聞くまでも無かった。


『回復』


 右手に回復魔法を掛けると切られた傷がみるみる塞がっていく、その間後藤はうずくまって左手で右手を押さえて震えて居た、傷が癒えた後も立とうともしないでうずくまっている。


「聡志兄ちゃん、ブラックサーベルタイガーだってレベルは15で物理耐性が有って火に弱いって出たんだけど涼子お姉ちゃん一撃で首飛ばしちゃったね」


 コスモは後藤と違って精神的に余裕があるようだ、直接攻撃を受けなかったからなのか子供特有の好奇心が勝ったのか行動には支障が無いようだが後藤をどうにかしないと進むことは出来ない。


「黒虎回収しちゃっても良いかな」

「そうだね、血の匂いで他の魔物もよってきちゃまずいから回収してもらおうか」「うん・・・えーっとすごい一匹だけで1万クレジットに成ったよ」


 ブラックタイガー一匹で100万円かよ、そりゃあヤバイ訳だ、上がったばかりだがレベルもと確認すると19に上がっていた。後藤のレベルを確認するべく『鑑定』を掛けてみると一気に18まで上がっていた、コスモも後藤と同じレベルだったから同じく最低でも18には成っている事だろう。


「帰りましょ、今すぐ帰りましょうよ」


 切られたショックが激しかったせいだろうか後藤が引き返すと言ってパニックを引き起こしている、私も涼子もその意見には同意するが周囲を探索しない事には帰る事は出来ない・・・うん?拠点に帰る『ホーム』か涼子の『瞬間移動』を使えば帰れるのか?涼子に近づいて耳打ちで『瞬間移動』が使えそうか尋ねて見た。


「多分無理、使える気がしないよ」


 後藤に隠して居る手前『ホーム』を使う事は気が引ける、レベルが上って新たなスキルを得たとかなんとか誤魔化す事も出来るだろうがそもそも後藤は商会員では無かったハズだ私達と一緒に『ホーム』が使えるかも不明だ。

後藤を涼子に任せて辺りの木々や草花を『鑑定』しているコスモに近寄って今この場所で後藤を商会員に出来るのか聞いてみた。


「拠点に戻らないと無理だよ、でも『ホーム』のスキル『帰還』は使えそうだよ」

 

 これで後藤以外が拠点まで戻れる事は出来そうだがいくら何でも後藤を見捨てるのは後味が悪いしコスモに大人の嫌な一面を見せるのも早すぎる安全マージンを取りつつだがこのまま4人で地下2階の探察を続ける事にした。


「ホブゴブリンの御一行様が到着するから先行して魔法を使うね」


 地下2階に降りてから4時間が経過しその途中一度休憩を挟んでいる、最初の対峙以外ブラックサーベルタイガーとの接触は無かった。今は私の『危機察知』を全開にしながら地図を埋めて居る、この4時間の移動中見えない壁の存在を発見した、それはおそらく北の北限で今は壁沿いに右方向仮想東に向かって進んでいた。


「撃ち漏らしは私がやっちゃうね」


 氷塊を作り出して向かってくるホブゴブリン目掛けて打ち出す、向かっているホブは6匹で私の氷塊によってレベルの低い方から4匹を仕留める。撃ち漏らした二匹目掛けて涼子が迫ると一瞬で物言わぬ存在に変える。これまでだったら先頭に出ようとしゃしゃり出ていた後藤はコスモの後ろに隠れている倒されたホブをコスモが回収してから壁に沿って移動を再開する。


「リュウ君お昼ごはんどうする」

「弁当で良いかな、1000人分くらい確保してあるよ」


 未来に向けた備蓄分を購入していたが怪しまれるような買い物は出来なかったから現在はその程度しか確保出来ていない、大人に成れば一気に購入したって不審には思われないと思うが今の年齢では不自然極まりない。


「そんなに買い込んでたんだ、じゃあ私唐揚げ弁当か牛丼をお願い」


 襲撃された場所から暫く進んで視界の開けた場所にテーブルと椅子を出して4人で弁当を食べる事にした。涼子のリクエストに答え唐揚げ弁当を4つ取り出したが後藤の箸が進んで居なかった。


「ねえコスモ君、キャンプ出来るような道具商店に売ってないの?」

「ベッドなら有るけど1台5000クレジットだよ」


 ベッドに50万か、野宿するなら有った方が良さそうだがそれでも50万はちょっと考えものだ。


「テントやコテージが有ったら良かったのにね」


 テントはともかくコテージなんか固定された建物の事じゃないのか、昔ゲームでコテージで休憩してセーブ出来る物が有ったがあれ持ち運び出来るコテージって疑問しか無かったんだよな。

だが持ち運べる家と言うならコンテナハウスを購入して『収納』しとけばどこでも寝られそうだ、ガラス窓そのままでは奴らの襲撃に耐えられないがそこさえどうにかすれば外板は鉄なんだ屋外で眠りより何倍も安全そうだ。しかしそんな事を考えられるのはダンジョンから脱出した後の話今はただ進んでいく他無い。 昼食を取り終えた後涼子と後藤がモジモジしだす、理由を察する事は出来たがまさかここで垂れ流せとは言えない、それは恥ずかしさと言う意味よりも奴らがどこから現れるか解らない為で安全の為にはトイレも必要なのだなと実感したがどうする事も出来ない。


「コスモ君の地図って縮尺とか解るのかな」

「縮尺って何?」


 地図の読み方って小学校で習うんじゃなかったか、あまりに遠い記憶で自信が無かったし現状で地図の読み方を教える余裕が無かったからそれ以上問いかける事を辞めた。


「リュウ君ストップ」

「どうした」

「有れって上り階段じゃない」


 何処だよと目を凝らすと遠くに人工物のような物が目に入ったがそれが階段かどうかは判断出来なかった。


「帰れる!!」


 涼子の言葉を耳にした後藤がそうつぶやくと突然走り出した、私はコスモを背負うと後藤を追いかけた、涼子は私とコスモを守るように私のペースに合わせて随行する。もしこの先で後藤が襲われたとしたって涼子が助けに行くことは無いのだろうなと心の中で考えて居た。


階段には無事到着する事が出来た、後藤は私達を置いて既に階段を駆け上がって居たので私達はゆっくりと用心しながら階段を登っていく、幸いたどりつた先はダンジョン1階でその場にはへたり込んでいた後藤の姿も有った。

 一息つく間も無く涼子に手を引かれ出入り口へと向かい無言で駆けて行く、涼子の膀胱が限界を突破しそうだったのだろうダンジョンを出た瞬間拠点へと駆け込んでいった。

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