第22話「鎌倉ダンジョン」
鎌倉の駅に降りたのはいつ以来だったろうか、記憶にある鎌倉はもう少し開けていたように思うし、何よりも改札が自動じゃ無い事に違和感を抱く。
街並みが古ぼけた印象を抱くのは建設途中の建物が多いせいなのだろうか、それとも道路に並ぶ車達が、バブル期に流行った車たちだったせいなのかは分からなかった。
「リュウ君バスは11時に出発だって」
霊園行きのバスまでもう時間がない、早めの昼食だったが意外と悪くないタイミングだったのかもしれない。そろそろお盆の時期だと言うのに昼間のバスは30分に一本程度しか運航されていなかった。
「コスモ君も一緒に来るって事で良いんだね」
「はい僕も行きたいです」
停留所に並んでいるとバスが入ってきた、駅が始発だったようで乗客は疎らだ。
霊園行のバスは都心から外れた場所を運行しているようで、途中乗り込んでくるのは霊園に向かう人か、その途中にあるスポーツセンターでジャージ姿の学生の姿もチラホラ見えた。
「次は鎌倉霊園前、鎌倉霊園前お降りのお客様はお忘れ物の無いよう願います」
霊園前で降りたのは私たちのほかは殆ど老人たちだった、少し浮いている事が分かったが気にしないで降りて涼子の父親の墓前まで移動する。
花と線香の用意が無い事に、この時初めて気が付いた。
「お線香と蝋燭くらい買ってくれば良かったね」
「あっ」
「どうしたのコスモ君」
「今商店にお花とお線香が入荷されましたって」
「いくらなの?」
「お花もお線香も1クレジットだって」
1万円をチャージして花と線香を買ってもらった、残りはどうしようとコスモ君が聞いてきたが次の入荷で何か頼むよとそのままにしておいた。
墓石の周りを少し掃除してから花を供えて線香に火をつけた。当然ライターなんて持ってなかったから、私の初めて攻撃魔法は線香に火を着ける為に使われたということになった。
墓前に花を手向け線香の煙が昇っていく、両手を合わせて目を閉じて涼子の父親にあなたの娘の無謀さを反省させないと早死にするぞ、と祈ってると早々に祈りを終えた涼子が「じゃあ山に登ろうか」言うので線香が消える間も無く移動を再開することになった。
「ちゃんと舗装した道がついてるんだね」
「途中からは山道になるよ、舗装がしてあるのは市の土地なんだって」
結構急な上り坂を上がっていくのだか、舗装してある区間はどうにかコスモ君も着いて来た。しかし未舗装の道を進むのは大変そうだったから、私が背負って歩いていくことにした。
最初から負ぶって来たほうが楽だったな、何せ私と涼子のレベルは13小学三年生のコスモに足並みを合わせて歩く方が疲れる、地表を歩くペースと同じようにグングンと進んでいくと、未舗装道も狭くなり獣道同然の山道を進んで行く。
「思ったよりも開けた場所なんだね」
山道を進んだ先には見通しのよい開けた場所にたどり着いた、中央部分に石垣が有あるがその上には何も無い。涼子の言っていた山城跡だと思うけど、城という言葉のイメージに反して石垣も小さな物で、少し豪勢な民家くらい大きさでしか無かった、恐らく歴史的価値は無いだろう。
「うん、あっちに小屋があるはずだから行こう」
涼子の指さす方向に進んでいくと確かに建物がある、小屋と言うよりは倉庫と言った方がしっくりくる、出来合いの物置小屋とは違い、ちゃんと木造で組まれており屋根には瓦も乗せてあった。
意外な事に電線まで通してあるから中で電気が使えるようだ。
「鍵を貰ってあるから中に入れるよ、どうする」
昨日の今日でよく鍵なんて手に入ったな、と驚いたが涼子の祖父が昨日の夜届けてくれた物らしい。今日はどうしても外せない用があったらしく、そうでなければ一緒に来たかったようだ。
「入ってみようか」
「うん」
小屋の中には山城で使っていた物なのだろうか、食器類や古文で書かれた和紙が積まれている、二階もあるようだが二階は覗かなかった。
一階にあったテーブルと椅子が並んである場所を、軽く掃除してから腰を落ち着けた。
「ここって何に使っていたんだろうね」
「昔はこの山の中に集落が有ってここは集会所代わりに使ってたんだって」
「えじゃあこの食器類って最近の物なの?」
「最近の物じゃないけど江戸時代の骨董品じゃないよ、古い文字で書かれた和紙は江戸時代の物も交じっているけど、価値が無い物ばかりなんだって」
色眼鏡で見ていたらしく、それなりに古い物だと思わた食器は、昭和の初めか大正の頃使われて居た物だったようだ。お宝なんてものそんな簡単に見つかる訳が無いか。
