第23話「左手の法則」

 コスモから聞かされた話で、こういうダンジョン内で左手を壁に沿わせて進んで行けば、絶対に迷わないと言う物があるそうだ。

 言いたい事はわかるし、確かに隅々までマップは埋められるだろうけど、非効率極まりなく途中で引き返す事が出来ないので却下だろう。

道中2匹のゴブリンが出てきて、涼子が一閃で2匹を片付けコスモに収納してもらって、素材が売れるか確かめた。


「ゴブリン2匹で3クレジットだよ」


 内訳はレベル7のゴブリンが2クレジットレベル4のゴブリンが1クレジットだった。ゴブリンのようなモブでも、レベルが設定してあったとは驚きだ、奴らに強さの差が有るようには感じられなかったのだが。


「100円と200円か無視出来ないから倒すしか無いけど、割には合わないね」「売れば売るほど商店に物が補充されるから、僕は売りたいよ」


 損にはならないのでコスモが売りたいなら売れば良い、時間がさほどかかる訳でも無いし、通路に死体が転がってないだけでも気分的に落ち着く。


 そのままグングンと進んで行くと、また開けた広場に到着し、同じような分岐が現れる。やはり中央まで進むと、魔法陣が発動して奴らが現れるのだろうか、用心することに越したことは無いとコスモに床を鑑定してもらった。


「魔法陣と隠ぺいそれに罠・・・魔法陣が発動してて・・・来るよ!!」


 中央に進むまでもなく部屋に入った瞬間魔法陣が発動しているようだ、これからは部屋に入る前に確認しないと意味が無いが解除手段がない、現状結局戦って進む以外の方法は無いのだが。


「レベル16のホブゴブリン、弱点は氷でザンゲキ?には耐性有りだって」


 斬撃の意味は理解してないようだが、鑑定結果の文字は読めるらしい、となると涼子では無く私の出番と言う事になる。涼子に下がっているよう指示し、私は魔法を放つ態勢になる。


『凍てつく刃よ切り裂け』


 力ある言葉と共に氷の刃がホブに向かっていく、氷刃がホブの皮膚を傷つけて行くのだが見た瞬間に浅いと言う事を理解した、私は氷の刃ではなく氷塊を弾丸のように飛ばせば良かったと言う事に気づき、力ある言葉の組み立てを変えようと演算しだした所をホブに襲われた。

 攻撃魔法もだいぶ慣れては来たが、やはり回復魔法の方がより使いやすくは有る。


「聡志お兄ちゃん危ない」


 コスモの言葉にはっとなって演算を中止し、アイテムボックスから鉄の盾を取り出し身構えようとした。


「本当かよ!!」


 私に直撃するはずだったホブゴブリンの拳は、寸前で切り落とされて居て、次の瞬間には返す剣によってホブゴブリンの頭部は胴体から離れて居た。そのせいで私と涼子はホブの血を浴びる事となった。


「リュウ君魔法を使うんなら前衛に居ちゃ駄目なんじゃ無いの」

「そうみたいだね、この有様じゃ反論も出来ないよありがとう涼子命を救われたみたいだ」

「次からは私が前に出るね、リュウ君は後ろから魔法で援護って事で良いかな」


 しかしホブゴブリン斬撃に耐性があるんじゃ無かったのかよ、いや私が生んだ氷の刃は弾かれたんだあながち間違いじゃないはずだ。だとすれば涼子の勇者としての力か才能か、ホブの斬撃耐性を上回る速度か力で剣を振るったと言う事になるのか。


「リュウ君どうする帰る?」

「えっなんで?」

「レベル15に上がったよ」


 そんな直ぐにかと確かめると確かにレベルが上がっていた、私と涼子が15にコスモはレベル10まで上がった。今日立てた目標は早くも達成してしまった、新たに得たスキルもあるのだが今は試す余裕がない主に私の心理的疲弊の為だが。

報酬面でもレベル16の素材は1100クレジットで売れたらしいが強さに見合う買取価格かと言えば首をかしげたくなる価格だ、一歩間違って居れば死んでたかも知れない命懸けの報酬が日本円で11万ってのは割に合わないだろう。


「戻ろう、最初の目標を達成したんだし焦ってここを討伐する必要もない。それにここを討伐しちゃったらまた後藤さんのレベルはそのままお預けになっちゃうからね。子供を産んで2か月もすれば運動したって大丈夫だからまだまだ時間的余裕はあるから」


