第30話

「おはよ。」

「ああ。」


なんだかんだと夜が遅かったせいで、どうにもいつも通りの時間に起き上がたというのに、眠気が強い。

朝の挨拶も、何処かあくびが混じってしまう。


「もう少し寝ててもいいぞ。朝食は先だからな。」

「こっちにいる間は、この子たちのお世話をしたいから。」

「昼からでも、問題ない。」

「でも、この時間が、一番いい気がするんだよね。なんか、こう、元気。」


よくわからないけど、そんな感じがする。

それに祖父が毎朝こうしているという事は、それが一番いい時間帯でもあるのだろうと、そんな考えもある。


「辛かったら、朝食の後に少し寝るといい。」

「うん。」

「それと、朝に水をやるのがいい。理由もある。」

「へー。」


祖父がこういうという事は、興味があるなら調べてみろと、そういう事なのだろう。

なんにせよそれは後にして、今は鉢植えに向き合う。

そうしてみれば、昨日の自分は何をしていたのか、思わずそんなことを思ってしまうほどに、鉢の中が荒れている。

きちんと、適当に見えるかもしれないが、自分が良いと、そう思うように置いていた石も転がっているし、植えていたよく知らない草や、苔もなんだか、散り散りで適当だ。

昨日の自分をほめるとしたら、枝葉に鋏を入れなかったことくらいだろう。

そう思えるほどに、ひどい有様だ。


「うーん。」

「今日は、やめておくか。」

「悪いって、そう分かるから、直すよ。」

「そうか。」


祖父の端的な言葉を聞いた後は、ただ手を入れる。

これまでのように良くしようと、そんな工夫ではなく、ただ戻す、そんな作業に、なんだか悲しさを覚える。

悪いことをしたなと、そう思ってしまう。

気が乗らない、それだけならまだしも、気もそぞろに、変にするくらいなら、そんなことを考えてしまう。

そうして、何となく、また気分が沈んでくると、頭に手を置かれる。

祖母だろうか、呼ばれても気が付かなかったのか、そう思うと、祖父が隣に立って、こちらに手を伸ばしていた。


「悲しいな。」

「うん。」

「だが、やり直しがきく。」

「でも、やらないほうが、良かったかなって。」

「そうだな。」


祖父の目から見ても、昨日の僕はあまりに気もそぞろに手を入れていたのだろう。

ただ、その声には咎める様な響きはない。


「だが、やり直せる。」

「時間、使っちゃうけど。」

「それの何が悪い。これまでと変わらないさ。良いと思ってやって、良くなかった、だから別に整える。

 これまでと同じだよ。拾った石を置いて、気に入らなかったから取り替えた。何も変わらない。」

「そう、なのかな。」

「よく見るといい。枯れたか。」

「流石に、一日くらいじゃ。」

「何か、取り返しのつかないものがあるか。」

「時間、とか。」


そう言うと、祖父が珍しくくつくつと笑う。


「なんだ、時間を決めてやっていたのか。」


言われて少し考える。

確かに、ここにいる時間は決まっているけど、別にそれくらいだ。

昼から石拾いとか、草や苔を探したり、そっちに時間を使わなければ、それで済む。

何だったら、縁側で祖父と並んでお茶を飲む、その代わりに手を入れても別にいいのだし。

そういった時間も大事だけれど、別にやりくりできないようなものでもない。


「違う、かな。」

「なら、ゆっくりやればいい。」

「うん。」


頷けば、祖父の手が頭からどけられる。

それと一緒に、先ほどまでの、何処か落ち込んでいた気分もどこかに行った。

そして、改めて鉢植えに向き合いながら、後で散々なことになっているだろう、庭の一角も覗こうかと、そんなことを考ええる。

そうして、少し手直しをしていると、一番最初に育て始めた鉢植えが気になる。

成長が止まってしまっているそれ、調べれば、鉢の中が根で埋まるとそうなるらしい。

これまでは気にならなかったが、今見てみると、どうにも土の上にまで根が狭苦しそうに盛り上がっている

なんだか、これはこれで可哀そうだと、ふとそんなことを思う。


「じーさん。」

「どうかしたか。」

「これ、大きい鉢に移したら、どうなる。」


何を指しているのか、振り向かなくても分かっているのだろう、別の方向。

作業しやすいように少し背の高い棚に置かれた、小ぶりな鉢が並んでいる一角ではなく、その脇に置かれた、僕よりも背の高い鉢植えを指さす。


「ああなるな。ただ、根が駄目になってからでは、遅いが。」

「そっか。」


それは、少し大きすぎるように思うけど。


「窮屈そうか。」

「うん、何となくね。」

「いきなりあれは、大変だろうからな、二回りほど大きいのにまずは変えてみるか。」

「良いの。」

「今のそれを、全部崩さねばならんがな。」

「そっか。でも、良いなら、やってみたいかな。」

「では、昼からやるか。」


祖父がそう言えば、祖母が縁側からこちらを呼ぶ声が聞こえる。


「うん、昼からなんだ。」

「朝は寒いからな。先ほどの話にも関係あるが。」


僕には元気に見えるけれど、そうとは限らない。どうやらそんな話があるらしい。


「そっか。うん、わかった。」

「それに、少し顔が疲れている。寝て、起きて。それからにしなさい。」

「いつもより、遅かったからかな。」

「そうだろうな。ゆっくりやればいい。2時間ほどの作業だしな。」

「うん。」


そうして、いつものように手を洗って、食事をとる。

ただ、昨夜遅くに、少し食べたからか、今朝もいつもより食べることは出来なかった。

今日から、僕は夜に食べるのやめようか、そんなことを考えてし

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