よく考えれば、山城の跡地だけのために途中までとは言え舗装した道路があるはずないか、集落の跡地だったから道が有って電気が通じている。今尚電気が来ているのは都心の近く、周囲にゴルフ場や霊園と言った物が存在しているからだろう、そうじゃなきゃこんな小屋のためにインフラの維持なんてしてられない。
「水道は無いんだ」
「地下水を使っていたみたいだけど飲んじゃダメなんだって」
しばらく休憩したのち、周囲を探検してみたいとコスモが言い出したので、私たちも賛成してまずは目立つ山城跡の石垣の上に上がることにした。
「美奈子さんの家より小さいかも」
「ほんとね、城って名乗るのはおこがましいかも」
石垣の上に立った感想は民家の敷地かと言うほどに狭い、うちの敷地と変わらないくらいかと思う、一応江戸時代の軍事施設跡だろうに。と思って居たらコスモ君の鑑定結果だと応仁の乱の時に作られた山城だったようで、すでに江戸時代にはただの石垣しか残ってなかったようだ。
「応任の乱っていつ頃の戦いなの?」
「詳しくは知らないけど鎌倉時代の終わり頃か室町時代の初めの頃だったはす」「ふぅーーん」
俺もふぅーんと言いたくなるほどには興味がない、コスモ一人が感動していたが歴史に興味を持つ事は良い事だとは思う。景色を堪能したところで本命の魔法を使っていこうと言う所で、今度は涼子がとんでもない物を発見した。
「鎌倉にもダンジョンが有ったのね」
鎌倉霊園の名前に聞き覚えがあった筈だここのは近所の小学生が発見したと言う鎌倉ダンジョンが有ったのか、国内最初のダンジョンと記録されているが実際には他にもダンジョンを発見している。
なぜこのダンジョンだけが早期に発見されることになったのか、それはダンジョンに設定された時間制限が関係していた。しかし現在初級ダンジョンを私たちがクリアしたことで、国内にある初級ダンジョンは時間制限が無効化されている。
「推奨レベルは15の鎌倉下級ダンジョンなんだって」
「レベル15なら行けるのか・・・な?」
私たちが戦った相手スケルトンナイト以外だったらまあ軽くひねる事は出来るだろう、今ならあのスケルトンナイトとだって苦戦はしても負ける事は無いだろうと思って居る。
「虎子を得に行こう、まずは私が一人で入って出てこられるか確かめるから5分経っても私が帰って来なかったらどうするかは涼子の判断に任せる。ただし5分は絶対に動かない事」
「判ったわ」
涼子に時計を預けようとするとコスモが持っていると言うことなので時計を持ったまま中に入る事にする、まずは準備だと不思議空間から荷物を出して装備していく。
「聡志お兄ちゃんもアイテムボックスが使えるんだね」
「アイテムボックス?」
「何でも物が入れられて中に入れた物の時間が止まる・・・うーんと何て説明したら良いのかな?」
「4次元ポケットみたいな物?」
「そうあの猫衛門のポケット」
時間が止まるなんて話初耳なのだが、そう言えば中に入れた物の時間経過なんて気にしたことが無かったな、帰ったらマグカップにお湯を入れて収納してみるか。
「私のは収納って言う名のスキルなんだけどコスモ君のはアイテムボックスって言うスキルなのかな」
「名前なんてあるの?」
心に浮かんで来た名前だから、てっきりスキルの名前なんだとばかり思って居たのだが、実際には違うのだろうか。スキルの考察をしながら装備を整えて行き、鋼の剣は先行してダンジョンに入る私が使うことになって銅の剣を涼子に渡す。
「じゃあ行ってくるよ」
「うん気を付けて。私リュウ君の事信じてるからね」
聞いてると長くなりそうなので一人ダンジョンの中へと入って行った。中は神無山と同じく明るい、しばらくは直線の通路が続いて居て後方からの不意打ちを警戒する必要は無さそうだ。
これならコスモを連れて中に入れても、いざとなったら逃がす事もできる。時計を持ち込んたのだが、止まっていて時間経過は確認できない、仕方がないので、あたりの床や壁天井を叩いて確認して直ぐに引き返し外に出た。
「忘れ物?」
「うん?中に入って帰って来たんだけど何かおかしかった?」
「僕時計見てたけど1秒も掛かってないよ、聡志お兄ちゃん入って直ぐに外に出たの?」
いくら何でも1秒って事は無い、通路の確認をしてたし後方からの不意打ちはどうか等と考察もしていたから、1分や2分はダンジョンの中にいたのだが、ここも神無山ダンジョンと同じで時間の経過が遅いのか。
「安全だとは言い切れないけど不意打ちを食らう事は無いと思う、コスモ君もしレベル上げがしたいんなら一緒に中に入るつもりはあるかな」
「うん僕入りたい、入ってレベル上げたい」
