第26話

「うん、じゃあ、それも手紙に書いたらいいんじゃないかな。」


僕はそういって靴ひもを結んで立ち上がる。


「えっと。」

「さっきも言った気がするけど、僕はそういった誘いがあったよって、そう伝えるだけだから。」

「そう、かもしれないけど。」

「だって、僕は祖父母じゃないから、二人が本当は何を考えて、なんてことは分からないよ。聞いてないし。」

「その、本当に。」

「そんな噓を言っても、仕方ないしね。」


そのままギターを置いた切り株まで行き、そこに座る。

そこで初めて振り向いたけれど、彼女は総菜の乗っかったお皿をシートに置いて、自分のスカートを握り締めるようにして座っている。

シートに置いたランタンが、そんな彼女の姿を照らしている。


「難しく考えなくてもいいと思うよ。」

「難しくって。」

「うん、嫌なら嫌、良いなら良い。それで。」

「でも、ここまでしてもらって、それで断るのも。」

「うーん、だってこっちが勝手にやったことでしょ。それで感謝しろなんて、祖父母は言わないよ。」

「それは、良くないんじゃ。」

「なんで。祖父母は良いと思ってやってるんだから。」


そんな話をしながら、またギターを弾きはじめる。

今思いついた曲は、昨日ともまた違う曲で。

そうしながらも言葉を続ける。


「駄目なことは駄目って、ちゃんと言うから。君がただここを使うのは駄目、だから連絡先を聞いたでしょ。」

「その、君は信頼してるんだね。」

「うん。そうできるだけの事をしてくれたから。」


それこそ彼女と同じように、孫とはいえ突然現れた僕に、突然訪れる僕によくしてくれるのだから。

それを信頼しないことは、僕だって流石にしない。


「そう、何だろうね。良い人たちなんだろうって、それは分かるよ。」

「そっか、うん、良かったよ。君から見たら、ほら得体のしれない誰かだしね。」

「それは、そうだったけど。」

「話が戻ってるけど、それでいいなら付き合うよ。」


食事の前に話したことに戻っている気がする。


「君が警戒しているなら、それは自然な事だと思うし、それならそれでいいよ。

 一度会いたいって言うだけなら、案内するし、それこそ反対側、そっちの道をまっすぐ進んでくれれば来れるしさ。」

「あの、最初は、それこそ君に会ったばっかりの時は少し怖かったけど、今はそんなことはないよ。」

「それはそれで、随分と人を信じるのが早すぎるかなって、そう思うけど。」

「流石に、私だって選ぶよ。でも、君は、何だろう。話していて楽だし。私なんかを騙すために、ここまでするって言うのも、ね。」


そう言われてみれば確かにそうだろう。

良く知らない相手を騙す、まぁ何かよからぬことをするにしても、こんなどことも知れぬ辺鄙な田舎、あまりに手間をかけすぎているだろう。


「ま、それならそれでいいけど。」

「それに、何だろうね、君が人を騙そうとするって、あんまり思えなくて。」

「嘘くらいはつくけど。」

「そうなんだろうけど、そうい人なら、わざわざ言わないんじゃないかな。」

「そうかも。」


そうして僕は僕で、のんびりと手を動かし続ける。

その間も彼女は、特に食事を進めるだけでもなく、ただこちらを見ている。

信じられないというのなら、話は早いけど、そうでないならさて、どうしたものだろうか。

僕からかけられる言葉なんてもう残っていやしないし、後は彼女でどうにかしてもらうしかない。

それこそ、思いのたけを書いてもらって、それを届ける、本当にできるのはそれくらいだろう。


「まぁ、色々考えてるのは分かるけどさ。とりあえずそのあたりの事全部書いてくれればいいよ。」

「でも。よくしてくれた人に、失礼じゃないかな。」

「そんなことはないと思うけど。」

「そうかな。」

「一番困るのは、そうだね、明日から急にキミが来無くなる事かも。」


一応、そういうことが無いようにと、何となく遠慮をして、良くない方向に考えてそれで急に明日彼女がここに来なくなったら、まぁ、僕がそれを祖父に伝えたら、きっと祖父は彼女を探すだろう。

万が一がないといい、それを確認するために。


「そう、なの。」


そううつ向いて呟く彼女は、それを考えていたのかもしれない。

だから、そうはならないようにと、僕は今考えたことを伝える。


「だって、急にいなくなったら怪我したかもって、そう思うでしょ。

 それを避けるために、祖父母は誘ったんだと思うし、多分だけどね。」

「そっか、そうだよね。危ないって言うのは、その、分かってるんだ。」

「うん。」

「でも、これが好きだから。」

「それでいいと思うよ。」

「良いのかな。」

「だって、僕だってこうしてここに来てるしね。祖父母は止めなかったよ。」


そう、あの二人は止めない。

危なかったら、必ず、祖父は止める。昔から、何故危ないのか、それでもやるならどういった対策がいるのかを添えて。

祖母の体が冷える前に戻りなさい、懐炉を持っていきなさい。

きっとそれもその一環だろうし。


「うん。その、どうしたらいいのかな。」

「僕が決めれる事じゃないし。その、悪いとか、嫌だって、そう思うならそれこそ手紙にでも書いてくれないかな。」

「君は相談に乗ってくれないの。」

「僕は祖父母じゃないし。二人がなにを考えてるか、分かるわけじゃないからさ。

 だから、話くらいは聞くよ。こうやって、自分の事をしながらになるけど。」

「えっと、じゃぁ、少し聞いてもらってもいいかな。」

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