第5話「知らない差出人」

 自室でまんじりともせずラッピングされた箱を4つ並べ見つめて居る、1つは徹経由で送られて来た千春のチョコレートもう一つは沙耶と由希子の共同名義のチョコレートこれは夕方沙耶が届けてくれた。

 問題は残り2つの箱だ1つは下駄箱に入っていた物で間違い無く私宛の物だ、もう一つはいつの間にか鞄に忍んでいた箱で帰宅して鞄を開けたら4つ目が有ったので驚いて居る。

 下駄箱の中に入って居たチョコは小川真由美からの物だった、去年も貰って居たそうだが全く記憶に残って居ないし中1の時に貰った覚えも無いまして下駄箱に入ってたなんてイベント忘れる筈が無いのだが・・・この世界は私の願望でも無ければ過去でも無く異なる並行世界では無いのかと言う疑問も生まれてきた。

 下駄箱の件はまだ良い相手がハッキリしてるし貰ってもおかしく無いシチュエーションだ、だが鞄の中に人知れず入れられて居た箱は得体がが知れなくて手を付ける気にすらならない。


 そうは言ってもこのままゴミ箱へ捨てるのは忍びないのでラッピングを解く、1番上にメッセージカードが入って居て箱の中身は有名な御菓子会社の市販のチョコレートがそのまま入って居ただけだった。

 メッセージカードの中身を確認するが差出人の名前は無い、メッセージの内容は『初級ダンジョン踏破を期待して居ります』ただそれだけだった。


 謎の差出人以外のチョコレートを徹と一緒に食べて残りは全部進呈する、食後に紀子特製のチョコレートケーキが出て来たが記憶にあった生焼けの物では無くちゃんと火加減が出来て居た。頭を傾げて居ると母が耳元で涼子が手伝いに来てくれたのよと囁いた、どうやら私が帰宅する前に涼子が様子を見に来て御菓子作りを手伝ってくれたようだ明日礼を言っておかなければ成らないな。

 

 部屋に戻ってもう一度謎カードとチョコレートを確認するとおかしな点に気付いた、このチョコレート製造年月日が2025年になっている。私の知る2025年には既にチョコレートを製造出来るような企業は残って無かったし原料を輸入出来るような事態では無くほぼ自給自足だった。


 カードを眺めて居ても答えが出ない、文字は手書きでは無くプリンターを使った物で紙はそれなりに上等な物のようだが何処でも手に入れる事は出来そうな物で送り主の手がかりには成りそうに無い。

 そもそもダンジョンを踏破するなんてあの世界を知らなければ書いてくる事は無いだろう。ただ初級ダンジョンと言う物が判らない、私の拙いダンジョン知識ではダンジョンに区別なんて無かった。公表してないだけで実際には有ったのかも知れないが得体が知れな過ぎて眠れぬ夜を過ごした。


 1週間何事も無く過ごし土曜の午後から委員会活動が始まる、母が作ってくれた弁当を食べたのって何時以来だろうか、大学時代は学食だったし市役所は弁当給食を食べて居たとなると高校以来だから感覚的には30数年ぶりだったわけだ。

 下駄箱に入っていたチョコの礼をしようと数回小川真由美が所属して居る3組に出かけて居たが今だまともに話せて居ない、何故か俺の姿を見ると真由美はそそくさと移動してしまうのだ。

 その御陰と言ってはなんだがガッツにチョコを渡した幸田香代と言う少女を観察する事が出来た、ガッツが言うように中学生らしくないうらやまけしからん胸部をお持ちだがどうも彼女の顔に見覚えは無い。

 あんな子が居たら覚えて居るだろうにと記憶を探るのだがどうにもポンコツで思い出せないで居る。


 13時になって委員会活動が始まった、壇上に立っている高野と言う先輩は送る会では司会進行を勤めて居た。大勢の前に立って進行が出来るだけでも大した物だと思う、彼が私と佐伯に仕事を押しつけて来たと言う見方も出来るし適材適所に人員を振り分けたと見る事も出来る。私が事務仕事に長けて居たのは偶々長い仕事の経験が有るからで、当時の私なら時間をただ浪費するだけだったろう。


「緒方聡志だっけお前すげーじゃん、明星さんに言われて反省してたんだけどこんなに詳しく調べてくれるなんて思わなかった。聡志が作ってくれたプログラムに学年とクラスそれに歌う楽曲を入れたら完成だな、去年の順番は抽選だったみたいけど今年も同じで良いよな」


 プログラムと言ってもコンピューターのプログラムでは無く演目と言う意味でのプログラムだ、この1週間の内と言うより昨日1時間程で下書きを表計算ソフトを作って完成させて居た、どうせやり直しになるプログラムだったが雛型が出来て居れば直しは簡単だ。清書する必要がないのも有りがたい。