涼子と視線を合わせて頷き合ってからダンジョンの中へと入る、ダンジョンの中で即座に武器の交換を行い私は銅の剣を涼子は鋼鉄の剣を、それぞれ装備してコスモはお守り代わりに短いナイフを持たせた。
200m程直進すると小鬼が現れた、現れた瞬間涼子が瞬殺で片づけるその光景を見たコスモ君が、えずいて居たが戦いとはそう言う物だ慣れるしかない。
わずかばかり足並みを落としたが、やはり一直線なのでどんどん進んでいく、5体目の小鬼を片付けた時にコスモ君のレベルが2に上がった。
「僕戦ってないけど良いんですか、こういうの寄生って言ってマナーが悪いんだよね?」
「マナーよりも命大事にって事かな、私と涼子はだいぶ余裕があるから気にしないで。それより、私たちとはぐれない事と、危ないと思ったら引き返す事を考えて着いて来るように」
レベルが2に上がっても、新たなスキルや商店に荷物が届くことは無かったようだ。嘘をつかれていたらどうしようも無いが、ここでコスモが嘘をつく理由がないな。開けた場所に出るまでに30分は移動したろうか、このダンジョンは神無山と違って雑魚との遭遇率が悪い。今回コスモが居るのでペースは遅いが、それでも小3が一緒に歩いている事を考えると、かなり早く移動できていたと思う。
「広場なの?」
「何か出たら魔法を使ってみるよ、その為に鎌倉まで来た訳だし」
「うん」
開けた場所の中央あたりまで進んだ時に足元に何か違和感を感じた、なんだと鑑定を使ってみると『魔法陣』『隠ぺい』『トラップ』と言うワードを感じ「足元に罠だ下がって」と叫んでいた。
涼子がコスモを抱えて大きく後ろに飛んだのだが遅かった、おそらく魔法陣を踏んだ所で発動していたのだろう、一瞬前までには何もいなかった広場の中央に少し大型のゴブリンが三体召喚されていた。
「ホブゴブリン、レベルは11腕力はゴブリンの1.5倍、ヒットポイントは3倍だって」
コスモが鑑定を使ってくれたのだろう、小鬼の1.5倍だとしたって力は大したことが無い、問題はHPが3倍もある点なのだが、そもそもヒットポイントなんて物で生命力が数値化できる物なのだろうか。物は試しにと攻撃用の魔法を使ってみる、ダンジョンの中なら外に影響は無いだろし。
『火よ燃え盛れ』
私の力ある言葉に反応して物理法則が捻じ曲げられ炎がホブを包み込む、どの程度の時間燃えていたのだろうか、火が静まった時に一頭は倒れ残り二頭も無死の息だったが、私と涼子の二人が走って生き残ったホブめがけて剣を振り下ろす様に突いた。
「レベルが上がったわ、リュウ君は?」
「私も上がったよレベル14、でも新たに覚えたスキルは無いね」
「僕レベル6になって 『レート』って言うスキルを覚えたよ。あと商店に在庫も入荷したので売り買いできるようになったよ」
「売り買いって何を買い取るつもりなんだい?」
単純に商売が可能になったと言う言葉だとは思うが、一応確認しておこうと聞いてみた。
「素材とか武器とか防具とか?クレジットで買取ができるみたいだよ」
私とコスモが会話している間に、動かなくなったもう一体のホブにも涼子がとどめを刺していたが、どうも完全に死んでいたようで剣を突き立ててもピクリとも動かなかった。
「試しにこのホブを買い取ってもらえるかな」
「うん試してみる」
死んだホブをいったんアイテムボックスに入れてから、買い取り額を査定するようだ。査定はすぐに終わって三匹で600クレジットだった。
「普通のゴブも買い取り出来たのかな」
ここまでの道中でも4、5体のゴブリンは討伐している、あれがいくらかにでもなったら儲けものだ。
「進んでみたらわかるでしょ、今日の目標はレベルを15にするか、何かのアイテムを得るまでって事にして先に進んでみようか。ただここから先は分かれ道になってるし、と言う事は後ろからの不意打ちにも注意して行かなければならないって事にもなるから」
ここで引き返して後藤の出産後、再チャレンジでも良かったのだが、強くなれるならそれに越したことは無い、魔法もまだ初めて本格的に試し始めた所で他の魔法も試してみたい。
「私はリュウ君に従うけどコスモ君はどうする、怖いなら入り口まで送っていくけど」
「僕も進みたいです」
3人一致で進む事になった、通路は右と左両方に入り口があるコスモが左に行きたいと言うので従う事に。
私は出口へ向かう入り口の壁に塗装用のスプレーで、1番と番号を着けてから左の入り口へと入っていくことにした。
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