 自分に言い聞かせるようにして戻る事に決めた、戻りの道中で雑魚小鬼とは2度遭遇したが、最初の部屋で再びトラップが発動するかと緊張したが、すんなり広場を通ってダンジョンの外に戻れた。


「この時計を信じるなら中に入って1分と経過してない事になるんだけど、涼子とコスモ君二人はどう思う」

「僕の時計も中で止まってたよ、何分時間が経ったのか計ろうとしたんだけど壊れたのかなって思ったの」


 歩数と時間経過でダンジョン内の距離を測ろうかとしたようだが、それは時計が動いていても失敗しただろう。なんせダンジョン内で戦闘が起こると、まだレベルの低いコスモは急激にレベルが上昇していく、レベルアップの恩恵で移動速度が上がるから、歩数と時間の組み合わせで距離を測る事に向いてない。せいぜい通路の位置関係を記録して、簡易的なマップを作るしかない。


「今日の探索部分だとマップを作るほどでも無かったけど、今後の事を考えるとマップは必要になるだろうね」

「方眼用紙を買ってきた方が良いですか」

「それは私が購入してくるから大丈夫、それにコスモ君が一人で中に入る事は自殺行為だから、絶対にやめるように」


 時間経過の詳しい調査は次回以降に持ち越すしかない、外に時計を置いておけばすぐに判明したのだがそこまでは気が回らなかった。今回ダンジョンを見つけた事はイレギュラーだったから準備が足りないのは当然だったが、何でも入れらる特殊空間が有るのだ時計くらい前もって購入しておくべきだったな。


「聡志お兄ちゃんも涼子お姉ちゃんも着替えないと駄目だよね」

「もちろんそうだね、着替えないと電車には乗れないかな」

「あのねレベル10になって新らしいスキルが手にい入ったんだけど、それを使えばお風呂に入れるかも知れないよ」


 風呂に入れるスキルとはどう言うものだか想像も出来なかったが、コスモの説明を何度か聞いてある程度の概要はつかめた。それは、この世界にコスモ商店を拠点として現実の店舗として、出現させるという物だと私は理解した。ただ0からすべてを構築するわけではなく、ある程度の資材と場所が必要だと言う事で。

 ならばと涼子が、緑川家が所有している小屋を使えば良いと提案してきた。


「お祖父さんが見に来た時に怒られるんじゃない?」

「それは大丈夫、中の物を含めて好きにしたら良いってお祖父ちゃんから許可は貰ったし、秘密基地って訳じゃないけど、リュウ君と一緒に部屋作りを体験するのも良いかなって思ってたのよ」


 秘密基地は男の子の夢だが、涼子には男のロマンって奴を理解しているらしい。詳しく聞くと、山小屋をリフォームして遊び場にすれば、私との共同作業でしかも二人だけの秘密の場所て感じでいいじゃん・・・的な発想に至ったようだ。


「コスモ君はスキルであの小屋でも商店に出来そう?」

「やってみる」


 コスモが拠点製作を行った所までは理解できたが、その後に起こった光景はまるで理解できなかった。山小屋と言うよりは、土蔵や蔵と言った雰囲気だった建物が、コスモのスキルによって洋風の建物に変貌していた。それはまるで中世ヨーロッパの商館で、鎌倉の山中にはまるで似合わない建物だった、ここが長崎や横浜それに神戸のような港街ならマッチした事だろう。


「ハンザ同盟の商館みたいだね」

「リュウ君ハンザ同盟って何?」

「大航海時代の商人同士の都市間同盟みたいな感じ、当然商人だから貿易や小売りで儲けを出すんだけど、商館ではVIPをもてなしたり宿泊施設なんかも有ったらしいよ。ゲーム知識の受け売りなんで、実際の商館がどんな物なのかは知らないけど」


 私がゲームをやったのはこの時代から15年程未来なので、今現在だと恐ろしく貧弱なグラフィックのゲームでしかない。しかし既に初代はすでに発売されてる。


「パソコンのゲームなの?」

「そうだよ」


 コスモ君はゲームに詳しいらしい、だからこんなバカげたRPGに似た境遇を受け入れて居るのだろう。涼子はどう感じて居るのかは分からないが、少なくとも私が奴らの侵攻を知らなければ、受け入れる事なんて無かっただろう。


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