「これって楽曲が被っても問題なかったっけ?」


 2年の女子が質問と言うか疑義を投げかけている、あの2年の女子顔はなんとなく覚えて居るのだが名前までは判らない。


「去年は駄目だったような、5曲選曲して被りが出たら実行委員が抽選してた筈」


 と言う事は最低でも今週には演奏の曲目は決まらないと言う事になる、合唱と言えどいくら何でも練習不足感が否めない。


「出演順は今日の内に決めて良いですか」

「おう聡志君グイグイ来るね、どうやって決める気だ」

「クジで良いんじゃないですか、ここに居るのは各クラスの代表なんですから代表がクジを引いたって事で納得させられるでしょ」


 順番なんて何処でも同じだと思うのは俺だけでは無かったようでクジを作って順番にクジを引いていった、1年1組は5番目の合唱順で合唱に参加するクラスは全部で11ほぼ中間で1組の次に2年3組が合唱を終えたタイミングでトイレ休憩が入る予定だ。


「演劇部の演目は風と供に去りぬをやるってさ、午後の部の初めの順で1時間欲しいってよ」


 各クラスの出演順を書き留めて居たら高野が演劇部の演目と演技順の希望を教えてくれた、高野自ら演劇部に聞きに行ってくれたのかそれとも演劇部の誰かが耳打ちしたのかは知らないがそれなりに責任感もあるようだ。


「平林さん所もそろそろ演目くらいは教えて貰えないか」


 平林睦月、小学校から顔なじみの先輩で件の2年5組の実行委員だ、彼女こそ1番の貧乏クジを引かされて居た。

 何せ5組の演劇の台本完成する事は無く未だに配役すら決まって居ない、2年5組が決定的に破綻するのは送る会の前々日脚本担当者は学校に来なく成り担任は学年主任にしこたま怒られと風の噂で聞いたが彼が学校を辞めたという記憶は無い。

 睦月も実行委員として矢面に立たされて居た、あの当時私は何も出来ないで居たが今なら何かしら出来る事があるかも知れない。


「まだタイトルが決まらなくて、でも話の本筋は出来て居て本読みも始めてるから、もう少し待って貰えませんか」


 実際には粗筋すらもまともに完成して無いと今暴露したらどう成るのだろうか、そんな事が一瞬脳裏によぎりながら当日のステージ構成やラインティングの話、当日巨大な模造紙にプログラム書く係などが決められていき私と弥生の2人は引き続きプログラムの原本を書く係を仰せつかった。

 委員会が終了するとあからさまに暗い顔をして教室から出て行く睦月に声を掛ける、向こうも私の事は覚えてくれて居たようで会話は成立しそうだ。


「聡志君は変わらないね、そのままで居てくれたら良いかな」

「このままの背丈じゃ流石に嫌だよ、睦月ちゃんより背が低いかも知れないし」


 私と睦月の背丈は同じくらいだろう、思春期の初め頃は女子が先に成長する一学年上の睦月はそろそろ上に伸びる成長は終わり女らしい体付きに変わりだしている所だ、このまま順調に成長していけば良い女になる事だろう。


「私は男子でも聡志君くらいの背丈で良いけどな、だって大きいと怖いでしょ」


 弥生の姿が見えない、気を利かせて先に帰ってくれたようだ。


「睦月ちゃんのクラスが演劇をするって聞いたけど何するの?」

「私にも分かんない、脚本を書いているのは西村さんなんだけど私西村さんとは挨拶くらいしかしないし。学区も違うから今年初めて一緒のクラスになったの。順調に書けてるって言う話なんだけどとてもそんな感じには思えないんだよ、本当なら今頃セットが出来上がって通し稽古を始めてる予定だったんだもの」


 睦月の2年5組は1学期の終わり頃から既に演劇を行う事でクラスの意思が統一出来て居て、責任者は池沢史奈と言う女性徒だった。

 当初の予定では有り物のシナリオで演劇をする予定だったのがクジ運の悪さから文化祭のステージには落選からの送る会でのステージ権を獲得した事によって作家志望の西村早苗がオリジナル脚本を買って出て事態が収拾着かないところまで来ている。


「責任者と脚本担当って別人だったんだ」

「史奈ちゃんの事聡志君は知らなかったっけ?」


 池沢史奈、池沢・・・ああ高校大学の先輩だ、新入生歓迎コンパで声を掛けられた事が有ったかもアレは池沢さんじゃ無くて田中さんだったか少し記憶が怪しい。


「聡志君高円寺君と仲が良かったでしょ、だから史奈ちゃんとも知り合いだと思ってた」


 高円寺ね、覚えてる覚えてるよ彼の事は、また懐かしい名前を聞いたもんだ。高円寺秀幸はいわゆるガキ大将で私の実家の有る集落の子供を率いては悪さばかりをやって居た、悪さと言っても爆竹を蛙の・・・今はそんな事やっちゃ駄目なのか。青大将の尻尾をもって振り回すとか女子のスカートをめくるとかそんなたわいの無い悪戯をやって居たが私は早い時期にそのグループから抜けて居る。睦月はその情報を知らないまま私に尋ねて来たようだ。


「高円寺君と池沢先輩って仲が良いんですか、そう言えば高円寺君学校で見かけませんね」

「高円寺君は千葉市内の学校に通って居からうちの学校には来てないよ、そんな事も知らないって事は私の思い込みだったのかな」

「小さい頃は遊んで貰ってましたよ、でも2年か3年の時には同級生と遊ぶようになったので高円寺君とは徐々に遊ばなくなった感じだよ。それで高円寺君と池沢先輩は仲が良かったの?」

「仲が良かったのとはちょっと違うかな、史奈ちゃん多分高円寺君の事嫌いだし。一方的に高円寺君が史奈ちゃんを好きだったんだと思う。史奈ちゃんのスカートしょっちゅうめくってたし、カエルやナメクジを投げたりしてたもの」


 ああそう言う感じね、そう言うのは低学年の内に卒業しとかないと本気で嫌われる奴だ、俺は元から高円寺とは剃りが合わなかったが池沢も私と同じく高円寺を嫌って居るらしい、その点では仲良くなれそうだ。


「池沢先輩ってそう言うセンターに立って目立ちたいタイプの人なんですか?」

「史奈ちゃんはそのタイプでは無いかな、どっちかと言えば西村さんや島田先生がそのタイプかも」


 話は出来たが睦月にアドバイスする事は出来なかった、事態を収拾出来る可能性が1番高い担任の島田が当てにならないなら最悪の事態まで突き進む他ない。私が取り得る手段は2年の学年主任に話を持っていく事くらいだが最善には程遠いな。


 睦月は部活に顔を出してから帰ると言うことだったので1人帰ろうと昇降口に差し掛かると見慣れた女子生徒が昇降口で立っていた、私の顔を確認すると笑顔で一緒に帰ろうと言ってきたので二つ返事で了承すると下履きに履き替えると学校を後にした。


「先に帰ってれば良かったのに」


 私を待って居たのは涼子だったが涼子は弁当を持って来て居たのだろうか、クラスが違うので知らないのだが。


「私も委員会活動で残って居たからそんなに待ってないよ。それに明日一緒に明星先輩の所に行くでしょ待ち合わせの時間を決めとかないとって思ったの」


 美奈子の所で剣道を習う事にした私と涼子は明日初日で一緒に道場を訪ねる事に成っている、段取りをしたのは母なので私は何時に向こうに行けば良いか聞いた覚えが無かった、私が知らないのだから涼子も知らないのは当然でじゃあ家に帰って聞けば良いかと言う事になり2人で下校する事になった。


 道すがら睦月のクラスで起こって居る事をそれとなく話してみる事にする、以外と私より女子の方が良い解決案を持って居るかも知れない、女子中高生特有のネットワークが有ったりする事に期待して。


「平林先輩ってそうなんだ、じゃあ史奈ちゃん板挟みになってるかも知れないね」

「涼子って池沢先輩と仲良かったっけ?」

「えっなんでリュウ君も史奈ちゃんと仲良いよね?一緒にお雛様に行ってたじゃない」


 雛祭り・・・確かに子供の頃誰かの行ってた記憶がある、涼子が一緒に居たのは覚えて居るが何故私が女の子のお祭りである雛祭りに参加してたのかなんて覚えて居ない。


「あの雛祭りって池沢先輩の家でやってたのか、覚えて無かったよ」

「紀子ちゃんが生まれてからはリュウ君の家でもお雛様やってたもんねでも史奈ちゃんの事池沢先輩なんて呼んだら史奈ちゃん悲しむと思うよ」

「そうなの?でも涼子も睦月ちゃんの事平林先輩って読んでるじゃないか、涼子も睦月ちゃんと仲良かったろ」

「私平林先輩の事そんなに知らないよ、平林先輩と仲が良いのってリュウ君とか沙耶ちゃんじゃない沙耶ちゃんのお姉さんとも仲が良いみたいだし」


 なるほど由希子派閥に属して居る睦月や私とは違い、涼子は最初俺に着いて来ていて高円寺秀幸派閥だったから池沢史奈と仲が良いのだろう。涼子も高円寺にかなり虐められて居たから私が高円寺と縁遠くなった事も有る。

 その間涼子は同じいじめられっ子仲間の池沢と友好を深めて居たようだ、甲斐も高円寺のグループに所属していたが私が距離を起き出すとやはり距離を取っていたから私と甲斐は近所の男子グループと縁が薄いのだろう。


 2年5組の話をして居る内に実家に到着したので私に着いて涼子も家に上がり込む、母が家に居て紀子とリビングでテレビを見ていた。私が明日の予定を切り出すと午前10時に道場に集合と言う事で初日は母が車で送ってくれる事になった。

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